第一章16話 『対峙』
一週間後、ドイツ・アメリカ連合艦隊は、マーシャル諸島付近に布陣した。そのことを知った大石たちはすぐにそこに向かった。私たちも戦闘に備えて準備をする。いつ敵が来るかわからない。だからみんなは、気を張っていて、屋敷のなかは緊迫していた。私は、総司とともにいた。私の隣には葵が座っている。それでも部屋のなかは静かだった。しばらく時計の針が時を刻む音だけが響く。私は、少し眠くなって重い瞼を頑張って上げていた。
-太平洋 マーシャル諸島近海-
大石たちが上空に着くと、海面は艦艇がずらりと並んでいた。先頭の戦艦の甲板には、ドイツの海軍大臣であり、世界魔法協会、高速魔法の最高魔法師、シャルンホルストが堂々とたっていた。それを見た確認は、上から声をかける。
「ずいぶんと張り切っているな。アメリカとドイツの連合軍とは、やりすぎじゃあないか。あとで、国民や役人たちに何かいわれるゆじゃないのか。まあ、こんなに戦艦だの集めたって、当たらなきゃ意味ないしな。こちらからしてみれば、いいでかい的だ。おまえは、ここでこれらと一緒に沈んでもらうぞ。」
「それはどうかな。勝算があるからここまできたんだ。それなのに、おまえらは、これしか来ないとはなめられたもんだ。あとでないてせがんだって聞いてやらん。地獄を見るがいい!」
こうして、お互いに罵った後、戦闘が開始された。
-ドイツ支部-
「突き進めー!数はこちらが勝っている。相手を何人かで囲んで、討つんだ。逃げるものは放っておけ!シャルルたちが始末する。我らはただ、敵の大将を討ち取るのだー!」
英国騎士団を指揮するのは、騎士団長であり、予測魔法の最高魔法師、サブリンである。
私は、今、正義のために戦っている。世界を仇なす、プライマリーとか言うテロ集団を倒すために、ドイツにあるアジトに攻め込んでいるところだ。しかし、彼らは予想よりも強い。一人一人が己のために戦っているようだった。ときに、個人と個人との理想のために衝突してしまうことがある。きっといまがそれにあたるのだろう。私は、世界を守るために、世界よりも個人を優先して戦う彼らと戦う。いかなる理由であろうとやってはいけないことはある。彼らはそのやってはいけない罪を犯してしまった。これ以上、好き勝手にさせるわけにはいかない。英国騎士の名にかけて、そして、魔法協会の名にかけて、私は彼らを倒す!
事態はとても最悪な状況だった。二人の最高魔法師が同時にここを攻めてくるとは予想していなかった。俺は、この混戦しているなか、部屋で考え込んでしまっていた。俺の名前はヴォルフ。プライマリーの5番隊隊長でドイツ支部の指揮をしている。今は、助っ人として本部から佐倉梅率いる3番隊と長門佐助率いる6番隊が来ている。しかし、相手は、サブリンとシャルルの連携攻撃と来ている。勝つにはかなりの運が必要だろう。そんなかんじにテーブルに手をついて苦悩していた。
「まだあきらめるのははやいですよ、ヴォルフさん。」
そう控えめに声をかけたのは、向かいのソファに座っている佐倉梅だった。彼女は、まだ12歳の少女でお気に入りのクマのぬいぐるみを抱いている。
「そうそう、らしくないよ。いつもどおりに突っ込んでしまえぇぇ!」
そんな軽いことをいうのは、何を隠そう、俺のパートナーである副隊長のリアだった。パートナーといっても恋人関係ではなくてただの戦闘活動の相棒であって、決して、そういう仲ではない。まあ、でも彼女の言う通りかもしれない。こうなった以上、守るのではなくてひたすら攻撃して抵抗するのみだ。
「よし、決めた。いつもどおり攻めて攻めて攻めまくろう。相手がなんだろうと倒してやる!」
「では、私は、クマさん隊とうさぎさん隊で英国騎士を抑えます。松原さん、私の警護をよろしくお願いします。」
佐倉梅が、副隊長の松原武人に微笑む。松原は、執事のようにふるまう。
「おまかせください。我々一同、梅様の髪の毛一本たりともふれさせないよう、つとめさせていただきます。」
いったい、3番隊やら佐倉梅とやらはなんなのか疑問に思った。そんなことは置いておいて、
「佐助さんも今、英国騎士と交戦中だ。俺たちは、ここの背後を取り囲んでいるシャルル一隊を抑えるぞ。」
こうして、俺たちドイツ支部にいる全隊員は、屋敷外に出て最大出力での戦いになった。
-アメリカ支部-
「さすがっといったところだね。メイソンは強引すぎる。だからこそ、どこかに抜け穴があるはずだ。アメリカの陸軍兵士と魔法使いを使ったって、こちらには強力な戦力が本部から来ている。剣術と暗闇魔法の凄腕、斎藤リリィの8番隊と同じく剣術、物理魔法の凄腕、藤堂百合の9番隊が来ている。それに彼女らの副隊長は、三沢花音、生物魔法の使い手と、霧崎萌花、予測魔法の使い手とここの7番隊副隊長のアドルフォの高速魔法といい、豊富な種類の魔法でなおかつ強力である。たとえ、無敗の米軍大将といえども数は少ないだろう。この俺、アーサーが伝説にふさわしく勝利の剣、エクスカリバーで勝利をつかみとってやる。」
アーサーは、声をあげて命令した。
「全員、出撃せよ!指示は各隊の隊長、副隊長に伝えてある。メイソンを倒すのは俺だ!必ず勝利をあたえてやる!いけぇぇぇ!」
一斉に屋敷から出て、メイソン率いる米軍陸軍、魔法使いたちとの戦闘が開かれた。
-日本山梨の山奥 プライマリー本部-
廊下から足音が聞こえた。この部屋の前で音が止まると、コンコンっとドアを叩く音が響いた。ドアを開け、その人物を見ると、何度か見たことのある顔だった。情報部隊の長である、山崎香耶だ。
「失礼します。太平洋マーシャル諸島付近で戦闘が開始されました。またそれと同時に、ドイツ・アメリカ支部にて、戦闘が開始されました。ドイツには、予測魔法の最高魔法師である、サブリン率いる、英国騎士団と、暗闇魔法の最高魔法師、シャルル率いる、魔術師団が攻め入っているようで、かなり苦戦しているとのことです。アメリカ支部には、物理魔法の最高魔法師、メイソンの指揮のもと、アメリカ本土の陸軍と、アメリカの魔法協会の魔法使いたちが攻め入っているようです。こちらは、今のところ、優勢であるとの報告です。」
香耶は、報告を終えて、総司の返事をしばらく待っていた。総司は立ち上がり、香耶に言う。
「そろそろ、ここにも敵がくるだろう。他の心配をしている場合ではない。屋敷に残っている全員に伝えてくれ。全員、戦闘準備だ、と。」
「了解しました。我々、情報部隊も戦闘準備を早急にしておきましょう。失礼します。」
香耶は、礼をして、部屋から出ていった。それから、総司はこっちを向いて、
「結衣、葵。行くぞ。」
私は、眠い目を擦りながら立ち上がった。続けて葵も席を立つ。そして、3人は部屋から出ていった。
-プライマリー本部入り口正面-
「全員、指定された場所に配置完了しました。」
「絶対にやつらを屋敷に入れるな。俺たちが仲間が帰ってくるこの場所を守るんだ。幸運を。」
総司がワイヤレスイヤホンに話しかけている。私たち、頭首直轄部隊は、屋敷入り口正面で堂々と待機している。織田山門は、正面から堂々とやってくる、と総司は予想している。だから、直接、本部隊どうしが戦えるように私たちはここに待機していた。正面以外は山に面していて屋敷はその山のなかまで続けているので、攻撃しやすいのはここだけということでもあった。
約5分後、向こうからやってくる一つの影が見えた。織田山門である。
「山門が一人できた。全員、構えろ!たとえ、死者を蘇らせようと、一人だけできたことを後悔させてやれ。」
総司がいうと、一斉に魔法を展開させて、それぞれ武器を手に取る。山門もそれを見て、歩きながら魔法を展開させた。それから、以前、呼んだ武将たちを出現させた。私たちと適当な距離をとって静止すると、
「さあ、始めよう。かかってこい!」
8人の武将たちは臨戦態勢をとる。
「ソード・ターン。フィールド。全員、俺についてこい。一人ずつ片付けるぞ。」
総司を先頭にその場にいた者が一斉に走りだし、敵陣に向かう。私は総司の真後ろについていった。
こうして、各地で戦闘が開始された。どちらが先に大将を落とせるかで勝負は決まる。私がいる限り、総司を殺させはしない。だから、私は総司のために戦い続けるのだ。