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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
【第四章】天界編
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第四章1話『夢と天使』

 足が動かない。身体が重い。動けない。少年が銃を私に向けている。「なんで、なんで私を!」この理不尽な状況に思いがこみ上げてくる。でも、声が出ない。苦しくて、息をするのがやっとだったから。そして、無慈悲にも少年は引き金を引いた。発砲の音が耳を貫く。その衝撃を感じて目が覚めた。

 明かりのついていない蛍光灯が見える。ここはさっきまでいた所とは違うようみたい。でも、身体に力が入らず、動けないのは同じだった。どうやら私は簡素なベッドの上に寝ているようだ。布団が肩まで掛けられていた。そして、仰向けのまま視線だけを動かして周りを見る。ここはコンクリートでできた窓一つない小さな部屋だとわかった。反対にそれ以外は何も分からない。


 静寂が流れる。


 その静寂は、この部屋のだけでなく、私の頭の中でも起こっていた。思考が回らず、天を眺める。消えている蛍光灯が大きくなったり、小さくなったり繰り返していた。次第に、私は瞼を上げ下げしてゆっくりとした呼吸のリズムを聞きながら眠りについた。



 再び目覚めたとき、そこには前に目覚めたときと同じ光景が広がっていた。いや、広がっていたとも言えない。だってここはベッドがあるだけの小さな部屋なのだから。そして、さっきと違うことといえば、寝返りが打てるようになったことだった。上体を起こすことはできないけど、横になっている状態なら態勢を変えられた。私は横向きになり、膝を曲げる。この態勢が一番楽。この方が息も苦しくならないし、心臓が静かになる気がするから。そして、布団を抱え込むことによって何かが紛れるのだ。丸くなりながら、再び眠りについた。



 次に目が覚めた時、視界はぼやけてて、息が上がっていた。全身に寒気が走り、布団を深く被る。寒い。けど、熱い。どうすればいいのか考えれば考えるほど、鼓動が速くなり、苦しさが増した。うなだれた犬の鳴き声のような音を漏らしながら、高鳴る鼓動を抑えようとする。でも、体力が持たない。もう息をするのが辛かった。この息を止めたい。きっと息が止まれば楽になれる。そう思った。そして腕に力が入らなくなり、徐々に意識が遠のいていった。



 私は暗闇の中にいた。それはもう黒い霧のなかだった。その霧は吸い込めば吸い込むほど私を蝕み、苦しませた。前に進んでも進んでも霧は晴れない。咳き込みながらも霧を手で気休め程度に払いながら進んだ。すると、遠くに人影が見えた。その人の周りは霧が晴れているようだった。さらに、その人は私を呼んでいるようだった。私はなんとかその人のもとへたどり着く。そこにいたのは、総司だった。総司は疲れ切った私を抱きしめてくれた。私の呼吸が安定するまでそうしてくれた。それから総司は、優しく声をかけた。

「結衣。話があるんだ。落ち着いて聞いてくれ。」

 目を見て一呼吸置いてから続ける。

「そろそろ俺も行かなくてはならない時が来た。」

「どういうこと?」

 きょとんとした私に総司は私の頭に手をポンポンと軽く叩いた。

「わかるだろう。結衣と一緒にいられるのは今が最後ということだ。そんな顔をするな。またいつかどこかで会えるさ。」

「嘘。そんなの嘘だよ。」

「何を必死になってるんだ。今までだってそうだったろう。俺が死んでもまた会えた。だから、次もきっとそうだ。会えるさ。今度は別な姿で。」

 私は涙が止まらず、総司に飛びついた。総司は頭を撫でてくれた。

「最後に渡したいものがある。」

 そういって総司は私から離れると、手を前にかざして刀を手に取った。

「俺の剣だ。まあ、魔力でできたものだけどな。お前の闇を払うことくらいは、できるさ。」

 総司が剣を空振りさせると、周りにあった黒い霧が消えていった。そして真っ白な空間がそこに広がる。

「結衣には二刀流は厳しいだろうから、たまにでいいから使ってくれ。」

「うん。」

 涙をぬぐいながら総司の刀・菊一文字を受け取った。

「さて、結衣そろそろ目を覚ます時だ。俺がいなくても、いや、俺たちプライマリーがいなくてもお前ならやっていける。さよなら、結衣。いずれまた会おう。」

 こうして視界がまぶしくなり、総司の姿は見えなくなっていった。


 目を開けると、何者かの顔が私の顔を覗いていた。

「はっ!お目覚めですか。お加減はいかがでしょうか。」

 彼女はスッと後ろに下がり、直立して言った。どうやら私はこちらでも涙を流していたみたいだった。それを手で拭ってから、彼女に聞く。

「まだ、起きることはできないけど、大丈夫です。ところであなたはどなたですか?」

 見たところ、彼女は軍の制服でもなく、看護師の格好でもなく、メイド服を着ていた。

「これは失礼いたしました。私は、第八天使『大天使(アークエンジェルズ)』のドロシーと申します。この度は主を迎え入れるために参りました。よろしくお願いいたします。」

「・・・。アークエンジェルズ?イタリアの魔法院の方ですか?」

「いいえ違います。あれは人間たちが私たち天使を模して作った組織です。私は本物の天使なのです!」

「・・・本物の天使?」

「はい、そうです。アークエンジェルズというのは日本語で言うと大天使といいます。大といっても、天使の中では下から2番目の階級となります。そして、このように個別の姿を持てるのは大天使からなのです。」

「・・・はあ、そうですか・・・。」

「それで、私は主天使様から任を授かり、地上へ参ったのです。」

「・・・。」

「ええっと、私についてきてもらってもいいですか。」

「いいって言いたいところだけど、これ以上動くことができないので・・・。」

「そこは私が連れていきますので、ご心配なく。」

「そう、じゃあいいですよ。」

「それでは、また眠ってもらいますね。」

 するとすぐに眠気が襲ってきて、私は再び眠りに入った。


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