第三章38話『ハワイ争奪戦』
日本へ戻った私は、すぐに有賀総長の下へ向かった。
「ただいま戻りました、神城結衣です。」
「ああ、悪いね。状況はどこまで把握できるのかい?」
部屋に入り、挨拶をするや、とり急ぐように有賀総長は話を進める。
「通知の通りのことは。」
「それじゃあ、その続きだが、おととい、飛行戦艦が再び魔法軍による襲撃を受けた。そして、2隻あったうち片方が敵に奪われた。わが軍は、その飛行戦艦の機密を守るため、残った1隻で奪われた1隻を攻撃し、撃沈させた。飛行戦艦は8隻就任しており、内半分を戦場へ投入した。ペアとなって行動し、戦線を支えた。しかし、そのうちの一つが崩された。やはりアメリカの軍事力は大きい。そして、今日。ついにハワイ基地がアメリカ陸・海・魔の部隊によって一部が奪われ、以後、我々の勢力圏が奪われ続けている。」
「つまりは、ハワイが落とされたのですね。」
「その通り。現在も攻防戦が続いている。そこで君の力が必要だ。ハワイが潰されると、日本本土への攻撃も容易になるだろう。これより、神城結衣に命ずる。ハワイを死守せよ。」
「わかりました。」
「今日は、準備のため休むとよい。時差もあるからね。出発は明日、5時。それがおそらく戦場を維持している部隊の限界だろう。一人、ハワイへ行き、敵を殲滅してほしい。」
「了解です。では、私はこれで失礼します。」
「武運を祈る。」
こうして、私は久しぶりの自分の部屋に向かい、明日の準備をした。
4月7日。私は黒野大将が開いてくれたであろうゲートをくぐり、ひとりハワイへ向かった。久しぶりに着た軍の制服は私をやる気にさせる。ゲートの先は日本軍が立てこもっている部屋の一室だった。
「お疲れ様です。私は神城結衣です。状況を簡単に教えてください。」
私はすぐに挨拶をし、現地の人から状況を聞き取った。
どうやら、施設内で攻防が続いているようだった。それから、外では、海軍が死闘を続けながら敵を排除しようと頑張っているみたいだ。現在施設内の退路は断たれており、今もなお銃声が鳴り続けていて、敵をせきとめている。私の最初の目標はここから彼らを救い出し、海軍と合流させることであり、施設内にいる敵の殲滅だった。
「わかりました。私が敵を殲滅します。銃声が聞こえなくなったと思ったら、ここから脱出をはじめてください。私は一人で大丈夫ですし、他にもやることはあるので構わずに自分たちのことだけを心配して行動してください。では。」
部屋の鉄扉を開けて、すぐにしめると、予測魔法で敵の位置を把握し、高速魔法で加速した。まずは銃撃戦が行われているところへ行き、味方を無視して敵へ突っ込む。そして、サッと斬りつけて絶命を確認すると、今度は敵がいる部屋を一つずつ突入しては殺し、突入しては殺しを繰り返した。施設内は入り組んでいて移動には苦労した。だから、なるべく早く敵を殺した。そして、早くも私の存在を悪魔としてアメリカ軍部隊の間に広まった。しかしながら、敵の司令官は私が来ることは分かりきっていただろうに。それでも、こんな状況にさせたのは誰のせいか。誰のせいでもないのだろうけど、司令官をまずは殺さないといけないかな。施設内の敵の殲滅を完了させ、外へ出る。潮の香りがしたが、施設内から漂う死の香りで台無しだ。閉じこもっていた味方部隊は脱出をはじめた。見ると、外も死でいっぱいだった。私は、空高く上り、再度状況を確認する。遠くに艦隊が見える。東側にいるのは日本ので、西側にいるのはアメリカだろう。数ははるかにアメリカの方が多い。そして、敵艦隊の詳細な情報も分析魔法によって分かった。敵指令は、空母エンタープライズに在り。私は、すぐに加速し、敵艦エンタープライズを攻撃した。まずは火炎弾を6発加速したまま放ち、その威力で空母を半壊にさせた。それから、対空砲に狙われるようになったけど、この速度ではあたるはずもない。この勢いで船の甲板目掛けて剣を振り下ろした。物理的な攻撃ではあるが、魔力がなければ船なんて割れない。私には少しばかり剣から伝わってくる衝撃が来る程度で剣も壊れなければ、手や腕も痛めない。船を割った私はすぐに浮上し、周りの船から距離を取るように飛ぶ。すると、空中にゲートが出現し魔法使いたちが次々と出てきた。もちろん、それはアメリカの魔法使いたちである。
「やあ、君が有名人のユイカミシロかい?僕の名はドルト。エマに代わって君を倒しに来たよ。エマとはライバル関係ではあったけど、いいやつではあったよ。まあ、元帥殿に気に入られてたってのは別だけど。」
「なんの話?」
「おっと、話しすぎちゃったかな。エマが死んじゃったおかげで僕が前線に出ることなっちゃったんだ。でもまあこうしてエマが倒せなかった相手がここにいるってことは僕が君をやっつけてしまえば僕はエマより優秀ってことになる。というわけで、まずは君がどんな魔法使いなのか見学させてもらうよ。さあ、みんな頑張って!」
そうして、ドルトという少年は後方に下がり、他の魔法使いたちが私の前に立つ。各々魔法を詠唱し始め、こちらに攻撃をする。でも、正直私はもう慣れた。集団で魔法を放ってくるのは強力な魔法を使えないと言っているもの。私は魔法を跳ね返す結界で来たる魔法攻撃を返した。すると、跳ね返ってきた魔法を避けた魔法使いたちは散開し、各々のタイミングで攻撃をする。でも、そんなの関係ない。すべての魔法を弾き返す。そして、相手が消耗し、諦めるのを待つ。しかしながら、私の方に異変が生じた。展開していた結界が弱まっているのだ。それどころか、相手の放つ魔法が強くなってきている。私は結界から距離をとるために後方へ飛んだ。そこで背中に変な感触がした。
「おっと、ちょっと外しちゃったみたい。本当は心臓を一刺しのつもりだったんだけどな。」
後ろを振り向くと、ドルト少年がいた。
「驚いた顔をしているね。君は予測魔法が使えるのにどうしてと思っている。それは僕が何かしたから。それだけさ。あとは自分で考えるといいよ。」
彼が何かしたことくらいはわかる。彼の魔法が何なのか。それがわかるまでは様子をみないと。




