第三章37話『別れと休息』
日独魔法連合部隊は、大西洋上での戦闘が終わり、大洋艦隊の護衛を経て私たちはキールからワシントン基地へ飛んだ。その後、ワシントン基地の明け渡し日までは静かに過ごし、私はアンと常に一緒にいた。エーミール中将はアンにとって大切な人だったのだろう。私は師匠としてアンが立ち直れるまでアンの身の回りのことをこなした。学園の生徒たちは外で見回りをしていながらも、ケンカしていたり、遊んでいたり、おしゃべりしていたりと心配はなさそうだった。そう思っていると、未希とミハエル中将が私たちのもとへやってきた。
「アンの調子はどうだい?」
「ミハエル中将、こんにちは。アンはまだしばらくは、ってところです。」
「話があるから来てくれと言いたいところだが、その様子だとここで話した方が早いな。」
アンは私の腕に引っ付いている状態で、私はあまり動けない。まあ、食事とかお風呂とかにアンを連れていくには丁度いいけど。そんな思考を巡らせながら、ミハエル中将に問いかける。
「話とは私たちのこれからについてですか?」
「そうだ。このワシントン基地の明け渡しが決まった。」
「明け渡し?アメリカに返還するのですか!?」
今度は未希がミハエル中将に問いかけた。
「そういうことだ。戦争は国連の働きにより停戦されることとなった。この寒期に戦闘は不可能であり、自国の人々の生存を優先することとなり、ワシントンはその上でアメリカの政治系統の重要な場所となる。アメリカ国民を守るためにこの地を解放して欲しいとのことだ。」
「ドイツはそれを認めたのですか?」
「そうだ。」
「苦労して攻め入り、手に入れたこの重要な地をそんな簡単に?」
「未希、落ち着いてくれ。我々の国家はこの拠点を維持できる余力はない。国家は、軍は、国民は疲弊している。この地を我がものにし続けたところで現状、我々いち魔法部隊しか配備できないのではあっても無駄なだけだ。」
「分かりました。」
「明け渡し日は15日だ。停戦協定が締結されるとともに我々はここを去る。それから、日独魔法連合部隊も解体となる。日本部隊はそのまま本国へ帰還せよとのことだ。」
「アンはどうなるのですか?このまま私がアンを引き離せばアンは・・・。」
「そうだな。それについてはこちらからなんとかしておく。だが、生徒たちは日本へ帰ってもらうぞ。」
「分かりました。未希会長、会長として今後、日本へ帰るまでの部隊の指揮を発揮してください。それから、学園のことも上手くやっておいて下さい。」
「了解です。」
こうして、私は学園の生徒たちから行動を別にすることが決まった。
明け渡し日、国連の関係者とアメリカの役人たちが現れて、ホワイトハウスの前で簡単な式が行われた。主にミハエル中将が接待し、私たちは後ろから見ているだけだった。それから、魔法を使って私とニンフェンブルク小隊はドイツへ、未希たち学園の生徒は日本へと帰った。
ドイツに着いたら、さらに私とアンは前にいた屋敷へ向かうため、小隊のみんなともお別れになった。私はミハエル中将をはじめ、小隊のみんなから別れの言葉とアンのことを頼まれ、みんなに見守られながらゲートでその場を去った。
屋敷での生活が再び始まった。前はアンが私の世話係だったが、今回は反対に私がアンの世話係だ。この屋敷にこんなにお世話になるとはプライマリーにいた時代の頃は到底思わなかった。
時が経つとともにアンの様子も次第に良くなっていった。1ヶ月ほどでいつもの調子に戻った。けど、私から離れようとはせず、常に一緒にいることがほとんどだった。2ヶ月ほど経つと、アンは訓練をするようになった。私は、たまに葵や総司を召喚しつつ訓練に付き合った。そして、4月に入り、有賀総長から連絡がきた。その内容は、日米戦争の開幕とその戦況についてだった。時系列に記された戦況は、日米の動きを簡単に示していた。
「1月20日、2回目の日米首脳会談後、現地にて源原鳥海内閣総理大臣暗殺未遂事件。
1月24日、アメリカ太平洋艦隊の出撃を確認。
1月27日、両艦隊が邂逅、戦闘開始。日米戦争の開戦と称す。
2月5日、ハワイ戦線、連合艦隊直轄部隊が大破。第1次ハワイ襲撃。
2月10日、飛行戦艦4隻が出港。
2月15日、第2次ハワイ襲撃。
3月1日、第3次ハワイ襲撃。飛行戦艦到着、援護。
3月3日、第一艦隊が、ハワイに到達。
3月5日、直轄部隊が本格修理のため第六艦隊の護衛のもと横須賀・呉に向けて出港。
3月17日、飛行戦艦2隻がカリフォルニア沖近海にて敵艦隊を補足・迎撃。
3月23日、別飛行戦艦2隻がパナマ運河の破壊に成功。
3月25日、敵ミサイルが飛行戦艦に飛来、撃破。
3月26日、敵宇宙攻撃により、飛行戦艦2隻が飛行不能。
3月28日、さらなる空襲を受け、迎撃。
4月3日、敵魔法軍による飛行戦艦襲撃。別飛行戦艦はカリフォルニアの基地を攻撃。」
これが、送られてきた情報。そして、召集命令が最後にあった。
「明日、4月6日に日本へ帰還、有賀のもとへ出向せよ。」
どうやら、新兵器を投入したようだけど、思うように上手くいっていないようだった。それで最終兵器である私に召集がかかったということだろう。私はモノではないのに。
「アン、大事な話があるの。ちょっと、そこに座ってくれる?」
私は、アンにこのことを話した。アンは引き留めようとしていたが、何も言わずに受け入れた。
そして、翌日。ミハエル中将がやってきて、アンのことを頼んだ。
「結衣!」
不安そうに私を呼ぶアン。
「大丈夫だよ、アン。私は死なないから。」
「うん。いってらっしゃい。」
「いってきます。また会おう、アン。」
そう言って私は、ゲートをくぐって日本へ戻った。




