第三章32話『大西洋決戦IV』
2575年12月24日、作戦続行日。
雪が降るなか、艦隊は静かに出撃を始めた。ドイツの大洋艦隊、日本艦隊、ローマ帝国海上騎士団の順に隊列を組み、西へ進んだ。日独魔法連合部隊とローマ帝国の魔法院の魔法使いたちはその少し先の上空を飛行する。先日の戦闘で日本艦隊の無人機搭載空母2隻が沈んでしまったこともあり、航空戦力不足補強のために対空見張りはより一層強化された。
約2時間後、水平線の向こう側より現れたのはジェシカ率いるアメリカの魔法集団だった。
「アメリカ魔法軍です!」
いち早く姿を捉えたアンが叫んだ。
「全員、戦闘開始。それから結衣は別行動だ!」
ミハエル中将は指示を出す。みんなが敵に向かって攻撃し始める。それを見ていた私に未希が声をかけた。
「結衣、みんなのことは私がなんかする。大丈夫だから、行って。」
「分かった。行ってくる。」
こうして私は艦隊から離脱した。
私は南へ飛び、敵の位置を探る。そして、予測魔法によって敵の位置を炙り出した。そこにいたのはアメリカ海軍の第2任務部隊だった。赤道に近いところに多数の空母が北へ睨みを効かせていた。そんな空母によ大艦隊に対して私は上空の遠方より魔法を詠唱した。
「ギリシア神話のオーケアノスよ、
地の果てに流れる海流を生み出し、
世界の水を循環させよ、オーシャン・スパイラル!」
海上に複数の巨大な渦潮を出現させる。
艦隊は大混乱にあるなか、第2任務部隊司令長官であるベント・スミス海軍大将は冷酷な指示を出した。
「渦潮に近い原子力空母に向けて対艦ミサイルを発射せよ。」
「司令、それでは味方が。」
「このままでは全滅だ。任務を全うしてくれ。」
部下を言いくるめて、対艦ミサイルを発射させて大爆発を引き起こした。爆風と荒れ狂う波で艦隊はさらに列が崩れ、衝突することも起こった。
私はそんなところに得意のファイアボールを叩き込む。
「戦闘機全機発艦。敵魔法使いを撃ち落とせ!」
ベント・スミス海軍大将は航空戦力を投入した。しかし、私は姿を晒すことなく、高速で敵を炙り落としていく。全機を撃ち落とした頃には残った艦隊は進み始めていた。
私から逃げることは許さない。
再び詠唱を始めた。
「ローマの最高神ユーピテルよ、
天を操り、雷を起こせ、
天使の羽を付与し、われの願いのために、
事象を支配せよ、
インペリアル・エンジェル・スカイ!」
天使の翼を背につけ、瞬時に翔んだ。
海面を手で触れ、一定範囲凍らせる。動きを止めた艦隊に雹雷を浴びせる。日光を厚く黒い雲で隠し、視界を奪う。それから、魔法を2つ詠唱した。
「満天の星々が光り輝く、星空の神、アストライオスの恩恵を受け、われに星を支配させたまえ、スター・コントロール。」
「我、アストライオスの化身として、汝に天罰を与える、メテオ・シャワー。」
詠唱を終えて数分後、黒い雲を突き破って小さな隕石が艦隊に向かって落ちていく。轟音と爆風と大波が起こり、大艦隊は消滅した。
その後、私は天使の翼を付けた状態で北東側へ翔んだ。数分と経たないうちにフランス近海に到着する。そこには出撃したばかりのフランスの艦隊があった。先の戦いで地中海艦隊と大西洋艦隊は欠員が出ている。決戦ということもあってか今回は両艦隊が連合で出撃していた。そのフランス艦隊を倒そうとしたところ、予測魔法で不穏な空気を察知した。原子力潜水艦によるミサイル攻撃を行うようだった。それは絶対に阻止しなければ。わたしはわたしは海中に渦を作って周辺の潜水艦と水上艦隊を引き寄せる。あとは自滅してくれるのを待つだけ。しかしながら、潜水艦は脱出できたのもいたので、氷漬けにして封じた。脱出した潜水艦の対処を済ませると、渦の流れも止めた。これで、相手の気力まで奪うことができただろう。フランス艦隊は方向転換して帰って行った。
次は、北西方面へ翔ぶ。そこにいたのはイギリス海軍グレートフリートとその上空に魔法使いたちが多数いた。その中の何人かが名乗りを上げてきた。
「私は王国魔法軍、第2魔法師団司令長官アークライト。」
「同じく王国魔法軍、第2魔法師団所属ライオン大隊隊長ガイル。」
「私は王国魔法軍、第3魔法師団司令長官アヴァロン。」
「同じく王国魔法軍、第3魔法師団所属ネプチューン大隊隊長マグワイア。」
「私たち4人は、王国魔法貴族院の座を有す名家である。先の戦いにおいてブルーノ卿を倒したのは、汝の部隊だったか。」
4人が名乗り終えた後、アークライトという長い金髪で1人だけ派手で剛健な鎧を着た魔法使いが問いかけてくる。
「ブルーノ卿というのかは存じ上げませんが、たしか、ブレイズ家の当主ゲーアノートという者は共に行動していたドイツの部隊の中将たちが倒しました。ところで、あなたはなぜ1人だけそんな格好をしてるのでしょう?」
「無礼者!このお方は第三魔法軍卿、我が軍のNO.3にあたる方だぞ!」
「よせ、イブ。彼女にそんなことは関係ない。結衣殿、私の従者が失礼申した。それから、私がこの鎧を着ているのは、ルールによるものだ。軍のトップ3には騎士の鎧を着ることが許される。そして、それは地位を表すと共に誇りを表す。」
「理解しました。先ほどの発言でご不快にさせてしまったことをお詫びします。」
私は一礼をする。
「では、日本軍所属、神城結衣、参ります。」
そう宣下して、空高く舞った。




