第三章29話『大西洋決戦Ⅰ』
大洋艦隊と海鈴大将率いる日本艦隊は大西洋に進出、宮野少将率いる第一艦隊とローマ帝国海上騎士団もジブラルタル完全制圧後、大西洋に進出を完了していた。両艦隊は直ちに航空機による索敵を行う。
一方、ワシントン基地よりミハエル中将率いる日独魔法連合部隊はフロリダに移動し、敵艦隊の状況を確認していた。港湾には第1群任務部隊の姿はなく、第2群任務部隊だけが確認された。しかしながら、ミハエル中将をはじめとしたドイツの魔法使いたちは異変に気づいた。
「艦艇の数が多すぎる!」
「静かにしてください、ミハエル中将。透明化の魔法をかけているとはいえ、音までは消せないんです。」
驚いて声をあげるミハエル中将に対してアンが注意する。
「すまない。だが、異常は異常だ。これまでの戦闘においてアメリカが損失した艦艇はどれだけあって、何なのか分かるか?」
「そこまでは分かりませんよ。」
「予測魔法でもダメか?」
「ダメです。」
「結衣もか?」
「うん。なんだかテレビの砂嵐みたいな感じで読み解けない。」
「テレビの、スナアラシ?」
「モヤモヤしてるってこと。」
「ジェシカたちが魔法で隠蔽してるかもしれないな。こちらもはやく艦隊と合流しよう。状況を共有しなければな。」
「この基地はこのままでいいんですか?」
その場を去る前に須藤未希がミハエル中将に質問した。
「攻撃して潰しておきたいところだが、こちらが放棄してから短期間でここまで復活した基地だ。何があるか分からない。ここで無駄死にしたいのなら1人で勝手にやればいい。ただし、その場合、名誉どころか軍令違反で後世まで家名に傷がつくことになるぞ。」
「わかりました。」
須藤未希をなだめ、ミハエル中将は指示を出す。
「よし、アン、みんなを転送できるか?」
「はい。」
「場所は直感で決めていい。それじゃあ頼む。」
アンはみんなを転送するために文字を描き、魔法を実行させた。
転移した先はすばらしいことにドイツ海軍大洋艦隊と海鈴大将率いる日本の第三艦隊の上空だった。
「さすがはアンだな。俺が鍛えただけある。」
「兄さんは、命令を出していただけだろう。」
「おまえだって同じじゃないか。」
「何も私が鍛えたとは言っていない!」
「ちょっとそこケンカしない!」
ミリー大佐がエーミールとミハエルの兄弟げんかを制止する。
「だいたいなんでおまえがここにいるんだよ。ここは俺の部隊だぞ。」
「私の指揮下にあるからで、責任も指揮権も私にある!」
「んん、うんっ。あのすみません。ここは戦場です。兄弟げんかはよそでやってください!」
なかなかけんかをやめない2人に今度はしびれを切らした未希が割りいった。
「あ、ああ。すまない。取り乱した。」
ミハエル中将は謝り、エーミールも口を閉じた。そして、ミハエル中将は大洋艦隊司令官メイ中将のもとへ報告に向かった。私も報告に向かう。
日本第一艦隊旗艦の戦艦長門へ赴き、宮野少将と会った。
「失礼します。神城結衣です。」
私は、魔法で転移し、突然現れたので艦内は動揺してしまった。宮野少将は状況を察し、咳払いして私の話を聞いた。
「確か君は魔法学院の学園長をしていたね。それでそちらは何か情報をつかんだのかい?」
「はい。現在、敵海軍施設フロリダを偵察したところ、港には第1群任務部隊は見当たらず、第2群任務部隊のみが確認できました。」
「大西洋艦隊は出撃済み、さらには艦隊総軍が待機していると。」
「問題なのは、待機している艦艇の数が多いということです。」
「敵はアメリカなのだから、日本に比べて多いのはわかっている。」
「いえ、アメリカ海軍は以前のドイツ軍のアメリカ侵攻において多くの艦艇に被害を受けているはずです。ミハエル中将らドイツ軍はそのことをよく知っています。しかし、明らかに艦艇の数は減っていないとのことです。」
「それはつまり、アメリカの艦艇はすぐに修復・復元が可能ということか?」
「それはわかりません。私が予測魔法を使い情報を探ろうとしましたが、隠蔽されているようで探ることができませんでした。」
「わかった。では、一つこちらも報告がある。私は日本艦隊の副司令長官となった。なんと、この海戦に及川海鈴大将が参戦することになったのだ。司令は、第三艦隊の戦艦金剛に乗艦している。日本艦隊旗艦は金剛だ。今の報告を含め、今後はそちらに報告するように頼む。」
「了解しました。」
私は、金剛へ移り、海鈴大将と挨拶を交わし、同様の報告をした。
「報告、ありがとう。あなたたちは艦隊の上空、あるいはその近辺で艦隊の防空を担ってほしい。」
「了解です。ではこれで失礼します。」
そして、わたしは日独魔法連合部隊のもとへと戻った。ミハエル中将はすでに戻っており、魔法による索敵を開始していた。そしてついにアンの魔法によって敵艦隊を発見した。ミリー大佐と葛西天遥にそれぞれ伝令にいかせ、残った者で防御結界を展開した。それからすぐに味方艦隊の空母から艦載機が発艦された。




