第三章27話『海軍将校のプライド』
日本代表の4人はドイツ海軍の拠点キール軍港にて場所を借りて食事を兼ねて話し合った。
「そろそろお腹のほうは満たされたころだろうか。」
海鈴大将が話を切り出す。
「ええ、それで話というのはなんなのかな?」
鳥海総理がきく。
「本作戦に私も参加しようと思うのです。」
「参加ですか!?それは戦場に出るということですか。」
「そうです、宮野少将。」
「なるほど、海鈴は連合艦隊総司令長官だから直接指揮を執ることがあっても何の問題もないわね。」
「総理、しかしながら万が一のことがあれば日本は大事な一角を失うことになりますよ。」
「でも、才能あるものを出し惜しみして負けるなんてことがあったらそちらのほうが一大事。彼女の指揮を一度体験してみればわかるよ。」
「実戦の経験があるのですか?」
「実戦の経験はない。私はそもそも海上自衛隊時代にそれに憧れて自衛隊に入りたいと思っていたところ。ちょうど入隊の頃に日本国防海軍へと変遷の時期にあたった。除隊する人が多く、たまたま演習で艦隊を指揮する機会があったからそこでやってみたくらいしかない。それで有賀総長に気に入られて大将にまで早々になってしまったのだが、これでも私は将校なのだ。大将とは名だけで何の実績もないのはいかがなものか。だからこそ、この重要な作戦を成し遂げて本当の将校として海軍のトップにいたいのだ。」
「まあそんなに心配することはないと思うな。海鈴が指揮したときの演習はものすごかったらしいから。」
「わかりました。総理がそれでいいのならこれ以上は止めません。では、どちらの艦隊を指揮するのですか?」
「基頼少将の第三艦隊だ。」
「まあ、そのほうがドイツ軍の軍勢が大きいですからね。私は構いませんよ、副司令官として就かせていただきます。」
「そうなると、連合艦隊では一番階級が上になるので大洋艦隊は反発するのでは?」
「宮野少将は心配性だな。その辺はなんとかなる。このあとあちら側と確認することになっている。気になるなら宮野少将も来るか?」
「よろしければご一緒させていただきます。」
「わかった。」
「じゃあ私はそろそろ用済みみたいだから。一人寂しく日本に帰ります。」
「といっても、魔法で一瞬でしょう。」
「そうなんだけどね。ごちそうになったわ。では、良い知らせを待っています。また。」
鳥海総理はそういって付き人にゲートを開いてもらい、すぐに日本へ帰ってしまった。
「さて、我々も行こうか。」
海鈴大将が席を立ち、それに少将2人が続いた。
部屋を移し、今度はドイツ海軍との話し合いが始まった。簡単にまとめると、出撃後すぐにイギリスの本国艦隊と戦闘になる予定であるがその時にはドイツ海軍の全戦力を投入し、大洋艦隊の第一艦隊から第三艦隊に加え、潜水部隊まですべてを使って迎撃することになっている。敵艦隊を撃滅後、大洋艦隊の第一、第二艦隊と日本の第三艦隊はイギリス北部を廻って大西洋に進出し、決戦に臨むことになっている。各艦隊の司令官によって指揮を執り、お互いに友軍として共闘することになることも確認された。なお、日本艦隊は第一艦隊と第三艦隊が合流した場合、海鈴大将が指揮を執ることも確認された。さらにドイツ戦艦には魔力砲というものがあることも共有された。宮野少将は共有する情報を持ってローマ帝国へ戻り、さらに海上騎士団と確認を行う。ジブラルタル完全制圧の際には、航空騎士団つまりローマ帝国空軍と陸上騎士団の援護として行動するようだ。前回は第三艦隊が海峡を抜けるための陽動として航空騎士団による爆撃を行うのみだったらしいが、今回は上陸までして完全に乗っ取るつもりでいるらしい。魔法院についても少し情報を聞き出した。魔法院は本来、ローマ教皇の配下であり、天使による階級の名称を用いて活動する魔法部隊。ルキウス皇帝によってペトロ・ローマ教皇らを帝国に取り込んだ結果、魔法院の主はローマ教皇とその枢機卿だけでなく、ルキウス皇帝とその元老院までになったというのだ。宗教的な色が強いということ以外はだいたい他の国の魔法軍と同じであると見ていいらしい。こうして、ぞれぞれの情報を共有していたのだった。
11月16日、作戦開始日。その日ドイツは雨模様で、ナポリは厚い雲で覆われていた。ドイツ海軍より、潜水艦隊が前日の夜間より潜航をはじめ、さらに本日、大洋艦隊第三艦隊が先行して偵察に出た。その後、キール運河を通ってきた第一、第二艦隊が出撃し、それに海鈴大将らが乗る第三艦隊が続いた。出撃後すぐに先行していた第三艦隊から敵艦隊発見と戦闘開始の情報を受けた。これがユトランド沖大海戦の始まりである。Uボートによる魚雷で牽制しつつ第三艦隊が迎撃をする。しかしながら、第三艦隊が捉えたのはイギリスの本国艦隊ではなかった。機動力のある巡洋戦艦を中心としたイギリスの地中海艦隊であった。




