第三章25話『哨戒』
11月11日、宮野少将率いる第一艦隊は昨日にパナマ運河を超え、カリブ海を通過し、大西洋に進出していた。現在は少し気を緩めて休息を兼ねてゆっくりと大西洋上を航行していた。太陽が下がりはじめる昼過ぎに、レーダーが敵機を感知した。その一報を受けて宮野少将も任に戻る。
「状況を教えてくれ。」
「現在、東側へ進行中のところ、右舷南側より敵の哨戒機集団を察知しました。」
「敵は南側にいると思っていいのか?まずはこちらも哨戒機で南側を探ってみよう。」
「了解しました。」
無人機を発艦させて南側を探索する。しばらくすると無人機から敵の情報が伝えられてきた。
「敵艦隊は赤道付近を航行中!北上しています。」
「敵の編成は?」
「空母6、戦艦2、重巡1、軽巡3、駆逐艦11です。」
「わかった。おそらくこちらの存在はすでに周知されただろう。無人機が帰投し次第、最大戦速で大西洋東側のアフリカ付近まで移動する。」
「司令!それが哨戒機が迎撃を受けて撃墜されたようです!」
「ならば、早急に速度を上げよう。」
艦隊は速度をあげて航行を続けた。
一方、時は遡り11月8日、スエズ運河を通ってきた日本艦隊スエズ組はジブラルタル海峡を通過し、アメリカ、イギリス、フランスと、それぞれの艦隊に追撃をされ、すべての追手を断ち切り北大西洋海流の北側にてすべての機関、エンジンを停止し、海流の流れに任せた。基頼少将は、各艦少人数で警戒の任に就かせ、他のものには全員休息をとらせた。交代で警戒しながら漂流を約1日続けた。そしてフェロー諸島付近を通過したことを確認すると、機関を始動させ南下を始めた。しかしながら、すぐに敵艦隊が現れる。そのことは基頼少将も承知していた。それはフェロー諸島の少し先にイギリス領であるシェトランド諸島があり、そこにスカロウェイ基地がある。海軍と空軍の基地であるため、すぐに見つかり戦闘になることはわかっていた。ただあちらはドイツのほうを警戒しすぎていたせいか、こちらに気づくのが遅すぎることに加え、やってくるのも遅かった。基地は島の南西部にあることから、艦隊は島の西側を通過すべく最大戦速で航行する。これによって敵艦隊との射線が切れる。そして次に来るのは、空から。予想通り、敵空軍機が艦隊に接近するのをとらえる。対空ミサイルで迎撃し、敵を追い払う。その後も度々敵機が襲ってきたが、その都度迎撃を行い、無傷で航行を成し遂げた。敵の攻撃が止んだ後は、燃料問題を考慮し、速度を落とし、燃費ができるだけいい速度で航行を続ける。そのため、目的地であるドイツには10日の深夜に到着し、艦隊はキール軍港の出入り口に位置するブルンスビュッテル付近に停泊したのであった。
話は戻り、大西洋を横断していた第一艦隊は深夜に大西洋東側のアフリカ付近に達した。そこで休憩を入れ、その際に再び哨戒機を飛ばした。近くの海域には敵艦隊はいないようだったのでそのまま数時間ほど休息した。そして11月12日夜が明ける前に艦隊は再び活動を始めた。北上をはじめ、午前のうちに魔境・ジブラルタル海峡にさしかかる。陸上からの攻撃に警戒しながら、通過する。監視はされていたようだったが、攻撃を受けることはなかった。しかしながらこれで敵に艦隊の位置が渡ってしまったことは確かであろう。無事に海峡を抜けた日本艦隊パナマ組はローマ海軍のナポリ基地へと到着した。これによってヨーロッパへと派遣された日本の艦隊は目的地へと辿りついたことになる。神聖ドイツ=ローマ帝国と日本との共同作戦のため、司令官たちは情報を共有し、搭乗員たちは長旅における疲れを久しぶりの地上にて癒す時間を経て、後の大規模な戦闘を控えることになった。
11月14日、第三艦隊の基頼少将や第一艦隊の宮野少将はベルリンにある会議室に来ていた。そこに集まっていたのは彼らだけではなく、日本の首相・源原鳥海や日本国防軍海軍大将・及川海鈴大将も訪れていた。二人の少将は久しぶりの再会ながらすぐに会話を止め、その二人のもとへ行く。
「「おはようございます!」」
元気よく鳥海首相と海鈴大将にあいさつする。
「おはようございます。」
とあいさつがかえってくる。
「なぜここにいらっしゃるのですか?」
「それはこれから大事な作戦会議があるからだよ。これは海軍どうしだけの連携にとどまらない。いまや2つの国となってしまったが、ドイツ、ローマ帝国、日本が連携しなければ、敵であるアメリカ、イギリス、フランスには勝てない。ここまで来るまでにどれだけ大変だったのかをよく知っている君たちならわかるよね。敵のパワーは強大です。そして、現在お互いの国土で戦闘することを拒んだ結果、実質どこの国土でもない大西洋で海軍勢力による決着へと進みそうなのです。その戦闘においてどれだけ優位に進められるかがキーです。単に海軍だけではわからない。だからさらなる連携を行うべく私たちは国の、軍の代表として来ています。」
「詳しいことは会議でわかる。君たちと直接会うのははじめてですね。私は海軍大将を務めている及川海鈴と申します。海軍のことは参謀総長である有賀に任せきってしまっていてごめんなさい。有賀総長は昔、海軍にいたこともあるから十分安心して任せられると思っているから、今後も総長のことよろしくお願いします。」
海鈴大将が鳥海首相の回答の後に自己紹介をする。
「海鈴大将と有賀総長とはどういう関係なんですか?」
基頼少将はそんなことを訊いてみる。
「それについては私から説明させてもらおう。」
鳥海首相が口を挟んで説明を始めた。
「もともと、有賀総長とは私は政治の面で一緒にいました。有賀総長は私の政治を一番古くから支持し、良き協力者でした。彼は軍人であったため文官である私をあまり補佐することができなかったのです。それで彼は軍の内部において私の助けとなる人たちを束ねました。彼は私が不利である年齢の壁を乗り越えてさせてくれたのです。彼によって私はこの若さで総理をやれているといってもいいでしょう。彼の年齢が高く、軍部において位が上であったことから、私より年上の人でも私を支持し、行動してくれる人たちがたくさん増えました。陸軍大将である東条一誠大将や空軍大将の井上光美大将だって彼がいてくれたこそ繋がりができたのです。そして、海鈴も。海鈴は私より年下でありながら、有賀総長の推薦によって海軍大将となり、私を支えてくれます。私と海鈴からして有賀総長は親切にしてくれるおじちゃんっといった仲でしょう。有賀総長はこのように日本の政界と軍部において年功序列とかいう慣習を取り払い、実力あるものが統率できる状態にしてのけたのです。」
「鳥海総理、話が長いです。もう会議の時間です。さあみなさん行きましょう。」
海鈴大将に催促されて4人の日本代表は会議へと臨んだ。




