第三章14話『ブレイズ・マハト(ブレイズ勢力)』
「ギリシア神話のオーケアノスよ、
地の果てに流れる海流を生み出し、
世界の水を循環させよ、
オーシャン・スパイラル!」
私は水属性の魔法を使い渦潮を出現させて、ゲーアノートの炎を吸収させた。渦潮は魔力そのものを吸い取って大きくなる性質を持っているから炎に水が効かないとしても多少の効果はあるはず。
「呑み込め!」
ゲーアノートはその一言だけ発し、炎は渦潮よりも大きくなって渦潮を丸呑みにした。でもそれは読み通り。私の狙いはゲーアノートに近づくこと。あの技を使ってみることにした。
「天然理心流、三段突き!」
剣術の心得なんて縁がなく、これは見真似で魔法による多少の修正は入ったが、三段ではなくただの突きだった。それでも攻撃はゲーアノートを貫いた。しかし、手応えがない。と思ったら、ゲーアノートの身体が燃え上がって消えた。
「フフフフフ。私を倒したと思ったら大間違いだ。当主が最前線で戦えばリスクが大きかろう。それは分身であり、私自身ではない。分身なら幾らでも作ることが可能だ。さて、貴様らは何体まで耐えれるかな?」
どこからかゲーアノートの声が響くと、ゲーアノートの分身が次々と出現した。このまま増え続けてもらっては困る。それに、分身それぞれが自由に攻撃してくるのも厄介である。
「どうやら出し惜しみは無しみたいだな。」
ここでエーミール中将が動く。
「まさかあの魔法を使うつもりですか?」
アンがエーミール中将の動向に心配して叫ぶ。でも、エーミール中将は見向きもせずに詠唱を始めた。
「火を司る精霊サラマンダーよ、
四大精霊に数えられるその由縁を示し、
炎という己の毒を人々に見せてやれ、
Gifthand der Flamme[炎の毒手]!」
魔力の増強と強化された炎でエーミール中将の辺りが満ちる。そして、ゲーアノートたちの炎とエーミール中将の炎がぶつかり合った。お互いがお互いを溶かし合うような炎のぶつかり合いに周りはただ見ているだけだった。そんなところにアンが私のところへやってきた。
「結衣。あの魔法は身を犠牲にするものなのです。だから、長くは持たない。その前にどうにかしないと・・・。」
「わかった。ゲーアノートの本体を見つけ出して無力化させる。」
「分析の魔法なら私もできます。」
「なら、一緒に探そう。」
私達はそれぞれ予測魔法を使って分析を始めた。分身を一つずつ調べていく。分身の増加は炎のぶつかり合いによって止まったようだけど、十分に多い。ゲーアノートという人物がどういうものでどうするかを考える・・・。
「まさか。」
「見つかりましたか?」
「そうじゃないけど、もしかしたらゲーアノートは分身の姿ではなく、他の魔法使いとして紛れ込んでいるのかもしれないと思って。」
「それなら、さらに敵全員を調べなくては。」
「その必要はないはず。ゲーアノートは炎の魔法使い。炎を扱う敵を探せばいい。」
「なるほど。それで見つかりましたか?」
「ええ、ちょうど今。」
会話の間も目を赤く光らせて見ていたら、敵魔法使いに1人だけ炎を扱う者がいた。それは部隊の一番後ろの戦場を把握できる位置いる者だった。彼の近くにいることから彼と闘っていたはずの安東紫乃に伝えようと思ったが、すぐにバレてしまう。自分で動くことにした。
「ちょっと行ってくる。」
アンに一言かけてから高速魔法で敵の背後に回った。そして、彼の後頭部をショットで撃ち、動きを止めようとしたが、彼は私に気づき振り向きざまに剣を横なぎしてきた。一本取られた。私が引くと、紫乃はすぐに察したようで笑みを浮かべると、彼と剣舞を始めた。紫乃の剣の早業に音を上げた彼はついに炎を使い始めた。
「そうだ、私がゲーアノートだ。気づかれてしまったのなら隠す必要は無い。この炎で貴様らの剣を溶かし、全てを溶かし尽くしてやろう。」
「何か勘違いをなさっているのでは?私は高速魔法の使い手ではありませんよ。」
紫乃は刀の影を分離させ、黒と白の二刀を手にし、ゲーアノートとの戦闘を続行した。クルリクルリと回りながら上手く炎を弾いている。黒の影の方の刀は干渉を、物理現象の関係を絶っているのだろうか。何にせよこれでは炎を相手にしているだけでゲーアノート自身は見物しているだけだ。やはり私が・・・と動こうとすると、予測魔法が反応した。
「喰らえぇ、俺とお前の炎を!」
エーミール中将が大声を上げて炎の波を向けてきた。あの威力は防ぐのは無理だと判断し、近くにいた紫乃や他の味方を引っ張りその場を脱出した。私たちはその炎から逃げることに成功した。そして、ゲーアノートがその炎の波に呑まれるのを確認した。オーバーヒートする炎はその先にあるペンタゴンまでたどり着き、衝突すると、蒸発するように消えた。それを見たイギリス魔法使いはすぐに撤退し、その場から居なくなった。




