第三章13話『Jessica und Michael』
11月2日の未明、ワシントンでは4カ国の強力な魔法戦力が集まり、二手に別れて衝突していた。ドイツの拠点となっているホワイトハウスを守るミハエル中将率いる日独混合の占守班とジェシカ率いるアメリカ魔法部隊は、生死を争っていた。
「ねえミハエル。受けてばかりじゃ、続かないんじゃない?どうやらここにはあなたぐらいしか面白そうな人はいないみたいだし、そろそろ仲間を見捨てて本気で攻めてきても構わないのよ。」
「なるほど。それなら、攻めに転じるとするか。えーと、師行だったか、守りの方を任せる。私はこの女を焼き消してくるから、どんな手でもいいから守り抜くんだ。みんなのことを頼む!」
「了解しました!」
ミハエル中将から指揮が南条師行に移転した。
「さて、そういうことだから、行こうか。」
「その必要はないわ。だって、ここで彼らはおしまいだもの。」
「本当に甚だしく気に食わない奴だな。」
それから2人はその場で詠唱を始めた。
「数多の砲弾のごとく。」「冥府の何処に燃え盛る。」
「星の瞬きのごとく。」「闇を纏いし黒き炎よ。」
「重く、素早く、敵を穿て!」「力を吸い取り、我がものとせよ!」
「インフィニット・バレット!」「シュバルツ・ヘルフレイム!」
ほぼ同時に詠唱を終えた2人、ジェシカはリボルバーが目まぐるしく回転する拳銃で連射し、ミハエル中将は黒い炎でジェシカをその銃や弾丸ごと飲み込もうとした。ジェシカはその炎に包まれたが、広範囲に通じるジェシカの魔法(弾丸)は黒い炎のわきを抜けてミハエル中将の後方へ飛んでいった。しかしながら、南条は魔法を唱えて発動していた。それはホワイトハウスが城郭となり、その周りには土塁や石垣、塀などで守りを固めた幻術を実体化させる生物魔法だった。ジェシカの魔法は小さいながらその土塁を簡単に崩壊させたが、次にある石垣を崩したところでとどまった。対して炎に呑まれたジェシカは、自己強化の魔法で炎から脱出し、水属性の弾丸を連発してこれを消した。
「やってくれるわね。それに、これはジャパニーズキャッスル?ずいぶんと白いわね。」
ジェシカの言葉にミハエル中将は後ろを向いてみた。この要塞を瞬時に出現させたことに素直に驚いている。
「どうやら後ろのことは気にしなくていいみたいだ。それから、攻撃は全て私任せってことだな。あいつらが戻ってくるここを維持するには敵を倒す必要がある。」
「それはどうかしら?援軍で呼んだのはイギリスの魔法貴族、ブルーノ卿の部隊よ。」
「ブルーノ卿だと!?…まあ兄さんだけならともかく、常識破りが2人もいる。どうってことないさ。」
「イギリスの魔法使いは恐ろしいものよ。なのに、あなたたちドイツはそれを敵にまわした。世界魔法協会が設立された理由も知らずに。」
「どういうことだ?イギリスの魔法使いがどうしたって言うんだ?ただ魔法の発祥地かもしれないとされてるだけだろう?」
「無知なのは無力と同じことよ、ミハエル。いいわ、この要塞を私たちアメリカが破る間として教えてあげる。」
ジェシカは他の魔法使いが争っているところ、ミハエル中将に魔法界の歴史を語り始めた。
世界魔法協会が設立するはるか昔、イギリスでは独自に魔法使いを束ねる組織が設立された。それは歴史ある魔法貴族と呼ばれる家系たちで形成され、英国魔法貴族院と呼ばれる。魔法貴族院は13席でなり、13の魔法貴族の家の当主からなった。組織内では家同士による階級差はなく、円卓の騎士を参考とされた。その円卓をまとめる者は13の席のなかで最も在位が長い者が主席を担った。この組織によって英国魔法界は発展を続け、またこの組織は協会と同様の役割を果たしていたのだった。強大な力を持つ魔法貴族のなかには表の人間社会においても爵位を持ち、影響力がある者もいた。そんな魔法だけでなく、あらゆる面において強大な力を持つ英国魔法貴族は大陸の魔法界で恐れられた。大陸は、魔法があまり発展できず、各家で代々伝えていくのみで魔法の力すらもあまり大きくなかったのだ。そして、時代は大戦期へ移行する。表では第一次世界大戦と呼ばれる戦争が起こった。しかしながら、魔法界では英国魔法貴族との力差と魔法の恐ろしさから来る倫理面などによって魔法による戦争をしないことを各国の魔法集団との間で約束された。そして、ドイツフランスの魔法集団が中心となって世界魔法協会が設立された。協会ができたのはイギリスの魔法使いの力を抑圧する目的でもあったのだ。間もなく、協会は5人の最高魔法師による運営となり、権力をめぐって密かなのか公然となのかそれが当たり前であるとする争いになった。これに巻き込まれたものの一人が反組織を設立し、事実上協会の制度を崩壊させた。その後、反組織は壊滅し、協会では唯一生き残った最高魔法師、日本の織田山門全権大師が権力地位を一つにし、現在の制度にした。以上が魔法界の有史以降の変遷である。




