第三章5話『合宿2日目』
合宿2日目は2年生のいる沖縄基地へ行った。本日の演習は対艦訓練だった。艦艇を相手に魔法使いのみで沈めるということだ。さすがに貴重な艦艇を演習で沈めるわけにはいかないので魔法を施してある。沖縄基地では第10水雷戦隊が参加した。現在沖縄基地の主力である第十艦隊所属である。今日は海上警備を空軍に任せて参加してくれたみたい。先に艦隊が出撃し、生徒たちはそれを見つけて沈めるまでが任務であった。私は旗艦香取に乗せてもらい、生徒たちの様子を見ていた。演習は各グループに別れて行うため艦隊には何度も生徒たちが攻めてくる。この演習は海軍にとってもいい経験となるためみんな真剣にやっていた。そして、グループが一巡したところでお昼休みとなった。午後はもう一度同じことをする。そうすることでより戦闘が本質へ近づいていくのである。しかしながら私は午後の部を見ることはできなかった。私には別の仕事が入ったからである。その仕事とは被爆した艦艇の浄化だった。私は格納されている施設に案内され、早速仕事を始めた。
「アクティベーション。」
まずは魔法を展開させてから、予測魔法で状態を把握する。それから、どうすれば改善されるのか方法を考える。単に水で洗い流すだけでは済まない。そこで問題となる対象物だけを消滅させることにした。まずはその対象物にマークとなるものを付ける。それは魔粒子によっておこなった。そしてその魔粒子に消滅の魔法をかける。すると、マークは全てなくなり浄化されたことになる。これらの作業を各艦艇1つずつ行っていき、ここにある被爆したもの全てを浄化した。作業が終わり、報告・確認した頃にはすっかり日が暮れていた。私は、すぐにゲートで帰った。
次の日、合宿3日目はハワイ基地へ行った。3日目の演習は対地訓練である。戦車などを相手にした戦闘訓練でこれも戦車に魔法を施して実施された。ハワイ基地はいまや日本国防軍の陸海空軍が集まった外地で強力な戦力を有している基地となっている。ここにいる陸軍はアメリカへの上陸を想定している部隊である。生徒たち相手とはいえ全力で行うべきとしていた。午後からは例のごとく私は浄化作業をするため、横須賀基地を訪れていた。そこには大破したものの修復できずに置かれていた艦艇があった。それなら、いっそのことそのものの時間を戻してしまえば良いのではと考えた。
「アクティベーション。
時間の神クロノスよ、
彼のものの刻をほどき、
栄光を取り戻したまえ、
バック・トゥ・オリジナル・コンディション!」
大破した艦艇は一度粒子へと変換され、元の本来の姿へと変貌した。予測魔法で状態を確認するとちゃんと浄化もされていた。これを繰り返し、今ある第五艦隊を復元することに成功した。でも、さすがにここにはない既に失われてしまった沈没艦までは戻るはずもない。報告を済ませた後、有賀総長から招集があったので総長室を訪れた。
「作業ご苦労さま。おかげで戦力を取り戻すことができそうだ。」
「それは何よりです。」
「それで伝えたいことが2つほどあってね、まずは合宿終了の翌日なんだけど、生徒たちを選抜して国内のテロリストを一掃する作戦に参加してほしいんだ。」
「それは生徒たちに殺害行為をさせるということですか?」
「可能であれば生け捕りにしてほしい。できなければ仕方ないということ。」
「まあ、指令であるならばそうします。」
「それから、2つ目についてだけど、その選抜したメンバーでドイツに行ってほしいんだ。あなたも行くんだよ。それで弟子とともに戦って来て欲しい。」
「・・・・・わかりました。ではさっそくメンバーについて考えさせてください。失礼します。」
「じゃあ頑張ってね。」
私は総長室を後にし、学園へ戻った。
自分の部屋に戻り、ベッドに仰向けになる。工藤さんは出かけているようでここにはいなかった。すでに陽は落ちて空は太陽の光を失いかけていた。いずれはそうなることはわかっていた。もともとこの学園はそのためにあるもので私はそれに助力している。私は多くの犠牲を生み出し続ける。加害者と被害者という人たちはすべて戦争による被害者であり、私はそれを十分に知っていながらもとめることはできない。罪を重ね続ける。生徒たちに殺人という行為をさせるのは嫌だけど、アンに会えるということを知るとうれしくなってしまう。私はその甘い誘いにのせられた。これ以上誰も傷つけたくはない。
「それならば、学園長が誰にも殺させず、誰も殺さないようにしてみればいかがですか。」
ドアのところに工藤さんが立っていた。
「それってどういうことですか?」
上体を起こして工藤さんに尋ねる。
「つまり、生徒たちよりも先に相手を非力化することによって、他の誰も手を汚さず、誰も死ぬことはありません、ということです。誰よりも先に相手の意識を奪うことくらいあなたにはたやすいことでしょう。あとは保険として選抜するメンバーは自分の身をきちんと守れる人がいいでしょう。」
「攻撃ではなく防御に特化した生徒を選べばいい・・・。」
「そうです。あきらめるのは成すことをしてからでも遅くはありません。では、私は夕食の準備があるので失礼します。」
工藤さんは私にヒントをくれ、自分の仕事に戻っていった。おかげで私にできることがあると知った。私がすべての悪を引き受ける。




