第三章2話 『就任2日目』
9月11日、私はさらなる情報を求めて参謀本部へ出向いた。参謀総長の有賀秀徳氏とまずは面会をする。
「ご無沙汰しております。」
「あなたがご無事で何よりです。」
「それについては大変お世話になりました。」
「まあまあ早速本題に入りましょう。あ、お茶とか自由に飲んでいいからね。」
有賀総長はテーブルの上に置かれたお菓子やお茶をすすめた。
「ありがとうございます。それで現在の状況をできるだけ多く知りたいのですが。」
「そうだね。イギリスとローマ帝国が参戦したのは知っているかな?」
「はい。」
「まだ直接は日本に影響はないけど、いずれ関わることになるだろう。今はドイツに任せておいていい。それでそのドイツからは日本と戦力の交換留学的なのを提案されている。お互いの強みを交換し強化しよう、という考えかね。」
「それにはどうするつもりですか?」
「まだ協議段階で、まだわからない。ちなみに首相は今、それらを含めた外交関連で出国中なんだ。これは機密事項だから内密にね。それで我々がもっているドイツの現状は、日本と同様に良くないみたいだね。アメリカの首都を制圧こそしたが、アメリカ宇宙軍による攻撃で多くの戦力を損失さらに、国内にも魔法による攻撃で被害が出ているようで、物資、人員共に不足している。これは日本も同じ問題を抱えている。」
有賀総長はお茶を飲んでから話を進める。
「さて日本は上海基地をなんとか維持している状態で中国とは依然として攻防が続いている。アメリカに対してはハワイ基地を占拠し太平洋の覇権は握ったものの、グアムでの被爆で損失は大きい。現在、前から進めていた開発物が導入されようとしているところで海軍の穴埋めはあと少しで済むはずだ。そして、あなたが望んでいる情報の1つ、国内のテロについて、なぜ魔法使いを嫌っているのかが分かっていないんだ。おそらく彼らは反戦派が武装した集団だと思うが、魔法使いだけを狙って実行する理由が分かっていない。」
「反戦派が武装してしまっては矛盾になるのでは・・・。」
「そうなんだよね。まあテロリストについては保安委員会を通して調査しているから、何かあった時は連絡するように話をつけておこう。」
「ありがとうございます。それで私がどうして学園の学園長なんですか?」
最後に自分についていろいろときいてみる。
「それは、魔力が回復するまでの休養を兼ねていてね、あなたに魔法を教えてもらった方がより素晴らしい魔法使いが育つと思ってね。実際、あなたが指導したドイツの子も活躍しているみたいだからね。」
「え、アンは無事なんですか?」
「残念ながら私が聞いたのは風の噂程度の話で、そこまではわからない。そうだ、戦力派遣の件で会えるようにしてみよう。」
「ありがとうございます。お願いします。」
「さて、私とはそろそろいいだろう。案内役を付けるから自分で各地を確かめて見るといい。魔法があれば簡単にできちゃうからね。」
私は立ち上がり、お礼をする。
「本日はありがとうございました。」
「それじゃあ、学園長頑張ってね。」
「はい、これで失礼します。」
私は部屋から退出し、案内役が出現させたゲートを使って各地を視察した。
午後3時頃に、学園に戻ってきた。秘書兼執事でもある工藤さんがお茶を淹れてくれていたので、ティータイムとした。でもその前に着替えてはと工藤さんに言われたので、軍服から馴染みある半袖Tシャツにパーカー、スカートといういつものスタイルに着替えた。椅子に腰掛けて、お茶を口にして一日の疲れを癒す。本当に学園長なんだと実感するひと時だった。そこに、トントンとドアを叩く音が鳴った。
「学園長!お話があって参りました。入ってもよろしいでしょうか。」
凛々しい女の子の声だった。
「学園長は今、ティータイムを楽しんでおられます。またあとの機会、に・・・。」
工藤さんが追い払おうとするところを私は立ち上がり、私室から隣の学園長室(執務室)へ向かい、椅子に座った。
「いいよ、入って。」
「失礼します。」
大きな扉を開けて入ってきたのは、どこか見覚えのある黒い髪を伸ばした女の子だった。そして、自己紹介を始めた。
「はじめまして、私、日本魔法学園生徒会長を務める須郷未希と申します。よろしくお願いします。」
礼儀正しく、綺麗にお辞儀をした姿はみとれてしまう程美しく見えた。
「学園長、早速ですが合宿の件について幾つか伺いたいのですがよろしいですか?」
須郷未希は執務机とほぼ同じくらいの高さにいる私を見つめた。
「・・・。」
なんでこの机こんなに高いの?まるで私が小さいみたいに見えるじゃん。
「あの、聞いてますか?」
そして、私が偉いはずなのに見下ろされてるんだけど。
「学園長!」
「あ、はい。な、何?」
突然大きな声で呼ばれて、焦った。既に学園長としての威厳が失われたような気がする。
「合宿の件について伺いたいのですが。」
「ああ、合宿。・・・ど、どうぞ。」
何をしたらいいのかわからず、彼女に進行を託した。
「それではまずは合宿の日程についてですが、1ヶ月後の10月13日から20日までの1週間というのでいかがでしょうか?」
「うん、大丈夫です。」
「参加の対象や条件などはどうしますか?」
「対象や条件?」
「はい、レベルや系統魔法別などが考えられますが。」
「全員っというのはできないの、ですか?」
「あとは場所をどこにするかなど他の具合によって決まると思います。」
「・・・わかりました。とりあえず他のことはこちらでなんとかしますので、生徒会の方では期間の告知とチームを組んでの戦闘力向上をするように全生徒に伝えて下さい。その辺の細かいことはそちらで決めてもらって結構ですので。」
「はい、承知しました。ではこれで失礼します。」
「あ、ちょっと待って!」
彼女がお辞儀をして退出しようと振り返って歩き始めたところ、私は机に手をついて前のめりになりつつ声をかけてとめた。
「はい?」
彼女は顔だけ向けて応えた。
「どこかで会ったことある?」
「それは私の先祖にあたる須郷希望という人でしょう。私はその末裔です。」
にっこりとした笑顔は何を意味するのかわからないけど、そう答えた彼女は今度こそ部屋から出ていった。




