第三章1話『就任1日目』学園長編
目をさますと、そこはいつものように病院のベッドの上だった。この光景にも見飽きて愛想を尽かしていると、ドアがあいてスーツを着たお偉いさん二人が入ってきた。男の人は壁沿いにたち、女の人は私の横にやってきた。椅子に座り、私の顔をみると話し出した。
「神城結衣さん、あなたにお願いがあってやってきました。」
お願い?私に何の用かと思って続きを聞いてみた。
「あなたに魔法学園の学園長をしてほしいんです。」
「学園長?」
「ええ、その学園は我が国唯一の魔法を教える魔法使いを育てるための学校です。しかし、近年魔法に対して不満のある方がテロをおこして学園や生徒たちを襲っているのです。これをどうにかするためにあなたの力が必要なんです。どうか引き受けてもらえないでしょうか?」
「でも、私は見ての通り、子供。学園長なんてできない」
「学園長になれば、秘書が一人つきます。それに、豪華な部屋に住み、食事も問題なく食べられます。よりどころのない結衣さんにはぴったりの場所だと思うのですが・・・。社会のために、国のために役に立ってもらえないでしょうか。」
「わかった・・・やる。」
「そうですか。ありがとうございます。では、早速手配しますので、一緒に。」
「え?今!?」
「ええ、そうです。早い方がいいので。行きましょう。」
そうして、ベッドから起き上がり、魔法を使っていつもの服に着替えて、病院をでた。
そして、ついた場所は街から離れた大きな敷地の学園だった。私の部屋は学園の中央棟の一番上でそこの窓からは学園がよく見渡せた。部屋の内装は神城家の雰囲気と似ていて、広く豪華だった。
「ここが、結衣学園長のお部屋でございます。そして、こちらが秘書です。」
「はじめまして。本日からお世話をさせていただく工藤凜子です。よろしくお願いします。」
とご丁寧にお辞儀をされた。
「では、明日は学園長就任式がございます。スピーチのご用意の方をお願いします。そして、ここからは秘書の工藤に一任しますので、わからないことがありましたら、秘書を頼ってください。では、失礼します。」
礼をして、部屋から出ていった。改めて部屋の中を確認してみた。入ってきてすぐの部屋は学園長の執務室のようで右側にあるドアから私室になっているようだ。私室は、入ると窓側にリビング、反対側にダイニングがあり、突き抜けたところにあるドアを開けると寝室があった。お姫様ベッドで大きな窓がある。反対側にはトイレやお風呂などがある。これらをみて、優雅な暮らしができそうだと思った。
次の日、学園長就任式が行われた。挨拶のため壇上に立ち、生徒を見下ろすが、もちろん身長が足りないので浮遊魔法を使ってなんとか誤魔化す。大勢の生徒たちが規律を守って並んでこちらを向いているが違和感を感じた。明らかに殺気を感じた。目をとじて、予測魔法をつかうと、講堂のまわりに武力集団がいることがわかった。そんななか私は堂々と話し出す。
「生徒の諸君、私は君たちが国のために魔法を学んでいると聞いている。しかし、魔法とはとても恐ろしいものである。ときには魔法が暴走するときがある。そのときは私が責任をもって容赦なく消してあげよう。魔法とかかわるといろいろと敵も多くなる。私はその敵から君たちを守るためにきた。しかし、私だって全員を守れるわけではない。だから、君たちは最低でも自分の身だけは守れるようになりなさい。この学園には、いくつかの分隊になっているときく。みんなで協力してより強い力を発揮できるようにがんばってほしい。そして、私は今にでも君たちの実力を知りたいと思う。幸運なことにそれが実戦になりそうだ。さあ、こっそり隠れてないで堂々と出てきたらどう?」
その瞬間、武装集団たちが壁や窓を壊して侵入してきた。一斉に銃を生徒たちに向け放ったが、即座に魔法を起動させて銃弾をとめた。
「さあ、あなたたちの実力をみせてみなさい。自分たちの力でこの学園を守ってみなさい。それを私に見せて下さい。行け!」
最後の言葉とともに、止めていた銃弾を跳ね返し、一気に敵の人数を減らした。そして、すぐに生徒たちによる反撃が始まった。それぞれ中隊で攻撃、防衛が開始された。敵の一人が私に銃口を向けると、
「あいつを狙え!あいつさえ倒せばこっちのもんだ。」
と叫び、一斉にこちらに乱射してくる。私をそれを魔法粒子のシールドで弾き飛ばし、剣を出現させて、一人ずつ切り倒していった。あっという間に敵を粛清し終わり、壇上に戻る。
「生徒諸君、しっかり君たちの実力を見させてもらった。私は、学園長として魔力強化を重点にする。合宿をするから覚悟しなさい。以上、これで私からは終わり。」
こうして、乱闘の就任式は幕を閉じた。
自分の部屋に戻り、一息つく。ここでようやく整理する時間がとれる。今は何年何月何日で、どういう状況なのかを把握するための時間を。工藤凛子さんがお茶を淹れてくれたのでそれを飲みながら、椅子に座って思考した。
「私は確か、中国で戦っていたはず。そしておそらくは魔法を暴走させてそのまま眠りについた・・・。」
「そして目覚めたのが昨日9月9日正午過ぎです。結衣様がお休みになられている間、イギリスとローマ帝国がそれぞれドイツに宣戦布告し、同時に日本にとって敵国となりました。各国は戦闘は一部で続けるものの、失った戦力を埋めるために現在は目立った行動は見られません。日本も同様に海軍はグアムでの爆発、陸軍は上海での戦闘で、魔法軍も損失はわずかではありますが、黒野大将が結衣様を止めるために魔力を多く使ったため、それぞれ戦力がすり減っている状態にあります。」
工藤さんが現在の状況を説明してくれた。
「さて、それでは学園長。式の中で仰っていた合宿についてですが、具体的にどのようになさいますか?」
「え、それは・・・もうちょっと考えさせて。」
「では、せめて日時だけでも決めて下さい。」
「うーん、とりあえず1ヶ月後あたりで・・・。」
「分かりました。ではそのようにスケジュールを調整しておきますので、早いうちに具体的なプログラムを決めておいてください。それでは私は夕食の準備をして参りますので失礼します。」
工藤さんは部屋から出ていくと、私は思わすため息をついた。
「まったくのノープランだ。それにしてもこう何もなければ今が戦争中だなんて思わないなー。」
独り言をボヤきつつ、紅茶を飲み進めた。




