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波乱のバレンタインデー その7

 3人フルコースが終了し、うじうじモードに入った蛍をなだめたあと、ようやく遅すぎるティータイムに。すぐ夜ご飯の時間になるため、蛍にもらった手作り生チョコを食べ(カナに負けず劣らずのクオリティだった)、カナの淹れた紅茶を1杯飲んだくらいだけども。

 蛍が帰る時間になったため、玄関から見送ることに。家まで送っていこうかと提案したが、1人で大丈夫だと断られてしまった。まあ並の不審者なんて蛍ならひとひねりだろうし、心配ないか。


「蛍、今日はわざわざありがとうな。チョコ、うまかった。これからもちょくちょく遊びにこいよ」

「よろこんでもらえたようでなによりだ。そうだな、気が向いたらお邪魔させてもらうとしよう。まごめ、カナも世話になったな」

「いえいえ。これからもこのバカ兄をよろしくお願いします」

「またおいでよ~。今度来たとき、生チョコの作り方教えてね~」

「うむ! そうだまごめ、私も呼び捨てにしてしまっているし、私のことは呼び捨てにしてほしい。カナはまあ、そのままで」

「そういうことなら、蛍って呼ばせてもらおうかな」


 こいつら今日初対面のはずなのにもう呼び捨てやあだ名って。最近の若者はコミュ力高いな。


「では、私は失礼させてもうらおう。ミナト、また道場で」

「おう。じゃあな~。気をつけて帰れよ」

「じゃあね蛍!」

「またね~ほっちゃん」


 振り返らず、手をひらひらさせてあいさつをし、蛍は帰っていった。

 ったく、今年に限って司彩といい蛍といい気合い入れてきやがって。ホワイトデーに半端なことできなくなっちまった。

 やっぱりお返しは手作りのお菓子かな。高級店のお菓子も捨てがたいけど。

 そんなことを考えながらリビングに戻ろうとしたとき、右肩と左肩をそれぞれガッとつかまれた。


「みーくん、靴箱に入ってたチョコの件、聞かせてね」

「そーだよにいちゃん、あたしたち、忘れてないからね?」


 くそっ、蛍のおかげで忘れてくれたと思ったのに!


「ま、でももうすぐ夕ご飯だし、詰問はそのあとにしようか」


 助かった。今のうちに言い訳でも考えておくか。

 リビングに戻る俺とまごめ、そしてカナ。

 今日も、何度見たかわからないほど、いつも通りの風景が広がっている。

 まごめがソファに寝転がってテレビを見て。

 俺がテーブルでポータブルゲームをし。

 カナが鼻歌を歌いながら心底楽しそうに料理をする。

 ぬるま湯につかっているかのような時間、という表現がぴったりかもしれない。

 熱い湯も水風呂も長くは入っていられない。

 ぬるま湯は、少々物足りないような、十分なような、絶妙な湯加減ゆえに、えんえんと入っていることができる。冬場のこたつのように、抜け出すことが困難になる。

 そもそも抜け出す必要なんてあるのだろうか。

 俺は、ないと思う。いいじゃないかぬるま湯。温度を維持することだけ集中して、あとはつかっているだけ。


「みーくん、ちょっといいかな」


 おっと、俺としたことがガラにもないことに考え込んでしまっていた。あるよね、正義とは何かとか神はいるのかとかどうでもいいこと考えちゃうときって。


「どうしたカナ。料理の途中っぽいけど大丈夫か」

「うん、今は蒸らしてるだけだから平気。ほんとはご飯前によくないんだけど、ほっちゃんが来てタイミング逃しちゃって。はい、バレンタインデーのチョコ」


 小さなカゴに入れられている色とりどりのチョコたち。宝石みたいで食べるのがためらわれるほどだ。


「毎年のことながら凝ってるなぁ。見た目もすごいけど、味の方はどうかな」

「わたしがみーくんにおいしくないもの食べさせたことってある~?」


 両肘をテーブルについてぷくっと頬を膨らませているカナ。リスっぽいその姿に少し笑いそうになる。


「わかってるって。言ってみただけで実は味の方はまったく心配してないから。じゃ、早速いただくとしますか」


 丸っこいチョコを1つ口の中に放り込む。

 やさしい舌触り。外側のチョコと中身のゼリーがからみあい、甘さとほんの少しの酸味のハーモニーが口内で奏でられる。


「どうかな? 今年のチョコの出来は」

「……最っ高だ! 今までで1番好みかもしれない。チョコ、ありがとうな」

「どういたしまして~」

「にしても、うまい。うますぎる。手と口が止まらん!」


 毎年料理、お菓子作りの腕があがってて戦慄せざるをえない。これで独学なんだそうだ。末恐ろしい。


「ふふふ、そんなおいしそうに食べてくれるとこっちも作りがいがあるね~」


 カナのこの笑顔、怒ってるときと違って、ドキッとしてしまうほど可憐なんだ。今まで何度も何度も見てきてるのに、慣れない。

 俺はものの数分でチョコを平らげ、食べてる様子を楽しそうに見ていたカナは料理に戻っていった。

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