波乱のバレンタインデー ラスト
今日も仕事で両親は深夜に帰ってくるか、または会社に泊まってくるから家にはいない。昔からカナがよく顔をだしてくれていたから寂しい思いをせずにすんだのかもしれない。
3人で夜ご飯を食べ、ダラーっとテレビを見つつ司彩についての詰問を受ける俺。
司彩は男で、チョコは友情の証の友チョコである、という説明でなんとか乗り切った。カナもまごめも腑に落ちていなさそうだったけど。
その後全員で宿題を終わらせ、カナが帰宅し、俺とまごめはそれぞれの部屋に。
やっとだ。やっと今日買ってきたギャルゲーができる! あ、その前に録りためた深夜アニメ見よーっと!
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。
「入っていいぞ~」
どことなくもじもじしている様子のまごめが入ってきた。夜だから髪をおろしていて昼間と大きく印象が変わっている。少しだけ大人っぽくなるから髪をおろしたままにした方がいいんじゃないかと何度も言ってきたんだけど、本人はなぜかツインテールにこだわってるんだよな。子どもっぽいとかロリ属性持ちとか言われるのは嫌がるのに不思議だ。
「にいちゃん、あのさ」
「なに~」
「あ、その前に今にいちゃんが見てるいかがわしいアニメ一時停止しちゃうね~」
「ああ良いシーンで! ってか別にいかがわしくなんてないぞ! 濃すぎる湯気がしっかり仕事してくれてるからな!」
「はいはいもういいから。それよか、はい、これ」
あさっての方向を見ながら差し出されたのは、やや不格好なチョコチップクッキーだった。
「お、バレンタインのチョコか! さんきゅーな。お前料理とか苦手なのに、毎年なんでか手作りだし、これ作るのにも苦労したんだろ?」
「そのとーり! 大変だったんだよ、これ作るの。ま、大変と言っても家庭科で1回クッキー作ったことあって、それにチョコチップ入れるだけだから1日で作れちゃったけどね~。感謝して食べなさいよ!」
1日で作れちゃったとか嘘ついちゃって。同じ家に住んでるんだからわかるわ。本当は1週間くらいかかってるのに、素直じゃないやつ。
「そりゃもう感謝していただきますよ。でもなんでこのタイミングなんだ? 昼間に渡してくれればよかったのに」
「あたしだってもっと早く渡したかったけど、蛍きちゃったりカナちゃんの豪華なチョコ見て気後れしちゃったりしたから」
「気にすんなよ、そんなこと。……ん、うまい! サクサクしてるし甘さもちょうどいい!」
「ほ、ほんと!? よかったぁ。今日はたくさんチョコ食べてるだろうし、そんな無理して食べなくていいよ」
心底安心したとばかりに表情をゆるませている。
いつも最初はツンツンするくせにすぐこうやって素直な反応したり思いやり見せたりするんだよな。もしこれがギャルゲーの世界だったら中途半端ツンデレのレッテルを貼られてるところだ。キャラが弱いって叩かれそう。
「何を言う。バレンタインデーのチョコなんだから当日に食べなきゃ。それに無理なんてしてないぞ。これ食べやすいしな」
「もう、そんなぼろぼろこぼしてー。しょうがないにいちゃんだなあ」
「あとで掃除するって」
「にいちゃん昔からあんまり掃除しないし信用できないんですけど」
「大丈夫。俺はやればできる人間だから」
「やればできるはやらない人のセリフだよ!」
しかし、お世辞じゃなく普通においしい。年々少しずつ上手くなってきてる。小学生くらいのときは壊滅的だったのに。感慨深いな。
「ふう、満足満足」
「ホワイトデー楽しみにしてるからね、にいちゃん」
「それ司彩にも言われたわ。期待して待っててくれい!」
「え、甲斐くんにも? もしかして2人ってそういうカンケイなの? BでL的なやつなの? そうしたら山谷くんはどうなるの! ハッ、まさか三角関係!?」
「てい」
「あたっ!」
「落ち着け暴走列車。そんな関係じゃねえよ! 司彩のは純粋な友チョコだから! 最近は男子でもチョコ交換とかするの!」
まわりでそんなことやってる男子いないけどな。
「なあんだ、つまんないの~」
つまんないってなんだ。もしかしてまごめ、いつの間にか腐ってしまっていたというのか。だとしたら司彩と話が合うかもな。ただ、山谷×港人、とか言い出したら許さない。
「つまんないとはなんだつまんないとは」
「ま、あたしの知らない女の子からのチョコじゃなくてよかったよ」
「お兄ちゃんがモテた方が妹的には嬉しいんじゃないのか?」
「ぜんぜん。まずにいちゃんがモテるはずないし」
「ストレートにヒドいこと言わないで! べ、別に3次元の女子になんか興味ないしいいんだけどね。2次元はいいぞ。コソコソとあの人ヤバくない? キモヲタ乙とか言わないしな」
「中学のときに言われたそれまだ気にしてたんだね……。カナちゃんがいるからどうあがいたって無理だよ。もしカナちゃんの目をかいくぐってにいちゃんと接触してる女子がいたとして、何かの機会に偶然バレた、とかなると大変なことになるよ。うぅ、考えただけでおそろしい」
まごめはその場面を想像したのか、顔を青ざめさせ、ガタガタと震えている。ははっ、情けないやつだな。カナなんてちっともこわくないぜ! ……はいすみません嘘つきました俺もまごめと全く同じ状態です。
「ちょ、やめてくれよ背筋凍るわ」
「いいじゃん、仮定の話で実際にはあり得ないんだから」
「だな。ありうるわけないよな。安心安心」
手汗がやべぇ。安心安心じゃねえよ俺。司彩、カナの目かいくぐっちゃってるよ。
司彩が女だってことは絶対バレないようにしなきゃ。あいつの家いくときはほとんどカナ、まごめとも部活でいないから司彩の家の場所は知られないはず。
俺らはもうすぐ高2になるからクラス替えがあるんだけど、一緒のクラスにはならないだろうから大丈夫か。根拠は小学校から今までの統計。
まさかね、高2ではじめてね、俺、カナ、まごめ、司彩が同じクラスになる、とかはないよね。
あれ、もしかして俺今フラグ立てた?
ナンセンス。この世界はゲームじゃない。俺は2次元と3次元の区別ができる常識的なオタクだ。
「そうそう、にいちゃんは安心していつもどおりの生活を送ればいいのです。あたしはわかんないけど、どうせ高2になってもにいちゃんとカナちゃんは同じクラスになるでしょ」
「まごめと同じクラスになれるかどうかは大体2分の1くらいだよな」
「それでも確率高い方だよ。にいちゃんとカナちゃんが異常なだけだって。っと、ちょっと話すぎちゃった。そろそろ部屋に戻るね」
「うぃ~」
もう22時か。今夜はネトゲは無しにして買ってきたゲームに集中するとしよう。
「そうだにいちゃん」
ゲームのパッケージをあけようとしている俺に、ドアを開け、こちらに背を向けているまごめが声をかけてきた。
「なんだね」
「さっきにいちゃんのことモテない、って言ったけどさ。あたしもカナちゃんも、にいちゃんのちょっとしかない良いところ、ちゃんと知ってるから。ほんっとにちょっとしかないんだけどね! それだけ!」
バタンと勢いよく閉じられるドア。最後の方やたら声がデカかったし、ほめられてるんだかどうかわかんないし、意味わからん。表情が見れたら何かわかったかもしれなかったんだけどな。
それじゃあ1日の締めくくりに2次元の世界にダイブするとしますか。
ゲームをしながら今日1日を思いだし、ホワイトデーのお返しどうしようかなあとか考えながらゲームのヒロインたちの攻略をしていく俺なのであった。




