浮海彼方 中編
4時間目が終了し、昼休みの時間にはいる。
即座に連結されるまごめ、蛍、司彩の机。いつもだったらカナも同じように机をくっつけてくるのだが、そそくさと弁当を持って教室をでていってしまった。
「む、カナはどうしたのだ? 何か用事でもあるのだろうか」
蛍が不思議そうに首をかしげる。
「うん、カナちゃん今日は用事あるからお昼ご飯一緒に食べれないって言ってたー。にいちゃんもでしょ?」
そっか、カナのやつまごめに伝えてたのか。
「そうなのか。なら今日はまごめと司彩と3人でご飯だな」
「そだねー。たまにはこういうのもいいかも。さ、にいちゃん早く行きなよ」
「おう。じゃあ俺も行ってくるわ」
「いてらー」
まごめと蛍に見送られて教室をでる。司彩はこちらに目もくれずハーレムモノのラノベを読んでいた。ブレないその姿に安心。
屋上にきて、って言われたけど屋上は今改装工事中で立ち入り禁止だったはずだ。どうするのだろう。とにかく行くしかないか。
渡り廊下を通り、立ち入り禁止の張り紙を無視して屋上へ続く階段をのぼっていく。
ドアの南京錠はすでに外されていた。最初から何者かによって開けられていたのか、それともカナが開けたのか。なんとなくだが後者のような気がする。
ドアノブを握る手がじっとりと汗ばむ。暑いから、という理由だけではない。緊張してるんだ。はじめて見たカナのあの表情。ただの世間話というわけではないだろう。
深呼吸をしてから、すべりそうになる手に力を入れ、ドアを開ける。
開けた瞬間、風が吹き抜け制服をバタバタと揺らす。
ついでに突風さんは、こちらに背を向け屋上の真ん中くらいに立っていたカナのプリーツスカートをぺろんとめくった。
「カナ、その下着は高校生としてどうかと思うぞ」
「へっ? あれ、みーくん来てたの!?」
あわててスカートを押さえるカナ。時すでに遅し。
「ちょうど今な」
「あーもうなんでこんなタイミングで……うぅ。見られた。見られちゃった」
「今更恥ずかしがる関係でもないだろ」
「なっ! そーいうこと言う!? ないわーみーくんないわー」
「はいはい。で、俺はなんで本来入れないはずの屋上に呼び出されたんだ?」
「ふふふ、わたしはこの学校のことならだいたい思い通りにできるからね。呼び出した理由は、お昼ご飯食べてから話そうかな」
「そういやカナ用務員のおっちゃんと仲良かったな」
人当たりがよくコミュ力も高いカナは校長先生とも友達になっちゃうレベルなのだ。末恐ろしい。
しっかし、お昼ご飯食べてから、か。何を話すか気になるけどまずは腹ごしらえだな。
弁当を取りだそうとしてはたと気づく。そういえば弁当持ってくるの忘れたんだった。今日は久しぶりに母さんが作ってくれたのに。
「みーくん、その顔から推測するにお弁当忘れちゃったんでしょ? しょうがないなぁ。購買まで買いにいってると話す時間なくなっちゃうからわたしのお弁当わけてあげるね」
「すまん、恩に着る」
屋上にいくつかあるベンチに座りながらお礼を言う。
「はい、みーくん、あ~ん」
「あ~ん、とはどういうことでしょうかカナさん」
「そんなこともわからないなんて、みーくんはやっぱりおバカさんだね~」
「遠回しに断ってんだよ!」
「わけてもらってる立場のみーくんに拒否権なんてありませーん。ほら、早くしないと時間なくなっちゃう。ここには誰もいないんだしいいじゃない。ほらほら」
「ぐぬぬ」
あっさり折れてカナにあ~んされるという羞恥プレイを受け入れる俺。腹も減ってたし早く話がしたかったし仕方なかったんだと自分に言い聞かせることで正気を保つことができた。
「ふぅ、満足満足~」
「なんでカナが満足してんだ」
俺はちょっとだけでいいって言ったのに、結局3分の2ほど食べさせられてしまった。カナのお腹は全然満足してないはずなんだけど。
ちなみに、時間を気にしてるなら自分で食べた方が早いはず、と途中で抗議したんだが、二人羽織りの上手い役者も真っ青のカナのスプーンさばきのおかげで、普段食べてるスピードより大分早く食べることができた。
カナはお弁当を片づけると、こっちを見ながら自分のふとももをポンポン叩きはじめた。
「みーくん」
「そこに頭を乗せろと?」
「理解が早くて助かります」
「断ると言ったら?」
「そのときはまごちゃんも知らないみーくんの秘蔵ファイルを学校中にばらまきます」
「すみませんそれだけはやめてください」
バカな、カナに知られていただと!? 絶対見つからない場所に隠してあったはずなのに! こいつにPCスキルがあったなんて知らなかったぞ。
従わないと社会的に死ぬので、しぶしぶ頭をカナのふとももに乗せる。
女の子特有の柔らかさが頭を包み込む。認めるのはシャクだが、気持ちいい。
「どうみーくん、久しぶりのひざまくらは?」
「知らん」
「もう、照れちゃって。顔見れば丸わかりだよ」
「それで俺はなんで呼び出されたんだ?」
「あ、話そらしたー。まあいいや。今日呼び出したのはね、みーくんと2人きりで話したいことがあったからなんだ」
カナは手でひさしを作りながら、空を見上げる。
「みーくんさ、昨日、まごちゃんに告白されたでしょ?」
「……まごめから聞いたのか?」
「そうだよ。昨日の夜にそのこと含め色々話したんだ。まごちゃんは返事は心の整理がついてからでいい、いつまでだって待ってるって言ったらしいけど、どう? 少しは考えられた?」
そこまで話していたのか。まったく、いつまでたってもカナ離れできないやつだ。いや、それは俺も同じ、か。
「正直、昨日から混乱したままだ。考えようとすると思考停止して上手くまとまらない」
「だろうね。みーくん、今までこういうこと考えてこなかったでしょ? どこかでちょっとは考えたかもしれないけど、そのたびみーくんはこう思ったはず。ずっとこのままでいたい、関係を崩したくない、って」
それを聞いたとたん、心臓をギュッとつかまれたような気分になる。
「図星だ。俺はずっと思ってた。カナやまごめと一緒にご飯を食べたりテレビを見たりしてるとき、ぬるま湯につかってるみたいだなって。それを心地いいと思ってる自分も自覚してる」
「だから、怖くなったんだね。ぬるま湯からでることが。わかるよ、みーくん。だって、わたしもそうだったから」
「そうだった、ってことは今は」
「違うよ。いつごろだったかな、今の生活は危ういバランスの上に成り立ってるってことに気づいたのは。多分、みーくんに恋してるって、自覚したときかな」




