高村まごめ 前編
「なあ山谷、教室の真ん中あたりを見て見ろ。リア充集団が夏休みの予定をたててるぞ。えー水着どうしよー、って言ってるってことは海に行くってことだよな。どう思うう?」
「はぜろと思う」
「そうだなぁ。でも俺たちにはもっと楽しいイベントが待っているじゃないか。いざゆかん同人誌即売会の聖地へ」
「今年は有名作家が多く参加するらしいし楽しみだな。だがな港人、その話はいいとして、キサマもはぜろ」
「唐突!?」
「どうせキサマも超絶美少女幼なじみたちと海に行ってキャッキャウフフするのだろう。学校一のリア充はむしろ港人じゃないか。はぜて塵になって分子レベルまで分解されてしまえ」
「あいつらを超絶美少女と認めるわけにはいかないが、確かに毎年カナとまごめと海に行ってる。けどキャッキャウフフなんてありえないから!」
「ほらやっぱり行くんじゃないか。ファ○ク」
「そんなひどいこと言わないでくれよぉ山谷ぃ」
そんなやりとりを見て、休み時間だというのに珍しく自分の席にいるカナがあきれたように見てきた。
「みーくんって山谷くんの前だとめんどくさい女みたいになるよね。あ、今年はほっちゃんも一緒に海行くよ~」
「え、聞いてないんだが」
「話してないからね。みーくんに拒否権はないし強制連行だから」
「聞いただろ山谷、この扱いのひどさ。どう思う?」
「はぜろと思う」
「なんで!?」
山谷に縁を切られたら俺にはバイオレンスな幼なじみどもしか残らないじゃないか!
「みーくん今失礼なこと考えた?」
「考えてません」
女子って本当にエスパーなんだね。
「そういうわけだミナト、私も海に同行させてもらうことになった。楽しい思い出をつくろう」
次の授業の予習をしてたらしい蛍が振り返ってそう言った。
「おう、大歓迎だ」
「そういうことならボクもついていこうかな」
後ろから司彩が参加表明をしてくる。カナが露骨に嫌そうな顔をしているのはご愛嬌ということで。
「来い来い。いやぁ正直蛍と司彩が来るのはありがたい。2人のスタイルの良さならどんな水着も似合うだろうな。カナやまごめと違ってむn」
「みーくん、それ以上言ったらコ○ス」
「すみませんでした自分調子に乗りましたお口にチャックします」
そんなやりとりをしつつまごめの方を盗み見る。
まごめは休み時間だというのにぼーっとしながら毛先をくるくる指先でいじっているだけだった。
この話題でもダメだったか。カナも俺と同じく心配そうにまごめを見つめている。
そう、今日のまごめは様子がおかしい。俺やカナがどう接していいかわからないほどに。
朝はいつも3人で登校しているのだが、俺とカナで先に行ってくれと言われた。このときは何かやることがあるのかなーとカナと話していて特に不審には思わなかった。そしてHRがはじまるギリギリに教室に入ってきたまごめは、髪をおろしていた。
クラス中の目を釘付けにしたまごめは静かに自分の席に腰をおろし、鞄から本を取り出して読みはじめた。憂いをおびた表情のせいか幼な顔なのにずいぶん大人びた印象を受ける。
俺とカナは思わず目を合わせた。寝る前は例外として、幼稚園のとき以降、ツインテール以外の髪型のまごめなど見たことがない。読書だってまったくしてこなかったはずだ。
あきらかにおかしい。おそるおそる話しかけても上の空だし、口数も極端に少ない。
今だってまごめにとってのタブーのはずの胸の話題だというのにまったく食いついてこない。
蛍もつき合いは短いが何かおかしいと察したらしく、ちらちらと様子をうかがっていた。司彩は相変わらず平常運転でマンガなんかを読んだりしてるが。
俺とカナはまごめが微動だにしないのを確認し、口を閉じる。前の休み時間に理由を聞いても生返事しか返ってこなかったし、打つ手がない。
どうしたもんかと考えている間に6時間目の英語の担当教師が教室に入ってきていた。もうあと1、2分で本日最後の授業だ。家に帰る前に糸口だけでもつかみたかったが無理そうだな。
そんな風に諦めかけていたとき、右となりからつんつんと腕をつつかれた。
「まごめ?」
「にいちゃん、放課後、体操服に着替えて体育館に来てくれない? 体育館裏とかじゃなく普通に中ね」
「お、おう。わかった」




