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司彩の予言

 その日の帰り道。途中で蛍と別れたのち、司彩の家へ向かう。

 蛍と腹を割って話せたし、すっきりした気分のままあいつの家に届いた新作ゲームで遊ぼう。さっき『今から家行ってもいいか?』とメールを送ったら10秒後くらいに『そう言うと思ってまだ開封していなかったんだ。はよはよはよ』と返信がきたので急ぎ足で甲斐宅へ向かう。


 恒例の、玄関チャイムを押す直前の司彩お出迎えがあり、新作RPGに胸躍らせながら司彩の部屋へ。

 2人でパッケージのデザイン性についてあーだこーだ議論してから、ワクワクの開封タイムへ。

 そこからはもうただひたすら狂ったようにマップを進めていく俺たち。ストーリーモードは1人用のため10分交代制にした。

 このゲームの素晴らしいところは、幼なじみキャラが1人も登場しないことだ。もうそれだけでやる価値があるというのに、重厚な世界観、呼吸すら忘れるほど練り込まれたストーリー、深みのあるキャラクター、爽快感抜群のバトルシステムとてんこ盛りで、つまりは神ゲーなのである。

 そのせいで俺も司彩もハマりすぎてしまい、まだ30分もたってないだろうなと思ったら2時間も過ぎてしまっていた。10分交代だから簡単に時間をはかれるはずなのにな。

 ぼちぼち帰らないとカナやまごめにどやされるし、少し休憩してから帰ろう。すでに司彩が女だと判明しているため遅くなったときに何をされるか……。うぅ、想像しただけで身震いが。


「司彩ー、俺あとちょっとしたら帰るわ~」

「りょうかーい。あ、そうだ、このセーブデータどうしよう。タカトが一緒に進めたいというなら自分用の別データを作るけど」

「これだけ面白いゲームなんだ自分で買うしかねぇ!」

「じゃあこのセーブデータはボク用にするとしよう」


 そこからまたものすごい勢いで進めていく司彩。いいな、俺も早いとこ買って思う存分プレイしたい。

 ベッドに寝転がり、司彩が小さいときから使っているらしい大きな抱き枕をかかえながら(今は某作品のヒロインのカバーがついている)ごろごろする。

 よし、そろそろ行くとしますか。家に帰ったらちゃんと説明しなきゃ。放課後学校に残って蛍とおしゃべりしてから司彩の家でゲームしてましたって。うーん、こりゃ言葉を選ばないとボコされるぞ。5人で昼ご飯食べるようになってからだいぶ緩くなってきたはずなんだけど、なんでか最近こういうことに対して過敏になってる気がするんだよなぁ、カナとまごめのやつ。


「んじゃ帰るわ~。今日はゲームやらしてくれてありがとうな~」


 そう言って部屋からでようとしたとき、左の足首をグイッと引っ張られる。


「ちょっと待つんだタカト。キミに1つ予言をしよう」

「立つの面倒だからってその体勢はないだろ」


 寝転がって手を伸ばし、細くて長い指を俺の足首に食い込ませている。


「いいから聞け。タカト、そろそろ来るぞ、決断のときが」

「決断のとき?」

「ボクの見立てだとあと数日もないだろうね。みんなが同じクラスになったせいで危機感が増している。あのハプニングが起爆剤になったんだろう。タカト、今まで避け続けてきたことに向き合うときだ」

「……司彩、さすがに抽象的すぎる。何を言ってるのかまったくわからないんだが」

「ま、じきにわかるさ。引き留めてすまない。また学校で」

「結局何が言いたかったんだ……おう、またな~」


 司彩の家をでて早足で自宅に向かう。

 さっきの司彩の予言とやらが頭をかすめたが、考え出したらキリがないのでスルーする。

 俺の頭の中はすでにさっきやってた新作RPGでいっぱいだしな。店舗特典をゲットすべく明日は放課後ダッシュでゲームショップに行こう。

 このあとカナとまごめにこってりしぼられるとも知らず、俺はのんきにスキップなんてしながら家路を急ぐのであった。


 そこからほんの少しだけ時が過ぎ、今日は7月1日。

 夏のはじまりを感じさせる強めの日差しに、じっとりしはじめた空気。

 去年から全教室に配備された冷房はまだ息をひそめており、我慢しようとすればできるがやっぱり暑い、みたいな中途半端な空気が漂う。俺は割と好きなんだけどな、これぐらいの時期。たまに窓から入ってくる風のありがたさを感じられるから。

 まあ多くの生徒にとって温度だの湿気だのはささいな問題だろう。なんせあと20日ほどで高校生活の中でもっとも長い休み、そう、夏休みがはじまるのだから。

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