新学期初日
2次元にひたりまくった春休みは光の速さで過ぎ去り(カナ、まごめ、そして蛍と行った遊園地のことはまたいつか話そう。正直あまり思い出したくない)、瞬く間に新学期初日がやってきた。
「いや~ついにわたしたちも高校2年生だね~」
何の新鮮味もない、カナのぽや~っとした声が隣から聞こえてくる。
「そうだね~。またあたし、カナちゃん、にいちゃん、全員一緒のクラスだといいね~」
まごめも変わり映えのしない、短めのツインテールをぴょこぴょこはねさせながらそう言う。
「俺としてはいいかげんお前らと違うクラスになりたいんだけどな。カナがいると他の女子と話せないし、まごめはなんだかんだ言って休み時間になるとちょくちょく俺のとこにくるから男子連中と話しづらくなるし」
これは本心だ。俺としては山谷、司彩と同じクラスになるのがベストだな。
「ん? よく聞こえないなぁ?」
「そうだね、にいちゃんの声って聞き取りづらいよねぇ」
左右からがっしり腕を組まれる。
道行く男子生徒から冷ややかな目線が向けられる。違う。違うんだ。
ギリギリギリと絶妙にキめられた関節技。母さん直伝の技で、まごめはもちろんのことカナもなぜか習得している。
「お、お前らそういうのほんとよくないぞ。暴力系ヒロインは流行じゃない。今すぐ腕を放すんだ」
俺は冷や汗を流しながら説得しにかかる。少しでも腕を動かせばジ・エンド。命がけの綱渡りをしている気分だ。
「みーくんがひどいこと言うからだよ。わたし怒っちゃってるんだからね! プンプン!」
「そうだそうだ~激おこだぞ~」
「かわいこぶったセリフはいてんじゃねえやってることが凶悪なんだよいだだだだ!」
徐々に力入れてきやがった! 少しずつだが確実に増していく痛み。えげつない。
「しょうがないなぁ。これ以上はやめとこうか。新学期初日から腕が使いものにならないなんてかわいそうだもんね」
「カナちゃん、発言が完全に悪役だよ……」
まごめはまだまともな方なんだよ。問題はカナの方だ。他の人に対しては普通なのに俺に対してだけ暴走ぎみ。俺にも優しくしてほしい。
「みーくんはわたしがいないとダメなんだから、素直にカナ様と同じクラスになりたいですぅって言えばいいのに。ツンデレさんなんだから」
「勝手にツンデレにすんな。別にカナがいなくても大丈夫だから!」
「とか言っちゃって。テスト期間に要点ノートまとめてあげてるの誰かな~? よく忘れ物するみーくんのためにメモつくってあげてるのは? シャー芯を補充しといてあげてるのは誰かな~?」
ふふんと得意げに肘でつんつんしてくるカナ。
「それは感謝してるけど別に1人でできるしシャー芯にいたっては初耳だぞ! どおりで減らないと思った!」
そこまでしてたのは驚きだ。どこまで世話好きなんだ。他にも色々してそうでこわい。
「にいちゃん頼りない感じするもんね~。守ってあげたくなるみたいな?」
肩をぽんぽん叩きながら小バカにしたような顔をしてくるまごめ。
「義妹に守ってあげたくなるとか言われたくないんだが。というかそもそもカナとまごめ、お前らと一緒のクラスになると信者たちが面倒くさいんだよ!」
「へ~、わたしやまごちゃんも人気あったんだ~」
「ああ、あるぞ。『貧乳教徒』たちからの熱狂的な人気がな」
客観的に見てカナとまごめは美人である。そのため男子人気は非常に高いのだが、それとは別に貧乳好きから熱狂的な支持を集めている。彼らはいつしか貧乳教徒と呼ばれ、日夜カナ派とまごめ派に分かれて水面下の争いを繰り広げているとのこと。
俺がたびたび感じている視線はおそらく貧乳教徒たちからのものだ。司彩のファンたちとは違って直接的なことは何もしてこないが、いつ何をされるかわかったものではないので警戒を怠らないようにしている。なんで俺がこんなに神経使わなきゃならんのだ。
「にいちゃん、その話くわしく」
「みーくん、どうして今まで教えてくれなかったのかなぁ」
また腕を組まれそうになったので寸前で回避。
「2人とも目がこわいんだよ! これ以上話すと俺の身が危険にさらされる可能性あるから先に行かせてもらう!」
このテの話になると2人とも理性が飛ぶ。その被害を最も受けるのはもちろん俺。さわらぬ神にたたりなし。学校まで全力疾走あるのみ。
新学期初日からこれとは先が思いやられる。いつもどおりと言えばいつもどおりなんだけども。俺の平穏な日常はいつやってくるんだろう。あいつらといる限り永遠に来ないような気がする。




