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まごめの試合 前編

 さて、イレギュラー続きのバレンタインも過ぎ去り、ホワイトデーもなんとか乗り切った、3月下旬のある日。

 春休み目前の今日、俺は土曜日だというのに長名高校の体育館に来ていた。

 県立高校らしく派手さもない、ごくごく普通、いや、ちょっと質素かな、の体育館では、ユニフォームを着た女子生徒たちがウォーミングアップをはじめていた。

 ここに来たのは長名高校の女バスの練習試合を見るためである。

 別にやましい理由で来たわけじゃない。断じて、俺がユニフォームフェチ、というわけではない。だからそんなににらまないでよそこの女子生徒さん。俺が3次元に興味ないの知ってるでしょうこの学校の生徒なら。


 まごめだよ、まごめの試合を見に来たんだよ! 義兄として!

 3年生が引退し、もうすぐ2年生になるということで女バス内でレギュラー争いが行われ、まごめは見事レギュラーの座を勝ち取ったのである。

 長名高校は割とバスケ部が強く、県内じゃそこそこ名も知られている。小学校の頃からバスケに打ち込んできて中学では校内1の実力者だったまごめでさえ、努力して努力して努力して、ぎりぎりレギュラーになれるくらいなのだ。

 2年生のレギュラー枠は狭き門。これは、その狭き門をくぐりぬけレギュラーになったまごめの、練習試合とはいえ初試合。小さい頃からこいつの頑張りを見てきた俺が、見にこないはずがない。

 カバンからビデオカメラを取り出し、録画をはじめる。

 だからさぁ、そんな不審者を見るような目で見るのやめてもらえませんかねぇそこのおさげの女子生徒さん!

 録らなきゃいけないんだよ! まごめのため、そして今日来れないカナのために!


 俺以上に昔からまごめの頑張りを見て、応援してきたカナ。さぞかし無念だっただろう。毎年外せない親戚の集まりだから仕方ないとはいえ、嘆きに嘆いている姿は見ていられなかった。そんなカナから、せめて録画映像をとたくされたこのビデオカメラ。試合前の様子も録ってくるよう頼まれているため、こうしてカメラをまわしている。

 今は作戦確認中だろうか。部員が顧問の先生を中心に円形に集まって、なにやら話し込んでいる。

 当然のことかもしれないが、まごめは緊張しているようだった。普段はクルクルとせわしなく動いている表情が、今はガチガチに固まっている。

 両チーム確認が終了したようで、お互いに挨拶を交わし、ようやく試合がはじまる。

 練習試合の相手はとなり町にある私立風見鶏高校。この高校も長名高校ほどではないにしろそこそこ強いそうだ。格下だが油断できない相手だな。ちなみに蛍が通っている高校でもある。


 試合のときはいつも、まごめは肩ほどの長さのツインテールではなく、後ろで1つにしばる。いわゆるポニーテールというやつだ。蛍と髪型が被ってるけど、まごめは黒髪で短め、蛍は茶髪で長めだから印象は全然違う。

 前半だというのに両チームとも激しく動いている。女子バスケの試合時間は大体2時間弱。その間たえまなく動き続けるんだから相当な体力が必要だろう。まごめも部活後はものすごい量食べてるけど、あの運動量ならやせているのにも納得できる。

 緊張していた様子のまごめもいざ試合となれば他のことなど何も考えていない、バスケのみに集中している顔になる。

 まごめは巧みな足さばき、ドリブルでコート内を駆け回り、味方にパスをまわしたり、時には自分でシュートを決めたりと録画していて飽きない。新3年生たちの中に混じっていても物怖じせず自分のプレイに集中できているようだ。

 よしよし、順調な試合はこびだ。今のところ長名高校が優勢だし、こりゃカナに良い報告ができそうだ。

 そんな風に思っていた矢先、それは起こった。


 ジャンプシュートをした長名高校の選手の足下に、風見鶏高校の選手の1人が自分の足をおき、着地に失敗、転倒させる。

 ラフプレーだ。倒れたのは、まごめ。

 俺はその瞬間、ビデオカメラを投げだし、まごめに駆け寄っていく。


「まごめ、大丈夫か!」

「にいちゃん、あ、足が……」


 まごめは右足を押さえながら、痛みで顔を歪ませていた。


「俺がすぐ保健室に連れてってやる。でも、その前に」

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