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 無事国境を越えた私たちは、聖国ファーミル内にある大使館へと足を踏み入れました。

 私たちに知らせを届けた一団の方々は聖国ファーミル国の王に返事を届けるためかあの後すぐに馬に乗り戻っていかれました。


 会談は大使館へ今夜国王様自ら御忍びで来られるようなので、私たちは焦ることなく馬車を走らせ大使館へと向かうと、大使館の中の一室で今はひと時の休憩を取ることになりました。


 大使館で出迎えて下さった大使夫妻御二人ともとても優しそうな方で、本来であれば明日到着予定だったはずですのに急な日程変更にも関わらず温かく迎え入れてくださいました。


 予定の変更がどれほど大変なのかなど考えなくてもわかりますのに、御二人とも私達だけでなく御者に至るまですべての者に目を向け細やかな気遣いをしてくださいました。

 義務だけではとてもそこまでの気遣いなど出来ませんし、御二人とも思いやり溢れる方なのでしょう。


 そんな御二人の御もてなしを受けくつろいでいましたがそろそろ晩の御食事に差し掛かる時間。

 私がお茶を頂いている横で何やら一の御姉様と御兄様方がとても真剣に御話をされています。

 額を突き合わせて御話されているので何を話されているのか分かりません。

 分かりません、が。

 皆様の近くに散らばっている色とりどりの女性物の服がどうにも私にとってあまり嬉しくない御話をされているような気がして御話に参加することができません。


 馬車の中でも思っていたのですが、あの衣装はすべて一の御姉様のですわよね?

 私の荷造りしたものの中には見かけなかった物ばかりの際どそうな御衣裳ですもの。

 例え一の御姉様の御体には小さすぎるかもしれないと思われる御衣裳があったとしても絶対私の物ではないですわよね?

 聖国ファーミル国王様からの使者の方々と会った時とはまた違った胸のどきどきを感じてしまうのですが……。


 御姉様と御兄様の話し合いにどきどきしていたら扉の叩かれる音が部屋に響きました。


 晩餐まではゆっくりしたいからと、緊急でない限り誰も来ないようにと通達をしているので何かあったのでしょうか?

 

 御姉様たちもそう思ったのか白熱していた話し合いを中断して部屋に入ってきた人に注目しました。

 部屋に入ってきたのはこの館に住む大使にして子爵であるコルギス子爵です。

 歳は御父様よりも少し年上の方で、元々伯爵家に御生まれになった方だそうなのですが、三男ということもあり結婚と同時に大使の任を受けこちらに来られたと御伺いしています。

 とても優秀な方だと聞き及んでいますし、私の侍女の一人の御両親でもあるのでどうしても初めて会うようには感じません。

 

「御寛ぎのところ申し訳ございません」

「かまいません。それより何かありましたか?」

「教会より教皇様が御忍びで御越しになっているのですが如何いたしましょう」


 頭を下げ話しだされたコルギス子爵に三の御兄様がお答えしますと、予想外の方の来訪を告げられました。

 教皇。

 この国では時に王よりも発言権が上だと言われている方。

 そんな方が態々何故御忍びで来られたのでしょうか?


 御姉様も御兄様も驚いた様子がないので、私以外の方はその理由も知っているのかも知れませんが、私にはその理由が全然わかりません。

 何かあるのでしょうか?


「教皇は何しに来たのか言ってるんですか?」

「アルサウニ様と皆様への挨拶と、今回の件についての御話をしたいとのことです」

「直接アルに会って話したい、ね。尻拭いだけでも図々しいって言うのにこれ以上アルに何をさせる気なのかしら、図々しい」


 コルギス子爵が要件を伝えたら一の御姉様が御怒りを口にされました。

 笑顔ですのにとても怖いと感じてしまいます。

 本当に一体何をそんなに御怒りなのでしょう?


「アル。教皇は『シャルバシーの巫女』に話があるみたいだけどどうしたいですか?」


 何やら呪詛を吐き出した一の御姉様を無視して三の御兄様が私にもわかりやすく何が目的なのか伝えてくださいます。 

 普段まったく気にすることがなくよく忘れてしまうのですが、今回の代表になるに当たってまだ未成年の私が代表になれた要因の一つ、生まれた時から頂いている位『シャルバシーの巫女』の事を思い出しました。


 巫女とは代々王家に生まれた女児の内、体のどこかに華に見える痣がある者だけが付くと言われている位。

 ですがあまりにも滅多に出ないため儀礼的な確認だけが残っている称号の一つでもあります。

 王家の者にとっては時々現れる、そのくらいの認識なのですが教会ではその認識が少し違うのが不思議で仕方ないです。


 確か教会を創ると切っ掛けとなった女性、後の世に聖女と語り継がれる御先祖様の御一人が一番初めの痣を持っていたと言われてるのですがそれは御先祖様の手記が残っているからこそ王家の者は知っているのです。

 そのことを態々言いまわるような者は代々いないはずですのに、何で教会設立時にいたと言われてる聖女が同じような痣をもっていたと知っているんでしょう?

 この痣が出るのは大体服の隠された所だと王家では伝え聞いているのでよっぽど近しい者くらいしか見ることもないですのに。


 何代か前の御先祖様が教会のストーカー……、いえ付き纏いが凄いと書かれているのでそういうことなのでしょう。


 代々痣が出た王族の女子の周りには何故か教会関係者が湧いてくると聞きますし、私は早くから婚約が決まっていたので殿方はいめせんでしたけれど異様に私のことを崇拝する使用人の方が何人もいてよく侍女長や女官長に御仕置されていましたから、ある意味これは呪いの一つなのでしょうか。


 偶々痣を持つ者たちの力が特別秀でている者が多かったので『シャルバシーの巫女』は世間一般で神聖視され、国を纏めることにも役立つということで王家も認められている位ですが痣があるからといって家族に優遇や冷遇なんてされませんから王家の中での認識はとても低くなってしまうのは仕方ないでしょう。

 聖女が神聖視され過ぎて儀式などで煩わせることも恐れ多いと何もないのもその一端ですし、そう考えると何でこんな位が今も残っているのでしょう?

 

「来ているのなら会わずにお帰りいただくのも気が引けますので少しくらいでしたら御話を御聞きしてもいいんではないでしょうか?」


 ここ最近よく聞く位の事を考えながらもまだ会ったことのない教皇様に御話するくらいならと提案すると一の御姉様も御兄様方も目に見えて苦い顔をされました。


「……仕方ないね。嫌だけどアルが決めたなら面会を許可しよう」

「仕方ないわね。ならアルの着替えもあるから少し待たせておいて」

「じゃあ御茶でもしながら嫌味でも行って待ってるよ」

 

 私の言葉に不満はあるようですが、それでも反論することなく御兄様たちは教皇の御出迎えに向かってくれました。

 少し不穏な事を言っている気もしますが相手が相手ですからそんな酷いことにはならないでしょう。


 それよりも一の御姉様の眼がとても楽しそうで嫌な予感しかしません。


「じゃあアル。お客様に会うんだから御着替えしましょうね」

「……はい、御姉様」


 部屋で寛ぐ服と人前に出る服が違うのはマナーなので、言っていることは間違ってませんが今すぐ逃げたい気になるのはどうしてなのでしょう?

 

 あ、でも一の御姉様が持っている服はいつも私が着てる服とあまり変わらない首元や手首まで隠れている服ですか。

 胸元以外が薄い黒色の生地なので落ち着いているので着るのも恥ずかしくないですね。

 これなら着ても恥ずかしくない……、ですかね?







 騙されました……。

 鏡に映った姿に私は思わず膝をついてしまいそうになってしまいました。


 鏡に映る私の姿は確かにパッと見ただけでは露出なんてしていないのに、これが少しでも日に透けるとあら吃驚、黒い布地が透けて肌がハッキリ見えてしまってるのです。

 まだ部屋の中ですから薄らとしか肌が見えてませんが、それでも灯が近くにあればすぐに分かってしまうくらいの布の薄さ。

 どうしてこんなに薄い布を使う必要があるのでしょう?

 もうこれでは衣服として隠す要素がまったく機能してないじゃないですか。

 

 そう思い、何とか一の御姉様に違う服を用意してもらおうと視線を向けると、驚きに固まっている私とは対照的に一の御姉様はとてもやり切った顔をされています。


 あの、御洋服の交換を切にお願いしたいのですけれども……。

 あ、お待たせしているのだからそろそろ行かないと駄目ですか?

 



 

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