第47話 誰の真似でもない場所で
お披露目の日、王都の広場には各地から代表が集まっていた。ドムルとガリンの父子、リンドラとセレンさん、バルガスとミィナ、セラ、そして竜騎士の一団。種族も国も違う面々が、一つの広場に並ぶ光景は、それだけで見たことのないものだった。互いに初対面同士のはずなのに、五符という共通の話題があるだけで、すでにあちこちで談笑が始まっている。
広場の周りには、王都の子供たちが人だかりを作っていた。留守の間ずっと噂だけを聞かされていた彼らにとって、今日は待ちに待った日だった。
「――これが、あなたの言う『誰の真似でもないもの』ですか」
アイシャが腕を組んで会場を見渡した。
「はい。五符――五つの文字と、五人の違う体と力で作る遊びです」
俺は五つの共鳴石をミテルに繋いだ。淡い光が広場全体を包む。
「お題は『最高の一品』。みんな、自分の言葉で組んでください」
ドムルは鉄の名品を、リンドラは一輪の花を、ミィナは俊敏な戦士を、セラは一振りの剣を、竜騎士は疾風の翼を組んだ。それぞれの言葉、それぞれの美意識で生まれた五つの像が、広場の中央に並ぶ。
ミテルが、ゆっくり五つを見て回った。誰か一つを選ぶことはなかった。代わりに、五つの像がふわりと光を帯び、互いに反応し合うように動き始めた。鉄の名品が花を守るように立ち、俊敏な戦士が剣の間合いを補い、翼が全体を包むように舞う。
「――一つにまとまった」
誰かが呟いた。優劣をつけるはずの判定が、いつの間にか一つの情景を作り上げていた。ドムルが目を細め、リンドラが小さく息を呑む。ミィナとセラは顔を見合わせ、竜騎士は誇らしげに翼の像を見上げていた。誰の作品が勝ったのでもなく、誰の作品も負けていない。
広場が歓声に包まれる。アイシャは、しばらく黙って光景を見つめていた。
「地球にも、こんな遊びは……」
「ありません。ここでしか、生まれなかったものです」
迷いなく答えられた。旅の間に拾った言葉、好み、技術。全部、この世界の違う体と力を持つ誰かがいたから、形になった。
「――及第点、どころじゃないですね」
珍しく、アイシャが声を出して笑った。
夜、片付けを終えた工房で、ガルドがぽつりと言った。
「なあ、次はどこへ持っていくんだ、これ」
「決まってる」
俺はミテルを見上げた。淡い光が、静かに瞬いている。工房の外には、まだ片付けきれていない旗や飾りが残っていた。今日一日だけでは到底語り尽くせない、たくさんの言葉と好みと技術が、この街に持ち帰られていた。
「まだ見ぬ場所全部だ」
お披露目から三日後、俺は久しぶりに解析を広げてみた。工房の外はまだ、五符を目当てに訪れる人の列が絶えない。
【王都グランレイス 活気:41%】
内訳:貴族区58% 商業区52% 平民区46%
あの日、8%だった平民区の数字は、もう貴族区に迫るところまで来ていた。数字だけじゃない。旅の間に書き留めたドワーフ語、エルフ語、獣人語、決闘士の隠語、空の民の合図。五符に刻まれる言葉は、日を追うごとに増えていた。持ち帰った紙束は、工房の壁一面を埋め尽くすほどになっている。
「ミテル、今日も元気だな」
工房の隅で、光の粒がふわふわと漂っている。誰かがお題を出すたび、嬉しそうに震えた。
「なあ、ユウタ」
ガルドが、旅の荷物を片付けながら言った。
「結局、あの技術の壁も判定の壁も、俺たちだけじゃ絶対に越えられなかったよな」
「越えられなかった」
俺は素直に頷いた。
「一つの土地、一つの種族の中に閉じてたら、多分ずっと同じところで悩んでた。違う場所に、違う答えを持ってる誰かがいる。それを聞きに行くだけで、こんなに変わるんだな」
「感傷的だな、珍しく」
「柄じゃないのは分かってる」
笑い合っていると、マーキュリーがふらりと顔を出した。
「盛り上がってますね、五符。神々の間でも、ちょっとした話題になってますよ」
「褒めてるのか?」
「もちろん。……ただ、そろそろ次の宿題も降ってきそうです。神々の遊戯、そろそろ本腰を入れて考え始めた方がいいかもしれません」
軽い口調の割に、目の奥はいつになく真剣だった。マーキュリーがそんな顔をするのは珍しい。
「神々の遊戯、ですか」
「はい。詳しい話は、また改めて。今日は、お披露目の余韻に浸っていてください」
そう言って、マーキュリーはいつもの軽い調子に戻り、工房の隅でミテルをつつきながら遊び始めた。
王都の外には、まだ見ぬ土地がいくつもある。訪ねていない種族も、聞いていない言葉も、山ほど残っている。五符の旅は、まだ終わっていない。
「――さて」
俺はミテルを肩に乗せた。淡い光が、次の目的地を待つように瞬く。
「次は、どこへ行こうか」
(五符行脚編・完)




