第2章 ガルス辺境伯家の人々 (1)
カイトは卓の一席で、新しく家族になる人々に囲まれていた。
先程会った辺境伯夫婦に加えて、くすんだ金髪に灰色がかった瞳の年上の少女がいた。
姉になるリリアナという少女は、大陸でも珍しい、異能の〈毒〉属性を持っていると、魔塔の賢者であるハイエルフのセインに鑑定されている稀有な人物だった。
気に入らない者は検出不可能な毒を盛る性格破綻者との噂が王都でも流れていて、カイトもその噂を聞いた事があり、非常に緊張して初顔合わせに臨んでいた。
「リリアナは、普通は10年はかかるアカデミー過程(初中高等科)をスキップ4年で卒業した才女なんですよ」
父親シモンは娘には激甘らしく、嬉しそうに自慢した。
「亡き倅リオンも騎士科で首席で将来が楽しみでしたが…クソッ。魔獣のヤツめ」
シモンはテーブルを叩くと、紅茶を飲み干した。
「陛下のご厚情で、カイト様が息子になってくれるという事で、ようやく悲しみから立ち直れそうです」
妻のアリシアもひっそりと微笑みながら言った。
(魔法属性のない無能者だから王家から追放されたんですが…伝わってるのかな…)
カイトは紅茶を飲みながら、言ってみることにした。
下手に隠しても後日すぐにバレる事だし。
「あのぉ…僕は魔法属性のない無能者だから王家から追放されたのですが…身体も弱いので武芸も苦手ですが…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ」
アリシアはそう答えた。
「王家が認可する血筋で爵位継承できる者がいればいい。リリアナは我が家で後継候補から外れているの。この子は性格がヤバくて、好きに毒研究でもさせておけばいいの。ねぇ、リリアナ。後継者にはなりたくないと言ってたわよね」
アリシアは娘を見ながらそう告げた。
母親から話を振られて、リリアナはチロリとカイトを見た。
* * *
美人だが蛇のような雰囲気のあるリリアナの灰色ががった瞳に真正面から見つめられ、カイトはドギマギした。
リリアナは静かに口を開いた。
「辺境伯の後継者は面倒なだけですもの。カイトさん、武芸ができなくても毒を使えば簡単に魔獣を倒せるわよ。そのうち調合薬学を教えてあげるわ」
「助かります」
予想外に優しい言葉にカイトはホッとした。
(仲良くなれるかも?)
「リリアナさんは異能をお持ちだとか。凄いですね。鑑定でも受けられたんですか?」
よいしょしてみることにした。
「〈毒〉属性のこと?隠しておくつもりだったのに、あの魔塔のクソエルフが余計なことを!」
リリアナは舌打ちしながら言った。
アリシアは眉をひそめ、たしなめた。
「リリアナ! レディがクソなんて言葉を使って!!」
「娘に近づく男は皆クソで間違いない!!」
「あなた!! そうやって、あなたがリリアナに激甘だから、リリアナが規格外に育ったのよ」
夫シモンの言葉に、アリシアは非難した。
親の夫婦喧嘩をリリアナはスルーし、話を続けた。
「王立アカデミーの特別講座にたまたま招聘されたクソエルフが、勝手に鑑定眼を使ったのよ。おかげで悪目立ちしてデメリットしかない。私の毒を検出できるのは鑑定眼持ちであるクソエルフだけだけど、あいつの敵も消してやってるので余計なことは言わないけど。
あぁ。あなた、王族なのに魔法属性がないんですって?あのクソエルフのセインを紹介してあげましょうか?王族なら何か異能ありそうじゃない?」
「ありがとうございます。そのうち機会があれば…」
カイトはそう答えながら不安と期待でドキドキしていた。
(見てもらいたい気もするが、異能もなかったらどうしよう泣)
「リリアナさんはその魔塔のエルフ・セインさんとは親しいんですか?」
「は⁉︎ 全く仲悪いよ」
リリアナはティーカップを乱暴に置いた。
カイトは噂に聞く毒令嬢が極悪人ではなさげでホッとしていた。
(ひ弱な僕に武芸強要されないの助かるぅ。調合で魔獣始末できるようになれば、ガルス辺境伯家にいていいのかな。追い出されないならありがたい)
希望が出てきたので、カイトはリラックスして紅茶を飲んだのだった。
* * *
それから数週間が経過し、ガルス辺境伯家の中に、カイトは徐々に慣れていった。
最初に会ったアンというメイドがそのままカイトの専属メイドになり、和やかな時が流れていった。
まだ10歳なので、軽い運動や勉学が日課となっているだけで放置気味でのんびりしていた。王族ではないので、立ち居振る舞いマナー講習も、式典の前日にやっつけ講習がガルス辺境伯家の家風らしく不要になったのでありがたや。
ガルス辺境伯家に着いた初日に部屋の窓の外に見かけた三毛猫は、飼い猫ではないらしいが、敷地内を自由に闊歩していて、カイトを気に入ったのか時々遭遇した。
猫は好きだったが、王宮で一度飼った時に、飲み水や餌に毒が入れられていて目の前で死んだトラウマから飼おうとは思えなかった。犯人は王宮で病弱でオドオド気味で親に軽んじられている自分を気に入らない者の指示か…定かではなかった。
(もふもふは遠くから愛でる位がいいや)
長兄ガリウスは、王宮のセキュリティの杜撰さに激怒し、犯人が特定できないのなら連帯責任だと、疑わしきは全員罰すると、勤務者を全員解雇してくれたことを思い出した。
(無能者で王宮にいると、侍女達にも馬鹿にされそうだし。
兄上なりに気を使ってくれたのだろうか…)
ガルス辺境伯家の人達は王宮の人達より優しかったので、良く解釈することにしたのであった。




