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グレードアップ  作者: エスプレッソ
際会編

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17/50

第21話ラメ・ドゥでまた会おう

 週末明けのコインランドリー。


 自動洗濯乾燥機の生成に始まるも、設備と場所の問題で増産はできない。

 この前の中断した続きの結果は次のとおり。


 自動洗濯乾燥機♦︎7を最大まで強化し、グレードアップをおこなった。

 

 ♦︎8となった自動洗濯乾燥機。

 強化するごとに損耗率が修復されていき95%まで戻っていたが、グレードアップをおこなって綺麗に100%の新品となった。


 しかし、修復効果は序幕を破る先駆けの嚆矢(こうし)に過ぎなかった。 

 

 ”グレードアップを行なったため、対象の拡張機能がアクティブ化”と、アプリ内通知。


 グレードアップした自動洗濯乾燥機の情報欄を確認する。


「拡張機能……」


 強化などが並ぶタブに新しく拡張機能タブが追加されていた。


 拡張機能(小型自動乾燥洗濯機♦︎8 )

 

 全運転時間 節減短縮 

 -洗濯時間 3分

 -乾燥時間 7分


 コスト節減

 電気・水・ガスの節減率が40%(♦︎が1上がるごとに5%ずつ変化)



 ……文字に目ん玉ブッ刺された。


 洗濯時間3分って、物理さん捻じ曲げた?

 乾燥時間7分って、洗濯物もろとも店、炎上しない?


 機能ごとにオン・オフできるっぽい。

 拡張機能とやらをオフにすれば普通に使えるってことだし、悪くない。

 よかった。


 ……異才、怪異、特異をまとめて異象というわけだが、これってもしかする。


 洗濯機が異象化(シフト)した。


 強化による変化は一般常識の範疇だったけど、異象化となると一気に可能性が広がる。

 まぁ、世の中、シフター素材を使った武器とかあるから不思議な力を持った物なんて割とありふれてる訳、つまり洗濯機くん、で、君が生まれたってわけ。


 嬉しいような厄介なような、兎角、深いこと考えたくないが、禁忌に手を出せと耳元で悪魔が囁く。 

 

 人間を強化してグレードアップしたらどうなるんだろ。

 ……あるんだよな。プライベートタブと人材リストにオレの名前。


 強化の初っ端から要求される素材がグリックだから見ないようにしていた。


 いや、だめだ。実験するにしてもまずは動物実験からした方がいい。

 

 それよりも、この気味悪い拡張機能を活かす方法を考えたいと、頭をひねってアイデアを絞り出そうとしていた。


 店の自動扉が開く。

 齢もそう離れていない20代前半くらいの女性だ……メンテ中の張り紙すんの忘れてた。

 今日は設置してる機械をぜんぶいじるつもりなかったし、いっか。


「失礼します。ご利用される機械をお迷いですか?」

「コインランドリー初めてなんです。大きさいっぱいあるし、時間とか、使い方もわからなくて」

「大丈夫です。俺、ここのスタッフみたいなもんなんで」

「そうなんだ。よかったらアドバイスしてもらえますか?」

「もちろん。最初は迷いますよね。色ものとか大事な服はわけますか?」

「いえ、このバックの中のものをそのまま」

「追加がなければその量なら小型で十分です」


 女性が手にしたバックの洗濯物の量をみて、小型の全自動洗濯乾燥機を薦める。

 ベンチに腰をかけてそれとなく待っていると、洗濯を始められた女性が隣に腰をかける。


「助かります」

「お安い御用です」

「……ふぁあああ……失礼」

「お疲れですか?」

「ええ。一先ず心配だった洗濯始められましたし、それに洗剤の香りに混じってコーヒーのいい香りがしたから、つい眠気に意識がいっちゃって」

「俺の知り合いがカフェをやってて特別にテイクアウトさせてもらってるんです」

「そうなんだ」

「……俺、店でも飲んできましたし、まだ口つけてないですから、よかったらどうぞ」

「え?」

「知り合ったばかりの奴が薦めるんで怪しいかもしれないですけど」

「自分で飲むつもりだったものでしょ?」

「ええ、まぁ」

「お言葉に甘んじていただきます。お金を」

「いいっす。俺が嬉しくなりたくてやってる宣伝なんで。気が向いたら飲みに行ってやってください。できたてはメチャメチャ美味いんで」

「はい。えっと……私は(アキ)です」

「花木 開です。このランドリーの責任者やってます。苗字ランドリーと一緒の名前なんで下の名前で」

「距離を詰めるのが上手だね。プレイボーイなのかな?」

「まっさかぁ」

「催促したみたいでごめんなさい。それじゃあいただきます。ヒラクくん」

 

 コーヒーを一口。

 じっくりと飲み込むと、カップの飲み口に親指を当てる。


「おいしぃ……」

「店の名前はアマレーナです。それ淹れたの俺の馴染みなんで、感想伝えてもいいですか?喜ぶと思うんで」

「もちろん。そうしていただくと助かります。ちなみに明日の朝とか、アマレーナさんは開いてるかな」

「ええ。7:00からです。10:00までモーニングやってて。エッグベネティクトとか、でも俺は卵サンドがイチオシです」

「いいこと聞いた。私、卵のお料理大好きなの」

「サラダとかスープとか、他のメニューも豊富ですし美味しいですよ」


 待ち時間にやることあって迷惑かもしれないから引いた方がいいんだろうが、いかん、会話がはずんでしまう。


「他にカフェのこれっていうおすすめは?」

「アフォガードです。お店の名前になってるアマレーナのジェラードが使われてるんです。俺、エスプレッソ好きなんですけど、どうにも子供の時に飲ませてもらった味が馴染んでしまって」

「いいね。ふとコーヒーの香りを嗅ぐと故郷を思い出したりするのかしら」

「ですね。俺、この前まで東京いたんですけど、コーヒーの匂いがするたびにアマレーナのこと思い出してたんです」

「へぇ、東京に。私は明日東京に帰る予定なの。でも明日着る服がなくて」


 アキさんは、オープンシーのシフハンでサポートスタッフをしてるらしい。 

 自家用のクルーザーでバカンスを楽しんでいたが、ワッシャーが故障してしまい、早めに帰港したのだとか。 

 今晩は船の上で一泊して、明日、飛行機で東京に帰る。


 バカンスでも船に乗るとか、よっぽど海が好きなんだ。


「洗濯しておかないとくさい服着て飛行機乗らないといけなかったから急いでランドリーに寄ったんだ」


 ちょっとセンシチブだな、この人。


「嗅いでみたい?」


 こちらの考えを見透かしたように、アキさんは俺に向き直ると透けた黒いブラウスの首元に指をかける仕草で俺の目を虜にした。

 浸透するようなブルーブラックのストレートロングの髪がインナーが包む豊かな胸部へと視線を流そうとしてくる。

 そんな誘われ方すると、本気にしちゃいそう。


 静まり返った空間に感覚が研ぎ澄まされる。 

 沈黙したままわずかにこちらのアキさんが詰める。

 少し蒸れた、アキさんの美味しそうな体臭が漂ってくる。


「連絡先交換しましょ、アキさん」

「SNSだったらいいよ。グリッター、やってる?」

「ええ」

「私は始めたばっかりで。日本に帰ってきたのも最近だったから。日本人はグリッター、グリッターって言ってて、はじめて来た時は核肉(なんで)、連呼してるんだろって思ったよ」

「外国だとどんなSNSが主流なんですかね」

「ラメ、かな」

「へぇーはじめてきいた」

「そう?」

 

 スマホを操作する手が画面にくっついて中々離れない。

 指が震えるのを必死に抑えてる。


 ……ガチの初恋か、これ。


 体の底から彼女を求める気持ちが溢れてくる。


 心臓が血を腹に送り出して、腹から体が熱くなる。

 


 ──……そして、腹が鳴る。


「君は口説く最中にもおならとか我慢できないタイプの人?」

「生理現象なんだからしょうがないだろ!」

「だね。でも君のことがすごく印象に残った」

「……すみません」

「また少し距離が縮まった」

「はい……」


 俺を揶揄ったアキさんは満足したようにベンチを立ち、洗濯物をとりに向かった。


「花木 開くん。ラメ・ドゥでまた会おう。バイバイ」


 ラメ……ああ、海外のSNSか。

 交換したのグリッターアカだけど、どっちでもいい。


「それまで生きていてね」


 ガラス越しに、道を行き、建物の影に隠れるまで目で追っていく。


 俺、ずっと正気じゃなかった気がする。


 しかし、謎の美人アキさんの連絡先をゲット。


 ……アキさんに当てられた熱を冷ますようにしばらくベンチに腰をかけていたが、活動エネルギーは尽きかけたままだ。


「帰ろう」


 生成した洗濯機の片付けがあったが、面倒だったので入り口に貼る予定だったメンテ中の紙を機械に貼り付けてから帰ろう。

 

 ……身の周りを探すも、紙はない。


 ドア……メンテ中の張り紙ついてるじゃん。 


 はじめての花木(コイン)ランドでテンパってて見逃したんかな。

 アキさんを追うのに夢中で、俺も見逃してた。


 入り口の紙を剥がし、洗濯機に貼り直す。

 アキさんとの出会いで燻る感情が他の感情で消えてしまわないよう、頭の中を空っぽにして退勤しよ。

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