表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/146

宰相戦の結果

 月暈院つきがさいんと民政委員の投票の結果、宰相戦の勝敗が決した。月暈院の議員三十八名と、国民を代表する民政委員七名による、計四十五票の内、シュレム四十票、セライ五票により、シュレムが新宰相としての指名を受けることとなった。真摯に結果を受け止めたセライは、戴冠式の前に、スザリノに思いを伝えた。

「俺は戴冠式が終わったら、辞表願を出す。官吏を辞めて、一から月暈院の議員を目指す。……そうさせていただいても宜しいでしょうか、スザリノ王女殿下」

 セライがスザリノの前にかしずき、うかがいを立てる。

「セライ……」

「本来であれば、わたくしは、スザリノ王女殿下と、こうしてお話など出来ない立場の者です。しかし、それが許されていたのも、すべてはハクレイが父であったため。父がハクレイでなければ、こうして貴方様のお傍にいることなど、一生許されるはずもなかったのにっ……」

 ハクレイの地位があったからこそ、セライは幼い頃からスザリノの傍にいることが出来た。宰相の息子であったからこそ、スザリノと恋人同士になることが許され、その先に、結婚という理想を掲げることが出来たのだ。

「……私は、セライが宰相の息子でなくとも、貴方を選びましたわ」

「え……?」

 思ってもいなかった言葉に、セライはスザリノを見上げた。

「貴方がどこで生まれても、何をしていても、私と貴方は、必ず出会う運命にあったのだと信じています。だから、そのように畏まらないで? 私を王女ではなく、一人の女性として扱ってくれる貴方の傍にいたいのよ。これから先、死ぬまでずっと傍にいる——。そう、約束しましたもの」

「スウ……。ああ、ずっと、ずっと傍にいる。必ず俺が、お前を幸せにしてみせる」

 スザリノの手を取ったセライが、心の底から強く誓った。

「——あの、セライ様、ですよね……?」

 二人の世界に入る間際、後ろから中年の男性に話しかけられた。その背後には十数人もの集団がいる。みな、くたびれた服装ではあるが、白色の花を一輪ずつ握っていた。

「はい。わたくしがセライですが……」

「ああ、やっぱり……!」

 集団を代表して話しかけてきた男性が、被っていた帽子を外した。みな、同じように帽子を外す。

「我々は、旧スラム街に住んでいる者達です。生前、ハクレイ宰相様によって、我々スラムに生きる者達の生活は、より良いものへと変わりました。我々はみな、ハクレイ宰相様に、生きる喜びを与えていただいたんです。今回、このような結果となってしまいましたが、どうしてもお礼が言いたくて……! 本当に、ありがとうございました!」

 男性を中心に、みなが一斉に頭を下げた。

「ハクレイ宰相様は、我々にとって、生きる希望でした。あの方がいらしたからこそ、我々は今日を生きることが出来るんです! 明日を夢見ることが出来るんです! ほんとうに、ほんとうにっ……セライ様が宰相になれたら、どれだけよかったかっ……」

 ハクレイの死を悼み、宰相戦の結果を受けた旧スラム街出身者らが、涙ぐむ。その様子に、セライはハクレイを貶めることも、自分を悲観することもしなかった。

「ハクレイをしのんでくださり、ありがとうございます。わたくしもまだ、宰相になることを諦めてはおりません。必ずや、父の跡を継ぎます。この国がもっと豊かに、そして、誰もが幸せに生きられるように、わたくしが宰相となり、それを実現させてみせます」

 心強いセライの言葉に、みなが涙を流して喜ぶ。その隣でスザリノが微笑み、終始その様子を見ていたイーガー王太子が、そっと自分の掌を見つめた。

 ハクレイの墓は、妻、ロゼッタの隣に建てられた。そこには、ハクレイを象徴する白い花々が多く手向けられ、セライもまた、再起を図ることを誓って、紺碧こんぺき色の花を一輪、手向たむけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ