石切皇子の算段
役人から報告を受けた鷲尾院は、臣下を連れ、筑紫島は隼人の地に足を踏み入れた。そこには、鷲尾院の到着を待っていた石切皇子がいて、平伏しながら、恭しく彼らを迎え入れた。
「——お久しゅうございまする。叔父上におかれましては、御早い御到着、此の鷹宮、感服の極みにございまする」
「心にもないことを申すでない、鷹宮よ。月の者らは何処へ逃げた? 其れだけ話すが良い」
鷲尾院の傍には、“怪僧”アルテノ、九条是枝、不動院満仲といった、側近らの姿もある。みな、じっと石切皇子を疑いの眼で見つめている。
「ああ、そうでしたな。月の者らは、満月の夜に月へと帰る算段でおりまする。何でも、蒲生の大楠に、月より迎えが来るとのことでございまする」
「蒲生の大楠?」
「ええ。蒲生ならば、以前鷹狩にて訪れたことがございますれば、此の鷹宮が叔父上をその地まで、お連れ致しまする。共に、月の者らを狩りましょうぞ。そこで、折り入って叔父上にお願いがございまする」
「願い? 何じゃ、それは」
「彼の絶世の美女、かあや姫をずたずたに切り裂いた後、ほんのちいとばかり、その断片を鷹宮にくだされ。……そうですなぁ、あの黄金に靡く髪と、生意気な目など、所望致しまする」
下衆な表情を浮かべて、自らの目を指さす石切皇子に、ぎりっと満仲が苛立つ。
「其れが終わり次第、次は朱鷺狩りと参りましょうぞ」
愉快そうに話す石切皇子に、ふんっと鷲尾院が鼻で笑った。
「そなたも悪趣味よのう。まあ良い。可愛い甥の頼みじゃ。そこら辺りは好きにするが良い」
「有難き幸せにございまする」
石切皇子が平伏し、「では早速、蒲生の地へ」と鷲尾院一行を誘った。