14.開拓村の人たちを助ける
ヒトミと別れた俺は、転移魔法で、ミョーコゥへと戻ろうとした。
だが、帰る前に一つ、確認しておかねばならないことがあった。
「……北西の方角に村があるな」
先ほど火炎連弾を使った。
その着弾地点の一つが、ちょうどその村の近くに当たる。
俺の放った魔法は、正確に、砂蟲だけを倒したはずだ。
しかしたとえばその魔法の余波(爆発に巻き込まれたとか、衝撃波によって吹っ飛ばされたとか)で、けが人が出てないとは限らない。
「様子を見に行くか。そんなに遠くないしな」
助けに行くのは、善意からではない。
あとで俺のせいでって責められるのが嫌なだけだ。
飛行魔法を使い、北西へ向かうことしばし。
小さな村へと到着した。
なんとも小規模な村だった。
村の周囲をぐるりと柵で囲ってあるが、魔物除けの結界が張られてない。
あれでは、魔物にどうぞ我々を食べてくださいと言ってるようなものではないか。
「…………」
俺の魔法で、もともと張っていた結界を壊した、という可能性は……ない。
結界が壊されたとしても、その場に魔力の痕跡が残るからだ。
この村は最初から結界が張られてなかったのだろう。
まあ……関係のないことだが。
「なにはともあれ、まずは村周囲の穴ぼこを直すか」
村の周りには俺の火炎連弾による大穴がいくつも開いてる。
まず錬金(土属性魔法)の魔法を使う。
物体の性質・形態を変化させる魔法だ。
土を移動させて大穴をふさぐ。
ずずずず……。
村周辺の穴はふさがったので、今度は村の中の穴をふさぐことにする。
ずずずず……。
「あとは……けが人がいないか確かめるか」
村の中に降り立ち、近くにいた村人の一人に声をかける。
「おい」
「え!? だ、誰ですかい……?」
村人はドワーフのようであった。
身長が低いし、体つきががっしりしてる。
「俺は……」
もう冒険者は引退してるので、なんと名乗るのが適切なのだろうか。
「! もしかして、冒険者のかたですか!?」
「え、あ、ああ……まあ……」
冒険者のギルド証は返納してないので、いちおう、冒険者としての登録はされてる。
不審がられそうだったし、さっさと帰りたいので、肯定することにした。
「ってことはまさか……メアリー様の」
ドワーフはぶつぶつと何事かをつぶやいている。
「団長のもとへご案内します!」
「え? あ、ああ……頼む」
けが人がいるか確認したかっただけなんだが。
しかしここのリーダーとなれば、けが人を把握してるだろう。
ドワーフに連れられて粗末な木製の小屋まで連れてこられた。
「団長! メアリー様からのご依頼で、冒険者のかたが来てくれましたよ!」
別に誰の依頼でもないのだが、ドワーフは勝手にそう解釈したらしい。
小屋の奥では一人の男が、布団の上で横たわっていた。
「おお……冒険者殿。まさか、来てくださるとは……」
団長と呼ばれた男もまた、ドワーフだった。
だが病気にかかってるのか顔色が悪そうだ。
「ごほっごほっごほっ! げほげほっ!」
「団長! しっかりしてください!」
せき込んでいて、こちらの話を聞く余裕はなさそうだ。
……これは決して善意の行いではない。
そういうのは、もうやめたんだから。
「【鑑定】」
~~~~~~
名前:ガンコジー・クラフト(40)
種族:ドワーフ
職業:鍛冶師
状態:MGP症候群
~~~~~~
■MGP症候群
→体内の魔力が著しく欠乏し、体が機能不全を起こす病気。魔力欠乏症ともいう。
治療には完全回復薬を用いるか、大量の魔力を体外から一気に摂取しないかぎり、死に至る。
勇者の職業が持つ鑑定スキルのかげで、このドワーフがやばい状況であることが判明した。
「ちょっと触るぞ」
「いったい何を……?」
俺は有無を言わさず、このドワーフのガンコジー(変な名前)の胸に手をやる。
そして、魔力を一気に注ぎ込んだ。
「こ、これは! ぐ、ぐああああああああ!」
俺が魔力を注ぎ終えると、ガンコジーの顔色が元に戻っていた。
「おお! なんということじゃ! 体に活力が戻ってきたぞ!」
さっきまで死にかけてたじーさんが、ひょいっと立ち上がる。
「す、すごい……どんな薬を試しても、決して治らなかった病気を、治してしまうなんて!」
「完全回復薬じゃないと治らなかったみたいだぞ」
まあ、そんな高価なもの、そう簡単に手に入るものじゃないからな。
試したくても試せなかったのだろう。
「冒険者殿、ありがとうございます! なんとお礼を申し上げていいやら……」
「要らん。俺が教えてほしいのは一つだ。けが人は、いるか?」
するとなぜかガンコジーが笑顔になって、何度も頭を下げる。
「おります! かなりの数が!」
……くそ。
思ったより、【俺の魔法によって】、けが人が出ちまってるみたいだな。
「まさか、治療してくださるのですか!?」
「……少し待ってろ。【転移】」
俺は転移魔法を使って、ミョーコゥにある、薬屋まで一瞬で移動した。
「うぉ!? べ、ベルさん? どうしたんだい?」
「マテオ。金は後で払うから、ありったけの薬をくれ」
俺は軽く事情を話す。
薬師マテオは「OK」と言ってうなずいた。
彼女は店にあるポーションを、ありったけ、テーブルの上に用意する。
「今カバンに詰めるから……」
「必要ない。【収納】」
俺は右手を前に出す。
大量のポーションが一瞬で消え去る。
「!? ま、まさか……古代魔法のひとつ、収納魔法かい!?」
古代魔法?
何だか知らないが、古い本に書かれていた魔法だ。
異空間に物体を収納する魔法。
冒険の時に便利だったので、よく使っていた。
「べ、ベルさん……それ、古代魔法って言って、失われた……」
「さっさと行くぞ。けが人が多いんだ。あとで金払うから手を貸してくれ」
マテオの手をつかんで、魔法を発動する。
「【大転移】」
「はぁ!? ちょ、え、大転移ってそれも古代……」
一瞬で、ミョーコゥからガンコジーの家の中へと転移する。
ぎょっ、とドワーフどもが目をむいていた。
「ぼ、冒険者殿!? 今どちらに……?」
「どうでもいいだろ。それより、薬師を連れてきた。けが人をこいつに診てもらってくれ」
俺は収納魔法を発動。
マテオの持ち物、そして大量のポーションを、異空間から取り出し床に置く。
「おおおお! ポーションがこんなに! しかも、薬師殿まで連れてきてくださるとは!」
ガンコジーとドワーフは、そろって俺の前で土下座する。
「ありがとうございます! 冒険者殿! 本当に助かりました! あなた様は救いの神です!」
土下座されても気分のいいものではなかった。
「やめてくれ。俺は救いの神でもなんでもない」
ただ自分のしりぬぐいをしてるだけだ。
「ベルさんあんた、ほんとに良い人さね。どこでも人助けしちまうなんて」
マテオが嬉しそうに笑う。
この女どうやら、俺が見ず知らずの他人を善意で助けていると誤解してるようだ。
違う、と否定しようとしたその時。
「! この魔力の波長は……」
「ベルさん?」
……デカイ。
すさまじい魔力量のモンスターが、こちらに近づいてきている。
いったいどうして……。
いや、原因はわかりきっている。
「俺がいるからか……! くそ!」
魔物にもまた、魔力を感じ取る力というものが備わっている。(俺の魔力感知よりは精度が低いが)
大勇者となった俺の魔力量、そして魔法出力は、ヒドラを一撃で葬り去るほど強大だ。
その強大な力を感じ取った魔物が、自身の縄張りを荒らしに来たと誤解し、こちらに向かってきてるのだろう。
「またか……厄介ごとが次から次へと!」
ここで見捨てることはできない。
俺という存在が、この村に厄災を招いたのだから。
「冒険者殿? どうなされたのじゃ?」
「村の連中を家の中に避難させろ。絶対に外に出させるな! いいな!」
ガンコジーは戸惑いながらもうなずく。
俺は小屋の外に出て、空を飛ぼうとする。
「ベルさん! どこ行くんだい?」
マテオが追いかけてきた。
ついてこられても足手まといだし、迷惑だ。
「やばいモンスターが近づいてきてる。俺は今からそいつを倒してくる。危ないからここにいろ。いいな?」
「!? べ、ベルさん……あんた、また人助けを……」
訂正する暇もおしいので、俺は無視して、その場から離れる。
魔物と戦ってる最中に、この村に被害が出ても困る。
だから俺は仕方なく、村に結界を施しておいた。
あらゆる魔法が使える俺だが、不得手なものももちろん存在する。
回復、結界魔法が特に苦手なのだ。
俺は魔法を魔物と戦うための道具だと認識してる。
そのせいで、誰かを治したり、守ったりする魔法は、苦手なのだ。
出来上がった、不格好な結界を見ながら思う。
こんな下手くそな結界、ティアが見たらきっと笑ってしまうだろうな。
それでも弱い魔物や、飛んできた岩などからは、村を守ってくれるだろう。
俺はこちらへ接近してくる魔物のもとへと、急行するのだった。
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