12.勇者Side その4
ジャーク達は直ぐに準備をととのえて、王都を出発する。
依頼主はよほど急いでるのか、休憩を一度も取ることなく馬車を走らせた。
そして徹夜のかいあって、ついに、人外魔境への入口へと到着したのだった。
目の前に広がる、一面の荒野を見下ろしながら、ジャークは叫ぶ。
「よっしゃ! こっから人外魔境! おれさまの出番だぜぇ!」
ぐっすり寝て元気いっぱいのジャーク。
一方ティアは一人ぐったりしていた。
彼女はここに来る途中、魔除けの結界を、一人でずっと維持してきたのだ。
結界魔法は張るときよりも、維持するときのほうが、魔力を消費する。
この先戦闘になったときのため、回復魔法用の魔力は残しておきたかったのだが……。
「……普段なら、アベルさんが交代で結界を張ってくれたのに……」
「よーし! 進めおまえらぁ! 敵が出てきても、このおれが無双してやんよぉ!」
ジャークがそう言うと、メアリーは号令を出し馬車を動かす。
馬車は人外魔境の荒野をガタゴトと進んでいく。
ジャークは御者台に座り、余裕の笑みを浮かべていた。
「あー、とっとと仕事片付けてぇ、帰って報酬で豪遊してぇ~」
「ジャーク。真面目に仕事してください。あなた……メアリーさんたちが、どんな思いであなたに依頼したのか、ちゃんと聞いてましたか?」
「あ? 聞いてないけど」
ティアがため息交じりに、この依頼の説明する。
「この馬車は人外魔境を拠点にしてる、開拓団の村へ向かっているのです」
「ふーん……」
「現在、村は魔物におそわれ、窮地に陥ってるのです。開拓団リーダーとメアリー様は無二の親友。彼女は友のために、危険を顧みず、物資を届けに……」
「あーはいはい、そういうのどーでもいいから」
金さえもらえれば、依頼人の事情なんてどうでもいいのである。
「それよりティアよぉ、この依頼終わって大金が入ったらさ、家買わね? 二人で一緒に……」
……と、余裕ぶっていられたのは、ここまでだった。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「んなっ!? な、なんだぁ!?」
「地震!?」
突如として地面が激しく揺れだしたのだ。
馬車から転げ落ちる、ジャークとティア。
「つつぅう……おい一体何が……って、なんじゃあの化け物ぉお!?」
「UBOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
超巨大なミミズ型モンスターが出現した。
大きさは10メートルほどだろうか。
硬そうな外皮に包まれているが、フォルムはミミズ。
大樹と見まがうほどの太い胴体。
頭部にはイソギンチャクのような口がついており、無数の鋭い歯がついていた。
「砂蟲です! Sランクモンスターの! ここら辺が生息地だって、出発前に言ったでしょう!?」
「き、聞いてねえよ……っていうか! おい! ゼーレン!」
ジャークは横転した馬車を見やる。
ひとり空中に浮遊していたゼーレンは、ふわり、と着地する。
「おまえちゃんと仕事しろよ!」
「……? 意味がわからんが、敵が来てる。速く時間を稼ぐのじゃ。わらわが殺す」
ゼーレンは魔法の杖を構える。
「おれに命令すんじゃねえ! 魔物をぶっ殺すのはおれの役目だ!」
「ジャーク! 突っ込んではいけません……! ちゃんと連携を……」
ティアからの忠告を無視して、ジャークは砂蟲へと特攻する。
「おらぁあああ! 出でよ聖剣レーヴァテイン!」
勇者スキルの一つ、聖剣召喚。
魔物に対して効果抜群の、対魔属性を帯びた聖なる剣。
聖剣を召喚し、自在にふるえるのは、勇者に与えられた特権。
聖剣があればどんな魔物も、溶けたバターのように一刀両断できる。
ジャークは、いつものように聖剣レーヴァテインを召喚し、砂蟲をぶった切る……。
それで、戦闘終了……となる、はずだった。
しーん……。
「は!? あ、あれ……? おい聖剣! 聖剣レーヴァテイン! 出てこいや!」
が、いくら呼んでも聖剣は出現しなかった。
……ここにきて初めて、ジャークは額に汗をかく。
だが困惑してるジャークを他所に、砂蟲が尾で攻撃してきた。
砂蟲は、大樹と見まがうほどのぶっとい尾を、思い切りジャークにたたきつけてくる。
「ひぃ、やぁあああああああああああああああああああああああ!」
ジャークは情けない声を上げながら真横にジャンプする。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!
荒野に巨大クレーターができあがった。
……運良く回避できたからいいものの、アレを食らったら、ジャークの体はミンチになっていたことだろう。
「ジャーク! 何ふざけてるんですか! 早く聖剣を出して応戦してください!」
ティアは結界を張って、ゼーレンを守護している。
「ふざけてなんかねえよぉお! 聖剣が出ないんだよぉ!」
「! ジャーク、逃げて! 後ぉ!」
今度は砂蟲がこちらに向かって、頭から突っ込んできたのだ。
ナイフのような鋭利な歯を、グロテスクな顔面が直ぐ近くにきていた。
ジャークは腰が抜けてしまい、その場にへたり込む。
「う、うわぁああああああああ!」
ジャークは砂蟲に食われてしまう運命にあった……。
「消えろ虫ケラが。【煉獄業火球】!」
ゼーレンが杖先を砂蟲に向ける。
ドガァアアアアアアン……!
ゼーレンの放った極大の炎が、砂蟲の顔面【のみ】を破壊した。
頭部を失った砂蟲は、体が制御できず、その場に崩れ落ちる。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
かたかたかた……とジャークが恐怖で体を震わせる。
「ジャーク! 大丈夫ですか!?」
結界を解いて、ティアたちがこちらにやってくる。
「あ、ああ……ケガはねえよ……」
ほっ、とティアが安堵の息をつく。
生きてて、良かったと心から、ジャークは思った。
だが次第に、怒りがこみ上げてきた。
「って、おい! ゼーレン! てめえ何サボってんだよ!」
びしっ、とジャークがゼーレンに指を立てる。
「なんで、魔力感知で、敵が周りにいないか調べねえんだよ!」
魔力感知。
周囲一帯にいる魔力を持つ生物(魔物)がいないか感知する、アベルがよく使っていたスキルだ。
「ふざけてるのは貴様のほうだ」
「なんだと!?」
ゼーレンは真面目な顔で言う。
「魔力感知なんて、超高度な技術、使えるわけがないじゃろう」
超高度な、技術?
アベルが、普通に、呼吸するように使っていたスキルが……?
「魔力感知は、才能のあるエルフが長い年月をかけて魔法を極め、ようやく修得できる秘奥義じゃ。わらわのような年若いエルフに使えるわけがないだろう?」
……ゼーレンは嘘を言ってるようには思えない。
「う、嘘だろ……魔力感知なんて、誰にでもできるんじゃ……」
と、そのときである。
「UBOOO!」
「UBOBOOO!」
「UBOBOBOBOBOOOOOOOOO!」
地中から砂蟲が複数体、出現したのである。
「砂蟲の大群だ!」
「勇者さまぁ……! 早く倒してください! 勇者さまぁ!」
……1匹、2匹といったレベルではない。
視界内いっぱいに砂蟲が、あの凶悪な化け物がいる。
……聖剣が使えない今の状態で、勝ち目なんてゼロだ。
「ぜ、ゼーレン! 魔法で全部こ、殺してくれ!」
「む、無理じゃ……煉獄業火球で倒せるのは、1匹までじゃ……」
「はぁ!? ふざ、ふざけんな! 極大魔法なら、大量のSランクだって、倒せるはずだろ!?」
「極大魔法にそんな力は無い……!」
「ある! 魔力感知も使えねえし、ほんとおまえ使えない魔法使いだな!」
「「「UBOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」」」
砂蟲の大群による咆哮。
それを聞いて、ジャークたちは完全にびびってしまった。
そこへ砂蟲が押し寄せるが……。
ガキィイイイイイイイイイン!
「逃げてください!」
ティアが巨大な光の結界を展開していた。
砂蟲は結界によって動けないでいる。
「ひ、ひぎゃあああああああああああああ!」
ジャークは情けなく叫びながら、一目散に撤退する。
ゼーレンは腰が抜けてしまってるようだ。
ティアはゼーレンの手を引いて、ギルドの人間達と一緒に逃げる。
「ちくしょぉおお! どうなってんだよぉ、ちくしょおぉおおおおお!」
……ジャークは気づいていない。
呪詛返しの影響で、勇者の力を失っていることに。
聖剣はもう二度と、呼び出すどころか、握れなくなってしまっていることに。
かくして、ジャークは、あれだけイキリ散らしていたのに、あっさり任務に失敗してしまった。
……これが、地獄の始まりだった。
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