第10話 遅咲きのほうれんそう
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよドラキュラさま!!そんな簡単に返事するものではありませんってば!!」
「いいだろうが!!俺たちがボリべの相手をしている間に、クンがサンを助け出す。それだけの話だろ!!」
「いいですか、余計な人や物事まで取り入れてしまうと、僕らの計画が上手くいかなくなる可能性が高くなるんです!!失敗すれば、最悪僕らが罪人になってしまうことだってありえるんですよ!!」
「俺らが罪人か・・・。ふふふ、それも面白そうだな!!」
ドラキュラは強がったのではない。心の底からそう思ったのである。
「何を呑気なこと言ってるんですか??そんなことになったらムーンも処刑されるんですからね!!」
後先考えないドラキュラの発言に、ニニのボルテージはどんどん上がっていく。
「ふん!!ニニはチマチマとうるさい!!俺たちだけで結婚式に乗り込んで、クンに乱入されて、計画が思うように進まなくなる方が大変だろうが!!」
「う・・・、それは・・・」
ニニは言葉に詰まった。
「ならばクンと一緒に乗り込むのが得策だと思うがな!!そうすればクンを監視することにもなる、計画だって少し変えるだけで事足りるだろうが!!」
「・・・わかりました。では、ドラキュラさまの言う通りに計画を変更しましょう!!クンと出会ったのも何かの縁なのかもしれません・・・」
そう言うとニニはスッと目を閉じた。
納得いかない意見を体に染み込ませるように。
そして"この縁が良縁でありますように"と、心の中で祈った。
「と言うことは・・・??」
クンが恐る恐る聞いてきた。
「あぁ、先ほど言った通り、お前と一緒に結婚式に乗り込むとしよう!!」
「ありがとう!!心強いよ!!君たちがいるとサンを連れ戻せそうだ!!」
「ははは・・・、そう簡単に行けば良いんですけどね・・・」
ニニは皮肉たっぷりに言った。
「ところでクンよ、その結婚式というのはいつなのだ??」
「えっ??そりゃあ、もちろん明日だよ!!」
『!!!!』
一同驚愕。
「いやいや、明日って・・・、急すぎません??」
「そうはいっても元々決まっていたことだからね」
確かにそうである。
すると着ぐるみの中で黙っていたムーンが、ドラキュラとニニの耳元でつぶやいた。
「あれっ??言いてなかったっけ??私がボリべに襲いかかった日って、サンとボリべの"もうすぐ結婚します"ってことの報告会の時だったって」
・・・
・・・
・・・
「言ってないぞ!!」
「言ってないですよ!!」
「・・・・」
変な空気が流れた。
テヘッ★
着ぐるみはおどけてみせた。
「何なんですか!!なんでそんな大事なことを言わなかったんですか??」
「・・・」
ムーンはまた着ぐるみとしての職務を全うし始めた。
「都合が悪くなった途端にダンマリ決めるなんて・・・」
ニニの激しい歯ぎしりに、空を優雅に泳いでいた鳥たちも静かになった。
「まぁ、良いではないか!!」
「良くないですよ!!明日ですよ!!もう日も暮れかけて来てるんですから、実質半日ですよ!!」
「まぁ、大丈夫だろう!!」
「なんでそんな呑気なんですか??」
「俺がいるからだ!!」
「・・・」
ニニはキョトンとした。
そして思い出した。
今、自分の目の前にいるのは"あのドラキュラ"なのだと。
その瞬間から、ニニの心を冷静さが満たし始めた。
「それで結婚式がどこで行われるかは知っているのだろうな??」
ドラキュラが仕切り直すようにクンに問いかける。
「もちろん!!明日の結婚式はラノ教会というところで行われます。ここからだと30分くらいで着きます」
「どういう奴らが出席するかなどもわかっているのか??」
「もちろん!!ボリべは3番隊隊長ですからね、この国のトップたちも出席します」
「と言うことは、国王も・・・??」
「えぇ、ポロ・アチチも出席する予定です」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ニニから思わず大声が出た。
「ふふん♪」
ドラキュラからは喜びがこぼれた。
「今、"これでワンチャン、ポロ・アチチと戦えるかも"なんて考えたでしょ??」
ニニがすかさずドラキュラに問う。
「べ・・・、別に・・・、そんな・・・、そんなこと・・・、思ってないぞ・・・!!」
ドラキュラの下手な口笛が炸裂した。
「わかりやすっ!!」
ムーンが着ぐるみの中で誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「良いですか??くれぐれもポロ・アチチとの戦闘は避けてくださいね!!良いですか??」
ニニの語気が強まる。
「はぁ〜い!!」
心ここにあらずな返事が返ってきた。
「これ絶対にやっちゃうやつじゃん・・・。もう、どうなっても知りませんからね!!」
「ドラキュラさん!!ニニさんの言う通り、ポロ・アチチを舐めない方が良いですよ!!なんせ世界一の炎の使い手なんですから、ここはムーンを取り戻すこと、最悪相手をすることになっても、ポロ・アチチではなく、ボリべを相手にするくらいの気持ちでなければ大惨事になる可能性だってあるんです!!」
"その通り"とニニはクンの言葉に賛同したのだが・・・。
でも、あなたに言われたくないんだよなぁ・・・。
一番ややこしくしてきた人だから。
と、思っていた。
「では、日も暮れて来たことですし、私たちが今日泊まるアジトの方に行きましょうか??」
「アジトまであるんですか??」
「えぇ!!そこで、もう二人仲間が待っています!!」
「他にも仲間がいるんですか??」
「えぇ、私の古くからの友人です!!私の頼みを聞いて、快く手を貸してくれたんです」
「ふぅ〜ん・・・」
ニニは優しい風よりも軽く言った。
そしてドラキュラ、ニニ、ムーン(着ぐるみ)、クンはアジトへと向かった。
「ここが僕らのアジトです!!」
そう紹介されたのは、一般的なログハウスであった。
外観を見るに、特別なところは何も無いように見える。
しかし、みんなはすでに、このログハウスの変わったところを理解していた。
このログハウスの変わったところそれは・・・。
立地である。
とにかくわかりづらい!!
「こんなところによく見つけたな??」
ドラキュラも思わず唸る。
「えぇ・・・、こいつが見つけてくれたんですよ!!」
そう言ってクンは隣にいる男の肩に手を当てた。
「は・・・、初めまして・・・、トムと言います」
男は何とも控えめな印象で、ドラキュラたち三人に"明日、大丈夫か??"と共通の不安を植え付けた。
「まぁ、ちょっと頼りなさそうですけど、これで頭はかなりキレるんですよ!!」
と、言われても不安は拭えない。
「そして、もう一人の仲間がコイツです!!」
「どうも、ヤムと言います」
ヤムは見るからにガタイが良く、クンよりも頼もしそうに見えた。
「ヤムは見ての通り腕っ節に絶対の自信を持っている!!そこらへんの兵士なんかより、全然強いんですよ!!」
「や、やめてよクン!!元3番隊の君に言われると皮肉にしか聞こえないよ!!」
『!!!!』
3人は一斉に驚いた。
「い、今なんて??」
思わずニニが聞き返す。
「だから、クンはホッカ王国の元3番隊隊長なんですよ!!」
「だからぁ・・・、みんななんでそんういう大事なことを後から言うわけぇぇぇぇ!!!!」
ニニの叫び声が、静まり返った森に騒々しさを与えた。