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01.隔絶された都市

「さて!

今回選ばれたこの地域では、かくれんぼをしていただきます!」



ピエロみたいなふざけた格好をした男が、画面越しにそんなことを叫んだ。

画面と言っても、空中の何もない空間に映像が映し出されているのだが。

もちろん、そんな新しい発明がされたなんて聞いたことないし、何かに選ばれたなんて話も聞いたことがない。

俺はただいつも通り学校で授業を受けて、幼馴染みの香織(かおり)とともに家路に着こうとして、山の上にある学校からの坂道を下っていただけだ。

道中、香織とたわいもない話をしていたら、突然、空にテレビ画面みたいなのが現れて、あのピエロが映った。

スタジオみたいなセットの中で恭しくお辞儀をしてみせたと思ったら、そんなことを言い出したんだ。


「ねえ。

(さとる)

あれなに?

悟にも見えてるよね?

え?ドッキリ?」


香織は空に映るピエロを見ながら、俺の学ランの袖を引っ張ってきた。


「いや、俺にも分からん」


正直、ドッキリだとしたら寒すぎる。

素人を引っ掛けるには金が掛かりすぎだろう。

あんな空中巨大テレビ。

あるなら欲しい。



「皆さん。

さぞや混乱されていることでしょう。

まずは簡単に説明しますので、よおく聞いていてくださいね」


ピエロは変な踊りをしながらおどけてみせた。

その声は、画面はずいぶん遠くにあるはずなのに、とてもクリアに聞こえた。


「えー、ご存じの通り、いま世界には人間が溢れています。

いずれ世界は人間に食い尽くされてしまうでしょう。

それを憂いた1人の研究者が、ある日、我々に請い願いました。


『ああ!どうか!

愚かな人間どもを間引いてください!』


と。


ですが、その願いが届いた我々は、残念ながら悪魔でした。

我々は、


『ならばまずはお前を間引こう』


と言って、その研究者を殺してしまいました。

依頼者はいなくなりましたが、彼の願いは叶えられていません。

それならば、我々はそれを精一杯楽しみながら叶えてあげようと思いました。


そこで、一定期間ごとに地域を選出して、その地に住まう人間たちにゲームをしてもらって、うまくいけば生きられ、失敗すれば死ぬ。

そんな方法で間引いていこうと考えました。


すでに世界中で49回のゲームが行われ、かなりの人数が間引けたと思います。

それでも、まだまだ人間はいます。

油断すれば、あまつさえ増えようとしてくる始末です。


これは負けてはいられないと、記念すべき50回目の会場として、一際大きなこちらの都市が、今回選ばれることになりましたー!


わー!わー!

ひゅー!ひゅー!


拍手ー!


ぱちぱちぱちぱちー!」


ピエロはそんなことを言って、ダサいダンスを踊っていた。


「な、なに言ってんだ、こいつ」


まったく理解が追い付かない。


悪魔?

願い?

間引く?


は?


冗談だろ?


「あ!

ちなみにこの映像は対象者の方には漏れなく届けられているので、これが見えるということは、あなたは対象者だってことです!」


それなら、俺と香織は対象者ってことか?

対象者ってなんだ?

何かさせられるのか?

そういえば、最初にピエロが何か言っていたような。


「え?

なんですか?

あ、はいはい。


えー、ここで、3丁目にお住まいのちょっとやんちゃな拓也君から質問です。

中継を繋ぎましたので、ご覧ください。


現場のピエロさーん!


はいはーい!

こちら現場のピエロでーす!

拓也君。

私が急に出てきたからビビっちゃってるみたいでーす!


おやおや、普段はケンカにかつあげとやんちゃ街道まっしぐらで、今回も聞けやコラァとか頑張ってたから行ってあげたのに、ビビっちゃったんですかぁー?

ぷぷ。

ウケるー!」


画面が一瞬暗転したかと思うと、見慣れた商店街が映され、そこにさっきのピエロが現れた。

画面の右下にはワイプで同じピエロが映し出されている。

さっきから同じピエロが違う場所で会話をしているのだ。

そのピエロの隣に、町ですれ違ったら絶対に目を合わせないタイプの男がいた。

髪は金髪でいろんな所にピアスをしていて、完全にヤバいやつだ。

その拓也君はピエロに煽られて、んだテメーとか、だらぁーとか、とにかく何かを叫んでいる。


「拓也君は画面に映れて興奮しちゃったのかなぁー?

さっきの質問を代わりに言ってあげるねー。


『んなたくさんのとこでこんなことして、なんで誰も知らねえんだよ!』


です!

スタジオのピエロさん!

返答お願いしまーす!」


さっきから拓也君はピエロを殴り付けているが、ピエロには傷どころか、汚れ1つ付いていなかった。


「はーい!

拓也君。

良い質問をありがとう!


その答えはぁー!」


ごくり、と香織が唾を飲み込む音が聞こえた。


「我々が悪魔だからでーす!

悪魔的なパゥワーで証拠隠滅しちゃいましたー!

やっぱりサプラーイズの方が面白いじゃないですかー!」


なんだそれ。

ほんとに、なんなんだ。


「さてー!

勇気を振り絞って質問してくれた拓也君にはご褒美として、デモンストレーションに参加させて差し上げましょー!」


ピエロがそう言うと、再び商店街が画面に映し出された。

拓也君は相変わらずピエロに届かない拳を振り続けていた。

疲れたのか、ハーハー息をしているのがリアルにこちらにも伝わってきた。


「デモンストレーション?」


香織が不安そうに俺の腕に隠れる。

俺も、嫌な予感しかしないよ。


「今回のゲームはかくれんぼです!

皆さんかくれんぼはご存じですよねー!

鬼が十数える間に隠れた人たちを捕まえていくゲームですね!

今回、鬼はこちらで用意しました!

この度、参戦してくれるのは、ミノタウロス君とケンタウロス君、そして、黒鬼君でーす!


それでは、入場していただきましょう!

はりきってどーぞ!」


ピエロがそう言うと、ピエロの周りに魔方陣みたいなのが現れて、それが光ったと思ったら、そこから3体の怪物が現れた。



わああああーー!!

ひいいぃぃぃぃぃーーー!!

なにあれーーー!!

え?ほんもの?

え?やばくない?



ピエロたちの様子を見ていた商店街の人たちの叫ぶ声がダイレクトに耳に聞こえてくる。


「うわあああーーー!

離せテメー!」


これは拓也君の声だ。

彼は3メートルはあろうかという、巨体に牛の頭がのっかったミノタウロスに片手で掴まれていた。


「これから、1日に一回お題を発表します。

そのお題に該当する人が、その日の逃走者です。

この3人の鬼は逃走者を捕まえに行きます。

鬼に捕まれば、こうなります」


ピエロがそう言って指をパチンと鳴らすと、




「ぐっ!がっ!かっ………」



バキバキバキバキッ!




ミノタウロスがその手に掴んでいた彼を簡単に握り潰した。

握られた拳から、ぼたぼたと血が溢れている。


「きゃあーーーー!!!」


香織が叫び声を上げて俺の背中に隠れた。

商店街でも人々が叫び声をあげて逃げ出している。

俺は声を出すことも目を背けることもできずに、ただ画面をボーッと見つめるだけだった。



え?

いやいや、さすがにないだろ。

もういい加減、嘘だって言えよ。

テッテレーだろ。

分かってるよ。

もう、いいから。



俺の頭は完全に思考停止していた。



「拓也君!

尊い命をありがとう!


さて皆さん!

捕まったらどうなるか分かったかな?

あ、都市から出ようとしている皆さん。

ここからは出られませんよ。

結界で隔離してますから。

外の世界には、この地域に来ようと思わなくなる魔法がかけられてますので、外部から人が来ることもないので、安心してかくれんぼを楽しんでくださーい!


現場からは以上でーす!

スタジオのピエロさーん!

お返ししまーす!」


商店街のピエロがそう言うと、ワイプの映像が大きくなり、最初のピエロが画面いっぱいに映し出された。


「さあ!

まずは皆さんにプレゼントです!


えい!」


「あつっ!」


画面のピエロが人差し指をカメラに突き付けると、額に熱を感じて、慌てて手で抑えた。

熱が収まって手をどかすと、


「悟。それ」


香織が俺の額を見つめている。


「香織っ!

お前それなんだ!?」


俺もつられて香織の額を見ると、50という数字が、まるで火傷の痕のようにつけられていた。

まさかと思って自分の額を触ってみると、自分にも同じような痕がついてるのが分かった。


「なんなんだよ、これ」




「うんうん。

皆さん困惑されてますね!

それは私からのプレゼントです!

お題に該当する逃走者は、なんと!

その額の数字が光ります!

鬼さんたちには大助かりの仕掛けですねー!

なにせ、鬼さんたちは3人しかいませんからね。

この都市の人口は120万人ぐらいでしたかね。

これぐらいしないと、鬼さんたちが可哀想ですからねー!」


ふっざけんな!


俺はいい加減なことばかり言ってくるピエロに、さすがに腹が立ってきていた。


「おやおや?

なにやら、ふざけんな!とか、余計なことすんじゃねえ!って声が聞こえますねー」


ピエロはそう言って、手を耳に当てて前に乗り出してきた。

俺は自分の考えを言い当てられて、ドキンとした。


「そんなに言うなら、文句を言う皆さんにも、拓也君のようにデモンストレーションに参加してもらうしかないですかねー?」


ピエロがそう言うと、ここからでも分かるぐらいに、街がシンと静まったのを感じた。


「うんうん。

皆さん、物分かりが良くて助かりますー。

お題は1日ごとに変わりますからねー。

今回のゲームは、そうだな。

人口の1/3。

40万人が捕まったら終了にしましょう!

そうなったら、残った方々は解放してさしあげます!」


生き残る道はあった。

でもそれは、40万人もの犠牲の上に、だった。


「悟」


香織が不安そうに俺の顔を覗き込む。


「ああ。

とりあえず、学校に戻ろう。

皆の意見が聞きたい」


「う、うん。

そうだね」


俺と香織は元来た道を引き返し、学校に戻ることにした。

下校時間は過ぎたとはいえ、部活中の者や、少なくとも先生はまだいるはずだ。

2人では心細すぎる。

皆の意見が聞きたかった。


「あ!そうそう!

もう1つのルールを言い忘れてました!


逃走者にならなかった皆さんにも、ゲームに参戦できる特別ルールを設けてあります!」


はあっ!?


俺は思わず足を止めていた。

俺の後ろに続いていた香織も止まって、2人で再び画面を注視した。

いつの間にか近くの家から人が出てきていて、坂道にはまばらに人が立っており、皆一様に、空の画面を見上げていた。


「特別ルールは、


その名も密告!


額が光った逃走者を発見したら、


『鬼さんこちら!手の鳴る方へ!』


と言って、手を2回叩いてください。

すると、3体の鬼の内の誰かがそこに瞬時に転移して、逃走者を捕まえてくれます!

見事!鬼が逃走者を捕まえられれば、密告者には特別ボーナスとして、お題一回パス券を差し上げます!

これを使えば、万が一自分がお題に該当して逃走者になっても、一回だけそのお題を回避することができまーす!

すごいでしょー!!


あ!ただし、冷やかしは厳禁です。

もしも鬼が転移した先に逃走者がいなければ、代わりに密告者を捕まえちゃうので注意してくださーい!」


「な、なんだよ、それ」


自分が助かるために、他人を売れっていうのか。

これじゃあ、おちおち誰かと一緒にいるなんて出来ないじゃないか。


俺と同じ考えに至った人がけっこういたみたいで、坂道に出ていた人たちが、いつの間にか少し減っていた。

出てきた家に戻ったのだろう。

密告することよりも、されることを恐れたようだ。


まずいな。

俺たちもどこかに隠れるべきか。

でも、どこに?




「さあー!

これで説明は以上でーす!


さっそく、記念すべき1日目のお題を発表したいと思いまーす!」


「え?もう!?」


「嘘だろ」


まだ考えがまとまってないのに、あれが、もう来るのか?

あんな、人を紙くずみたいに握り潰す、化け物が。


そんな俺の焦りを、ピエロが待ってくれるはずもなかった。


「最初のお題はー、


実は私、子供が嫌いなんですよー。


うるさいじゃないですかー。


ほらほら!

ピエロなのにか!ってツッコむことですよー!



えー、というわけで、最初のお題は、


『17歳以下』


です!」



え?


「さ、悟ー」


俺は冷や汗をかきながら香織の方を見た。


俺たちは高校3年生。

俺は誕生日を迎えていて、もう18だ。

でも、香織は、



「さあ!

それでは皆さん!

お決まりのセリフをいってみましょーかー!


せーのー!


もーいーかーい?


・・・・・・・・


もーノリ悪いですねー!


それなら勝手にやっちゃいますよー!


もーいーかーい?


セイ!


もーいーよー!


フー!」



「お、おい!

あれ!」


坂道にいた男がこちらを指差して叫んだ。


正確には、香織の額を。


香織の額にある50という数字が、ボウッと光っていた。


「う、嘘だろ」


俺は少しの間、その場に立ち尽くしていたが、周りの視線を感じて、ハッと我に返り、周りを見回した。


みんな、俺たちを見ている。

香織の額を。


そして、キョロキョロと周りを見回して、様子を窺ってる。



誰かやらないのか?



皆の視線がそう言っているのが分かる。



「お、、、あっ!」



俺は先ほどの男が口を開きかけたのを皮切りに、バッ!と香織の手を掴んで走り出した。





「さ、悟!

どこ行くの!?」


俺に引きずられるように走る香織が息を切らしながら尋ねる。


「分からない。

とりあえず学校に行こう。

あそこなら味方は多いはずだ」


俺は混乱する頭で、何とかそれだけ答えた。






俺と香織は坂道を全力で駆け上がり、膝に手をついて、ハーハーと息を整えた。

後ろを振り向いても、俺たちを追ってきている人はいなかった。


「だ、誰もいないね」


香織が安心したようにそう言った。


「た、たぶん、皆まだ様子見なんだ。

実感もないだろうし、あんな化け物を自分の近くに呼びたくないってのも、あるんだと思う」


俺だってそうだ。

香織には申し訳ないが、正直、逃走者に選ばれなくて良かったって思ってる。

たぶん選ばれたのが香織じゃなかったら、俺もあの人たちと同じように傍観してた。


「学校はすぐだ。

急ごう」


俺はそんな考えを振り払うかのように、再び足を踏み出した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか、怖いのが始まりましたよ? 嫌いじゃないけど、読むタイミングとか、ね? [一言] これは覚悟が決まってからにしますぅ((+_+))
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