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第3話 入門試験


 養い手として、老師は物心両面でユイルたちを支援してくれた。ユイルは安心して、年相応の日々を過ごすことが出来た。

 老師の邸宅は、ルーマ市内にあった。

 その日、ユイルはある決意を固めて、老師の家の門を叩いた。

「老師、お願いがあります」

「なんじゃユイル? あらたまって」

「オレ、父さんのような騎士、剣士になりたいんです。オレを弟子にしてください!」

 老師から剣を学ぶ。それが、ユイルの強い決意だった。

 真剣な表情のユイルを見つめた後、老師は告げた。

「ついて来るが良い」

 そして二人は、老師の邸宅の中庭に出た。

 そこには、ユイルの最大のライバルが待っていたのだった。


 その少年、アレクは、十歳のときに老師の住み込み弟子になっていた。

 燃えるような赤い髪、凝縮した炎に似た赤い瞳。そして、隻眼だった。黒い眼帯が、その左目をおおっている。

 片目とはいえ、アレクには天から授けられた剣の才能があった。

 老師に連れて来られたユイルと対面したとき、アレクは十二歳になっていた。

 見つめ合うアレクとユイルを前にして、老師が宣告する。

「わしは簡単には弟子を取らぬ。ユイルよ、このアレクの攻撃を、一撃でも防いでみよ。なあに、剣は木製の物を使う。当たっても打撲、悪くて骨折じゃ」

 事も無げに、老師は言う。

「一撃でも防げたら、合格じゃ」

(防ぐだけ、それなら・・・)、という考えが、ユイルの表情に浮かんだのを、アレクは見逃さなかった。

「よし、始め!」

 老師の合図で、アレクとユイルの初めての試合が始まった。

 アレクは、初手から全力を出した。鋭い一撃で、ユイルの胴を薙ぐ。

 苦痛にうずくまるユイル。

(まだまだ遅いな)

 ユイルが立ち上がるのを待つ余裕が、アレクにはあった。

 今度は胴を守ろうと、ユイルは木剣を中段に構えた。それを見て取ると、アレクは雷光の速さでユイルの側頭部を打った。

「ぐぁ!」

 声を上げて、横に倒れるユイル。再び立ち上がるのを、アレクは待った。

(さて次は・・・)

 ユイルが頭部をかばうように、木剣を上段に構える。恐らく、頭部と胴部、上半身全体をカバーするつもりだろう。

(考えてはいるな・・・だったら!)

 アレクは告げた。

「戦いの相手は、色々な攻撃を仕掛けてくる。それに対応できなかったら、やられる。剣士は決して楽な仕事じゃない。着いて来られないなら、最初から目指さないほうがいいぞ」

「大丈夫です!」

 ユイルは気丈に応じる。少し、アレクは感心した。

「お前の根性は認めてやる」

 隻眼で、ユイルを睨む。

「それなら、俺も本気を出すとしよう・・・」

 アレクの視線の先で、木剣を構えたユイルがギリッと奥歯を強く噛み締めた。その闘争本能を活性化させ、解放するかのように。

「!」

「!」

 アレクは強く足を前に踏み込み、低い姿勢でユイルの足を狙った。

 その瞬間、ユイルが動いた。

 木剣を巧みにさばき、今まで見せなかったスピードで、上段から下段、地面すれすれに剣先を急降下させる。間一髪で、アレクの攻撃から自分の足を守ったのだ。

 見事な反射神経だった。

「そこまでじゃ!」

 老師が手を叩く。

 放心したように、ユイルはその場に座り込んだ。手から離れた木剣が、カランと地面に転がった。その息は荒い。

(・・・大した奴だ。年下のようだが、老師の弟子、俺のライバルとして、認めざるを得ないな)

 アレクは木剣を置き、両手でユイルを助け起こした。

「今日からよろしくな、ユイル。俺の本当の名はアレクサンダー。だが、アレクと呼んでくれ。今日から俺はお前の兄、お前は俺の弟のような存在だ。よろしく頼む」

「・・・はい」

 ユイルは呼吸を整え、笑ってうなずいたのだった。

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