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第14話 初めての殺生

 ユイルは、その身をさらすように、ルーマ市内を巡回していた。

 初めから、自分の危険など度外視している。

 思いは、復讐か死か。その二者択一だった。

(・・・尾行されている!)

 市民で賑わう大通りで、ユイルは追跡者の気配を察知した。

 表情や態度には出さず、少しずつ、人気の無い方向へと歩みを進める。尾行者を誘導するために。

 そしてユイルは民家の間の空き地の中央に出た。身を隠す場所が何もない所に、わざと自分を追い込んだのだ。

(来る!)

 ユイルは直感した。

 背中の鞘から、父の形見の剣を抜く。

(来い!)

 全身を感覚器にして、身構える。

 そして、攻撃が始まった。

 高速無音の毒矢が、ユイルの背後から真っ直ぐに飛来する。

 若き剣士は、振り向きざまにその矢を剣で叩き落した。

 仇である狙撃手を視認する。

 細い体に、顔を隠す覆面。アレクから聞いていた人相に一致した。

 アサシンは驚愕していた。今まで、この距離で攻撃を外したことがなかったからだ。

 素早く第二矢をつがえる。しかし、それ以上の速さでユイルは間合いを詰め、アサシンに肉薄した。

 アサシンが矢を放つ。

 その驚異的な初速を、ユイルは見切った。僅かに体をかわして、矢に空を切らせる。

 老師との鍛錬で鍛えられた、眼力が為し得た神業だった。

 ユイルの剣が、白熱してアサシンを襲った。

 左の肩口から、袈裟懸けに切りかかる。

 鮮血が舞い、アサシンの手から弓がこぼれ落ちた。

 止めを刺そうと、剣先をアサシンの顔に突きつける。

「待て・・・」

 ユイルの動きを、あえぐような声でアサシンが制した。

 肩の傷から血を流しながら、アサシンはその場に倒れこんだ。

「おまえの勝ちだ。降参する・・・」

「何故、老師を殺した? 何故だ!」

 ユイルの怒声が、アサシンを責める。

「命じられた、からだ」

「誰に?」

「・・・言えない」

 アサシンは、最後に弟をかばった。長く虐げられてきた、憎むべき弟を。

「それよりも、伝えたい、ことがある・・・」

 息も絶え絶えに、アサシンは語った。老師の遺言書のことを。その内容を。アレクと取引をして、彼に書簡を譲ったことを。

「アレクが・・・。そんな馬鹿な!」

 ユイルにとって、信じられない真実だった。しかし、どこかもやもやとしていた彼の心を、揺さぶるような事実だった。

 語り終えたアサシンは、静かに息を引き取った。その死に顔は、どこか安らぎを得た者のように見えた。

 偽りと罪に満ちた人生の最後に、光に出会ったかのように。

(人を殺した・・・。初めて)

 戦っているときは夢中だったけれども、その現実がユイルの心に冷たい汗を流させた。老師の仇を討ったという達成感と共に、人殺しになったという罪悪感が、胸を満たしていた。

 一つの課題は果たした。次は──。

(アレクに会わなければ)

 ユイルはその決意を固めたのだった。

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