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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第二章

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4 - 光属性魔法

 それから数日間の巡回を終え、私たちは首都へと帰還した。首都へと戻った私と進先生は、八雲のシフトを確認した後、総隊長の執務室を訪れた。



「珍しい組み合わせじゃな。して、話というのは何じゃ。巡回の報告書なら由楽が先程持って来たぞ。」



 総隊長は報告書を手で示して言った。進先生を見るとばっちりと目が合った。相当不安そうな顔をしていたんだろう、進先生は微笑んで一つ頷いた。私は総隊長に向き直り、一歩前に出て言った。



「別件で、ご相談があります。」

「どうした。」



 和やかだった部屋の空気が微かに引き締まった。ああ、怖い。心細い。唇が震えて今にも泣き出してしまいそうだ。心臓の音がうるさい。

 私は手に持っていたお守りと飛鳥の髪が入った小瓶を握り締めた。お守りは守護隊に入隊した際、一周目と同様に八雲からもらったものだ。いつの間にか、不安なことがあると私はこの二つに縋るようになっていた。大きく息を吸って、吐いて、覚悟を決めた。



「これからお話しすることは、嘘偽りのない事実です。」



 そう前置きした瞬間、総隊長の気配が変わった。けれど止める様子はない。私はそのまま言葉を続けた。



「私は一度死に、二度目の人生を歩んでいます。」



 総隊長は目を見開いた。息をすることさえ忘れているかのような、そんな沈黙だった。総隊長はゆっくりと机に両肘をつき、組んだ手の甲に額をつけた。



「続けよ。」



 私はそのまま太陽の国の罠にはまって一度死んだこと、その場に八雲も居合わせたこと、あの吹雪の日から二周目を生き始めたこと、保護される以前の二周目の記憶はないこと、全てを洗いざらい伝えた。



「……まとめると、一周目と二周目は相違点が多すぎるというわけじゃな。」

「……はい。」



 一通り聞き終えた総隊長は姿勢を変えることなく、大きな溜め息を吐いた。無理もない。こんな話を聞かされて混乱しているのだろう。情報量が情報量だ。

 暫し沈黙が流れた。呼吸の音さえ聞こえてしまいそうな、重苦しい沈黙だった。耐え切れずに沈黙を破ったのは私だった。



「あの、なかなかご相談できず申し訳ありませんでした。」



 頭を下げた私に、総隊長はやっと顔を上げた。私は総隊長の顔を見るのが怖くて、ギュッと目を瞑ったまま頭を下げ続けた。



「……真白。顔を上げよ。」



 ひどく優しい声だった。恐る恐る顔を上げた私に、総隊長は優しく笑っていた。



「なぜ謝る。」

「ご相談が遅くなってしまいました……。」

「ふむ。一周目と呼ぶ生の中で、蛍とお前は知り合うたのか?」

「いえ……。」

「では、蛍が死んだのは二周目と呼ぶ今世が初めてであろう。」

「はい……。」

「同様に、一周目においても飛鳥は知り合いじゃったか?」

「その……いいえ……。」

「では、飛鳥が死ぬことは?知らなかったわけじゃな?」

「はい……。」



 総隊長は深く頷いた後、やはり優しい微笑みを携えて言った。



「あえて言うがの、お前の相談があろうとなかろうと、防げなかった死は存在する。防げたなら儂は今お前を叱責したじゃろう。じゃが、防げんものに対して怒るのはお門違いじゃ。じゃから、お前が謝るのも少し違うかもしれんのぅ。」

「……。」



 確かに総隊長の言う通り、私が話していたところで結果は変えられなかった。けれど蛍様や飛鳥の死は、本当に避けられない確定事項だったんだろうか。



「私、飛鳥が死んだときに死のうと思ったんです。そしたら三周目が始まるかもしれない。蛍様と飛鳥が死なない未来があったかもそれないと思いました。」

「よく思いとどまったのぅ。」

「聖に……皆に……怒られました……。」

「そうか。良い友を持ったな。」



 私はただ頷いた。もしかしたら、総隊長に今ここで死ねと言われるかもしれない。そんな懸念がずっとあった。けれど総隊長はそうは言わなかった。それはきっと聖が言ったように、私が死んだところで彼らが生き返る保証がないからだ。



「よく耐えたな、真白。一人で抱えるには重かったじゃろう。」



 総隊長の思いがけない言葉に、涙が一粒零れて落ちた。震える唇を噛み締めても、零れてしまった涙は止まることなく次から次へと零れて落ちた。



「信じて……くださるんですか……?」



 一番の不安を口にした私に、総隊長はただ頷いた。



「……ここまで知っておるのじゃ。お前たちには話してもよかろう。……しかしそうじゃな。真白の言う一周目の登場人物は揃えておいた方がよかろうな。」

「八雲さんなら今日は非番です。」



 ずっと黙っていた進先生がそう言った。



「準備が良いな。では八雲を呼んで来い。」

「はい。」



 そう言うと進先生は八雲を呼びに執務室を出て行った。総隊長と二人きりだ。その空間が何となく気まずくて俯いていると、総隊長がポツリと言った。



「『憎むな、恨むな。復讐の先には何もない。死者は還ってこない』。蛍がよう言うとったことじゃ。」

「はい……。」

「お前は奪われすぎとる。なのに蛍の教えを体現しとる。……彼奴は、人を見る目があったっちゅーことじゃな。」



 そう柔らかく笑うから、また涙が少し零れた。


 進先生が八雲を連れて戻って来た後、私は先程の内容を八雲にも聞かせた。八雲は神妙な顔をして聞いていたが、最後にはやはり進先生同様、私を信じてくれるようだった。



「さて、本題に移ろうかの。」



 私が話し終えたところで、総隊長が口を開いた。



「これから話すことは国家機密の中でも最上位レベルじゃ。心して聞け。」



 私たちは佇まいを直した。守護隊にいれば国家機密には嫌でも触れる機会がある。だがそれとはわけが違うということを、総隊長の言い方から察した。



「まず真白の言う『二周目』じゃが、あり得ない話ではない。」

「と言うと?」



 八雲が先を促した。総隊長は「うむ」と言って続けた。



「お前たちは『時間が巻き戻っている』、『一周目がリセットされている』、あるいは『平行世界への転移』を仮説として上げておったが、結論から言おう。『時間が巻き戻っている』というのが正解じゃ。」

「!?」

「それはどういう……!?」

「正解って……。」



 私たちは各々に動揺を口にした。総隊長はそれを手を挙げて制して続けた。



「世には知られておらんが、古の魔法に『光属性魔法』というものがある。」

「光……属性魔法……?」



 初耳だ。困惑して八雲と進先生を見るも、二人も分からないと言うように首を横に振った。



「火属性魔法が火、水属性魔法が水を司るように、光属性魔法も司るものがある。何か分かるか?」

「何です? その言い方だと、安直に光じゃないんでしょ?」

「ああ。光属性魔法が司るのは『時間』じゃ。」



 私たちは息を飲んだ。時間を魔法で操るなんてとんでもない。進めても戻しても、ましてや止めるだけでも大事だ。戦況が一瞬でひっくり返ってしまう。総隊長は私たちの顔を見て、同様に表情を曇らせた。



「光属性魔法では時を止めることができたという。理論上、戻せたとしても不思議はない。」

「そんなことができたらとんでもないことになりますよ……!」



 食ってかかったのは進先生だ。激しく動揺している。



「じゃろうな。じゃがなっておらん。なぜじゃと思う?」



 総隊長の視線がこちらに向けられた。総隊長の言い方から察するに、理由は一つだ。



「使える人が、いないから……。」

「そうじゃ。儂も伝承でしか知らんレベルの代物じゃ。光属性魔法は習得するものではなく、天賦のもの。おまけに膨大な生命エネルギーを消費するという。自然淘汰されててもおかしくない存在じゃ。」



 秘匿されていただけでなく、淘汰されて存在しない可能性……。これは確かにとんでもないレベルの国家機密だ。もし実在すれば太陽の国との戦なんて一瞬で終わるほどの威力に違いない。



「今時点で、月の国には光属性の使い手は存在しないとされておる。」

「自覚がないだけの可能性は?」

「ゼロではないが、これは血統遺伝らしくてのぅ。近年報告がないところを見るに、途絶えていると考えるのが自然じゃろう。」

「ではどうして……、私は時間を戻ったんでしょうか……。」



 総隊長は眉間に皺を寄せながら指を一本立てた。



「まずは真白が光属性の使い手の可能性じゃ。無自覚の可能性も否めん。」



 続けてもう一本指を立てて言った。



「他に光属性の使い手がおって、お前の時間を巻き戻したのかもしれん。時間を巻き戻したのが術者本人でないのなら、二周目開始時点の座標がずれたのも、無理矢理じゃが説明はつく。」



 総隊長はさらにもう一本指を立てて続けた。



「あるいは、真白の時間が巻き戻ったのは副産物だったのかもしれん。」

「副産物……?」

「術者本人は自分の時間だけを巻き戻したはずが、真白にもなぜか記憶が残った。というのも無理矢理じゃが、あり得ん話ではない。」

「確かに、どの線も現段階では否定しきれませんね。」



 一つ迷路を抜けたと思ったら、また新しい迷路だ。それも難易度が上がってしまった。



「問題は術者が真白じゃなかった場合ですね。」



 八雲が厳しい表情で言った。総隊長も険しい表情で頷いた。困惑する私に気づいて、八雲が補足してくれた。



「術者が真白じゃない場合、その術者は月の国の人間なのか、太陽の国の人間なのか。どっちの利益のために魔法を使ったんだと思う?」

「!」

「おまけに、今生きているかも分からない。」

「かなり厄介ですね……。」

「ちなみにこれ、調べる方法はあるんですか?」



 八雲の問いに、総隊長は盛大に溜め息を吐いて首を横に振った。



「鬼門はそれじゃ。さっき言ったように、膨大な生命エネルギーを消費する。単純に命が代償と考えていいじゃろう。そう易々と確認する術はない。」

「……じゃあ俺か総隊長が使い手の可能性もゼロではないってことか。」



 八雲隊長の言葉につい勢い良く顔を上げた。そうか、その可能性もあるのか。でもきっとこれは八雲なりの皮肉を交えた冗談だ。ふとあの言葉が脳裏を掠めた。



 ──『俺にとっても、お前は失いたくない奴だよ。だからお前がここにいるってだけで、すごい勇気づけられてる。本当は、絶対にお前を死なせやしないくらい言えたらかっこいいんだけどね。』



 目頭が熱くなって涙が出そうになった。八雲隊長が使い手ならいいのに。



「ゼロではないが、その場合儂とお前は記憶を保持するんじゃないかのぅ。お互い残っとらんじゃろう。」

「残念ながら。」



 二人してそう言って肩をすくめた。それが何だかおかしくて、私はやっと笑った。

 一旦その日は情報共有をしたところで解散となった。今のところ、私は全てを失うことなくいる。恐れていたことは現実にはならなかった。その日、私はとても久しぶりに心地良くぐっすりと眠ることができた。


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ご一読ありがとうございます! 毎週火・金曜20時10分更新予定です☺︎
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