第01話 田中篤弘・・・マイドンさよなら
昼休み教室のざわめきが耳に入らないほど、田中篤弘はひどく悩んでいた。
「B案もいい、A案も悪くない・・・」
選べず、決めれない。そうやって、何度も流され、時を過ごしてきた。時には気を遣いすぎて、誘いも断れず、返事を待たせて、結局空気や人間関係に、溝ができる。
「また、やっちゃったか・・・・」そんな気持ちを抱えながら、ため息交じりにスマホを見ると、見慣れない通知がある。
《マイ・ドント・ユーミー》を開きますか?
あなたの(マイドント)を交換してみませんか?
タップすると、日記のような画面が表示された。
自分のできないこと・苦手な事・憧れること・体験したいことなどをかく乱がある。
手を震わせながら入力する。
マイドン:自分の意見や考えをはっきり言えない
【送信】
♢♦♢♦♢♦
数秒後・・・
画面に〖接続: 柿谷田蘭子〗
交換条件:迷いがない人の思考を30分間貸し出します
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「えっ・・・、柿谷田って、美術部の?」
画面の文字が淡く光っている。
my don't you do me
その瞬間胸の奥に風が吹いた気がした。
自分の中に、"決断力"が入り込んだ。
午後の授業中隣の子が尋ねてきた。
「田中君、明日の班決め、どっちがいい?」
一瞬迷いかけたけど、口から出たのはハッキリした声で、
「B班がいい そっちの方が、やりやすいから」
その返答に自分でも驚く。なんだか、胸が軽くなった。
放課後、スマホに通知が届いた。
【交換完了】
貴方の変化:選ぶことを迷わず、自分の考えが発言できました。
・・・チェンジエンドレス・・・
そして、次に同じような性格の人たちに、リレーしていく。
別の生徒が、ノートに走り書きした。
"もう、無理・・・"その言葉の横で、スマホ画面が淡く光った。
〈マイドン:伝えられない〉
【ユーミードゥ:ハッキリ返答できる人希望】
[受信完了]
誰かの思考がそっと忍び込んでくる。気が付けば心の奥が整理されていて、言いたいことが、口に出せてる。
友達に「今日は行けない」と伝えた。友達は、「じゃまた、今度誘うね」と言った。
断れた自分がなぜか誇らしかった。
スマホ画面に・・・チェンジエンドレス・・・
[体験完了]
けどそれは終わりではなかった。
別の日
自信家の真子が、黙ってキッチンに立った。心の中にあったのは"料理ができる誰かの手"がいいなぁ
キャベツを切る手が震えている。けど、真子は臨んだ、挑戦する意欲を・・・
マイドン:躊躇する気持ちを削除したい
【送信】
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
交換がくれたのは、できないままでも、"やってみる気持ち"だった。
そして、また誰かの"マイドン"が誰かの"ユーミードゥ"を与える。
小さく呪文が光る。
my don't you do me
どこかで、誰かが一歩を踏み出すその度に




