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レオンが目を覚ましたのは、夜がすっかり深まった頃だった。椅子に座ったままうとうとしていたグレイスは、布の擦れる音に目を開けた。


「……レオン殿。」


寝起きの彼は、少しぼんやりした目で天井を見て、それからゆっくりこちらに視線を向けた。


「……悪くない目覚めだ。君が、最初に見た顔になるとはな。」


穏やかに笑ったその言葉に、なぜだか胸が詰まった。


ほんの少しの沈黙のあと、レオンはゆっくりと口を開いた。


「泣いたのか?」


「……は?」


反射的に笑って、誤魔化す。


「まさか。俺が? そんな、泣くような可愛いキャラに見えました?」


「……目の下、少し赤いが。」


「夜更かしです。文官殿ほど規則正しくないんで。」


嘘がバレないように視線を逸らす。それでも、手の中にはまだ、レオンのあたたかさが残っていた。


言わなきゃと思っていたことを、ようやく口にする。


「……なんで、俺なんか庇ったんですか。」


返ってきた答えは、あまりにも迷いがなかった。


「君が、好きだからだよ。この手で守りたかった。」


心臓が跳ねた。

聞き間違いじゃない。冗談でもない。レオンは、いつものように真っ直ぐに、それを言った。


胸が、痛くなった。


抑えてきたはずの感情が、一気にあふれだす。


「……っ、やめてください……そんな顔で、そんなこと……言わないで……。」


情けない声が、自分の口から漏れた。それでも止められなかった。


「今好きなんて……言われたら……私、もう……逃げられない……。」


「好きだよ。」


震える声。にじむ視界。必死に守ってきた仮面が、音を立てて崩れていくのがわかった。


「……ほんとは、ずっと……怖かった……好きになって、壊れるのが……。」


止まらない涙を隠すこともできず、グレイスはただ俯いて、声を詰まらせながら言葉を紡いだ。


涙を止めようとしても、うまくいかなかった。


これまで何度も平気なふりをしてきたのに、今日ばかりは、どうしても笑えなかった。


レオンは、それでも変わらず、優しい目でこちらを見ていた。


そして、ゆっくりと手を伸ばそうとする。


「……レオン殿?」


気づいたときには、彼の腕がこちらへ伸びていて。何か言おうとしたその瞬間――


「っ……く、」


苦痛に顔を歪め、動きを止めた。


「ちょ……無理しないでください!」


慌てて傍に駆け寄る。


「動いちゃダメです、まだ傷が……っ。」


止めようとしたその手を、レオンがそっと握った。傷ついた身体なのに、力強くはないのに――その手には、確かに“意志”が込められていた。


「なら……君の方から……来てくれ。」


囁くような声に、胸が締めつけられる。


そっと、ベッドの端に腰を寄せる。レオンは、もう片方の手で優しくグレイスの背に触れた。


そして、静かに抱き寄せられる。


「……やっと、捕まえた。」


耳元で、そんな声が落ちた。

頬を押し当てた胸元からは、微かな鼓動が伝わってくる。あたたかくて、安心するのに、涙がまたあふれそうになった。


「……ずるいですよ、レオン殿。」


「レオンと呼べ。もう、逃げられたくない。」


その声が、あまりにも優しくて。ようやく、心のどこかで――“ここにいてもいい”と、思えた気がした。

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