13
ーーレオンside
休日の午後。書物を探すつもりで足を運んだだけだった。喧噪の続く王都の大通りで、ひとときの静けさを味わおうとしていた――そのはずだった。
だが、空気が変わった。
遠くから、金属のぶつかる音と怒号。人々のざわめきが広がっていく。
気づけば、通りの向こうで人だかりができていた。その中心に、見覚えのある姿。
――レイ。
彼女は他の騎士団員とともに、男を押さえ込んでいた。荒く息を吐きながらも、視線は鋭く、動きに一切の無駄がない。彼女の努力の賜物だ。
その姿に、自然と足が止まった。
(……自分の方が苦しいはずなのに、また、誰かを守っているのか。)
その背中を見つめていたときだった。ふと、視界の端に妙な動きが映った。雑踏の陰、壁沿いに身を潜めるひとりの男。その手に、きらりと光る刃物。
そして、動いた。
(……!)
彼は人垣をすり抜け、レイの背中めがけて駆け出した。あまりの出来事に声を上げる間もなかった。判断よりも先に、身体が動いていた。
気がつけば、走っていた。無意識に、息を詰めて。
(間に合え――)
****
ーーグレイスside
騒ぎが収まったとき、レオンはすでに意識を失っていた。床に倒れ込んだ彼の背には、鮮やかな赤が滲んでいて――
自分の目の前で、誰かが血を流すという現実が、酷く現実味のないものに思えた。
大きな声で呼びかけられ体を揺すられ、自分は倒れた彼を抱え、地面に座っていた。そんな場合じゃないことは分かっている。それなのに体が動かない。まるで自分の体じゃないかのように制御が効かない。
彼が、庇ってくれた。咄嗟に、自分の前に飛び出して。何も言わずに、ただ当たり前のように。
どうして。なぜ、あの場にいたのかもわからない。どうして自分のために、そんな真似を。
運ばれた先は、王宮の治療室。騎士団の中でも、重傷者しか入れない部屋だった。気付いたら私もそこにいた。どうやってここまで来たか記憶が無い。それほど取り乱していたようだ。
「傷は深いが、内臓には達していない。夜までには目を覚ますでしょう。」
医師の言葉を聞いても、心の中の震えは止まらなかった。
目を覚ます――
それだけのことが、こんなにも救いになるなんて。
レオンの隣に腰を下ろし、静かに彼の手を取った。骨ばって、温かくて、でもどこか力が抜けていて。その手の感触に、胸が締めつけられる。
(……バカ、だな。…バカだよ。どうして。)
誰もいない静かな部屋で、そっと呟いた。
自分はずっと逃げてきた。本当の気持ちを隠して、笑って、誤魔化して。それでも彼は、迷わず助けにきてくれた。
「なんで……守られる側なんて、似合わないのに……。」
目元が熱くなるのを感じた。涙なんて、どれだけぶりだろう。
レオンの手を強く握る。
「ごめん……ほんとは、怖かった。ずっと……。」
声が震えていた。でも、誰もいないから、もうごまかす必要なんてなかった。
「……無事でよかった……ほんとに……よかった……。」
堰を切ったように、涙が零れて、止まらなかった。




