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永遠のパラレルライン  作者: 瀧川蓮
50/50

49.大捜索

【出版情報】永遠のパラレルライン、上下巻。4/30にkindleから同時出版します☆ 出版にあたり、大幅に加筆修正しました。特典書き下ろしもあります☆ 

※あと数話で完結ですが、kindleでの出版にあたって、完結後に冒頭5話を残し作品を削除させていただきます。ご了承ください。

挿絵(By みてみん)


陽奈たちがカラオケ店を出ると、すでに店の前にはマコトの黒いワンボックスカーが横づけされていた。


乗り込もうと後部座席のスライドドアに手をかけた陽奈だったが──


「陽奈ちゃん、助手席に乗りなよ」


「え?」


「陽奈ちゃんが指揮官だからさ」


咲良に言われ、陽奈は力強く頷くと助手席へと乗り込んだ。


運転席のマコトが、LIMEのグループチャットに共有された地図を見ながら、カーナビに目的地を設定する。


「どれくらいかかりそうですか?」


「ナビの予想だと十五分、だな。スムーズに進めればだが」


「では、急ぎましょう」


マコトは頷いてステアリングを握り直すと、アクセルを踏み込んだ。そのまま片側三車線の大通りに出て、勢いよく加速していく。


「普段はそこまで混む道じゃあないが……クリスマスだからな」


マコトが懸念を口にしたそのとき。車内にいる全員のスマホが、ピロリンと鳴いた。すぐさま、陽奈がLIMEのグループチャットに目を落とす。


沙羅『@陽奈 総合運動公園前で事故してるみたい! 渋滞しそうだから、別のルートがいいかも!」


メッセージを読んだ陽奈がマコトに目を向ける。


「マコトさん。事故渋滞が発生しそうです。ルートを変えられますか?」


「マジか。でも、渋滞にハマる前でよかったぜ」


赤信号に捕まったタイミングで、マコトが素早くカーナビを操作する。


「よし……ルート設定完了、と。到着時間もそこまで大きく変わらねぇな」


陽奈をはじめ、後部座席の三人も胸を撫で下ろす。


陽奈『@沙羅 タイムリーな情報、感謝します』


沙羅『@陽奈 あ、あんたのためじゃないんだからねっ! 最愛の推しを、ジュリさんを助けるためなんだからっ!』


陽奈『@沙羅 分かってます』


沙羅『@陽奈 神木、絶対にジュリさんを、助けるのよ!?』


陽奈『@沙羅 あなたに言われるまでもありません』


スマホを握ると、陽奈は再び前を向く。


「ねぇ、陽奈ちゃんと沙羅ちゃんって、やっぱ仲いいよね?」


一連のやり取りをスマホで見ていた葉月が、小声でそっと咲良に耳打ちした。


「だな」


咲良がクスリと笑みをこぼす。が。


陽奈からじろりと肩越しに睨まれてしまい、二人は慌てて窓の外へ目を向けるのであった。



──タクシーの車内。LIMEで共有された地図を確認した山里は、窓の外へ目を向けた。


「運転手さん、もう少し先で停めてもらえますか?」


「分かりました」


古い戸建てがぽつぽつと建ち並ぶ、閑静な住宅街。料金を支払い、タクシーを降りた山里は周りへ視線を巡らせた。


「えーと……地図だとこの辺りにあるはずだけど……」


スマホ片手に、舗装が行き届いていないアスファルトの道路を歩く。


「あ……これかな?」


二階建ての小さな一軒家。錆びて変色した門扉と、ひび割れて穴だらけのカーポート。申しわけ程度の狭い庭は雑草が生い茂り、まるで空き家のような印象を山里は受けた。


首を捻りながらも、スマホで建物の写真を撮りLIMEにアップする。


山里『アトリエに到着したんですが、ここで間違いないでしょうか?』


沢村『@山里 そこです。私が知っている頃より、ずいぶん荒れ果てているようには見えますが……』


山里『@沢村 ですね。ボロボロの空き家にしか見えません。人の気配もなさそうです』


沢村『@山里 カーポートに車はないですか?』


山里『@沢村 ありません』


沢村『@山里 なら、そこにはいなさそうですね。彼、アトリエへ行くときは必ず車を使っていましたし、その辺りに路上駐車できる場所もありませんから』


山里『@沢村 なるほど』


咲良『@山里 とりあえず、少しのあいだそこで待機してもらえるかな、山里君? 入れ違いでやってくる可能性もあるから』


山里『@咲良 そうですね。じゃあ、少し離れたところから監視してますね』


咲良『@山里 うん、お願い!』


やり取りを終え、スマホを上着のポケットに突っ込んだ山里は、周囲をぐるりと見渡した。


お……自販機がある。寒いし、温かいコーヒーでも飲みながら見張るとするか。


かじかむ手を擦り合わせながら、山里は足早に自販機へ足を向けた。



――車の助手席で小さく息を吐いた沢村は、スマホを握ったまま前を向いた。


「アトリエはハズレだったか」


ミニバンのアクセルを踏み込みながら、エイジが言う。


「はい……山里さんが送ってくれた写真を見るに、最近はあまり使っていないのかもしれません」


「なら……こっちが本命かもしれねぇな」


「そう……ですね」


沢村がかすかに俯き、目を伏せる。そして、唇をきゅっと噛んだ。


「私が……私がもっと早く、彼の本性に気づけていれば……!」


「いや……でも、まさかこんなことしでかすなんて、つきあってた頃は分からなかったんだろ?」


「それは……そうなんですけど……」


「あんたが責任を感じることはないと思うんだけどな……っと。沢村さん、あのマンションか?」


幹線道路沿いに建つ、五階建てのマンションをエイジが指さす。


「あっ、そうです」


マンションの前、歩道へ少し乗り上げるようにして車を停める。


「何号室だ?」


「たしか……三〇五だったと思います」


車から降りた二人は、足早にマンションのエントランスへ向かった。エントランスに入ってすぐ、集合ポストの前でエイジが立ち止まる。


「どうしました?」


「一応、確認しとかねぇとな」


エイジが三〇五のポストを開け、中にあった数枚の郵便物を手に取る。


「宛名は……どれも井ノ原陽介。間違いなさそうだな」


沢村が静かに頷く。郵便物を再びポストに戻し、二人でエレベーターへと向かう。古い低層の賃貸マンションだからか、オートロックもなければ管理人もいない。


目的の部屋へは、スムーズにアクセスできた。


「沢村さん。ドアの前に立ってチャイムを鳴らしてもらえるか? ドアスコープで見られる可能性があるから」


見知らぬ男より、元カノである沢村のほうが井ノ原も油断するはず。そう考えた上での提案だ。


頷いた沢村が、チャイムのボタンに指を伸ばす。細く長い指が、かすかに震えていた。一瞬目を閉じた沢村だが、覚悟を決めて勢いよくボタンを押した。


ピーンポーン。


ありふれたチャイムの音が、室外にいる二人の耳にも届いた。少し待ったが何の反応もないため、沢村がもう一度チャイムを鳴らす。


相変わらず、誰かが出てくる気配はない。


「いない、みたいですね」


「……そうだな」


エイジがしばし考え込むような顔になる。そして、おもむろにドアの鍵穴をまじまじと眺め始めた。


「エ、エイジさん、どうしたんですか?」


「古いタイプだな……なら、いけるかもしれないな」


エイジは「少し待っててくれ」と言い残して車に戻ると、三分もしないうちに戻ってきた。


「エイジさん、いったい何を……?」


「沢村さん、階段のあたりで誰も来ないか見張っていてくれ」


ドアの前でしゃがみこみ、鍵穴に細い針金のようなものを挿すエイジ。その様子を見て、沢村は彼が何をしようとしているのか気がついた。


「エ、エイジさん、それは……!」


「これは俺が勝手にやったことだ。あんたは関係ない。ほら、見張りを頼む」


沢村が諦めた様子でその場を離れる。階段のそばに立ってエイジのほうへ向き直り、頭の上で丸を作った。


それを見たエイジが、鍵穴に挿した針金を細やかに動かす。


「少し固いが……よし……何とか……」


丁寧に動かす右手に伝わった、かすかな振動。エイジがドアの取っ手を掴み、そっと手前へ引っ張る。


「よし、開いた」


階段のそばに立つ沢村へ手招きする。そして、二人は井ノ原の部屋へ足を踏み入れた。が。


「く、臭い……! 何これ……!?」


沢村が堪らず顔を顰める。同じく顔を顰めていたエイジが、玄関の照明スイッチを押した。


「こりゃ……酷ぇな。ゴミ屋敷じゃねぇか」


廊下に溢れるゴミの山。土足のまま上がり込みキッチンに目を向けると、食べかけのコンビニ弁当やらカップラーメンなどが、腐ったまま放置されていた。


「おいおい……いくら男の一人暮らしって言っても、あんまりじゃねぇか? もともと、だらしないヤツだったのか?」


「い、いえ……。どちらかというと、几帳面なほうだったと思うんですが……」


「とてもそうは思えねぇけどな……」


ゴミを踏み潰しながら廊下を進み、部屋のドアを開く。真っ暗な部屋の中、パソコンのモニターだけが青白い光を放っていた。


エイジが部屋の照明をつける。


「ベッドにデスク、パソコン。ずいぶん質素な部屋だな」


「まあ、たしかに物は少ないほうでした」


ちらかった部屋に足を踏み入れた二人は、パソコンのそばへ近寄った。そして、同時に息を呑む。


デスク背後の壁。コルクボードに貼りつけられたいくつもの写真。そのすべてが、制服を着た樹里の写真だった。


険しい顔のまま、二人はパソコンモニターを覗き込む。映し出されているのは、制服や私服姿の樹里。盗撮したものであることは明らかだ。しかも、スカートの中を撮影したものまである。


「こりゃあ……間違いないな……!」


「は……い……!」


慄くエイジの隣で、沢村が唇を震わせる。樹里に対する異常な執着を目の当たりにし、二人はしばらく呆然とそこへ立ち尽くした。



――十メートルほど先に見えるスレート造の建物。車の運転席に座る明日香は、助手席の桐絵と視線を合わせて頷いた。


「あそこね」


「はい」


周りには、同じようなスレート造の工場が所狭しと建ち並んでいる。住宅街に隣接しているものの、この区画はちょっとした工場地帯になっているようだ。


明日香はハザードをつけて車を停めると、ポケットからスマホを取り出した。


明日香『@ヒロト 機材倉庫に到着しました。あと、どれくらいで着きそうですか?』


ヒロト『@明日香 すみません、近道しようとしたら工事渋滞にハマっちまって。でも、十分はかからないと思います』


明日香『@ヒロト 分かりました。現地のすぐそばで待ってますね』


やり取りを終えスマホをポケットに戻す。前方に目を向けると、数台の車が列をなしてこちらへ向かってきていた。ルームミラー越しに、後ろからも車が迫る様子が確認できる。


「狭い道なのに、ずいぶんと車の往来が多いのね」


「住宅街に隣接していますしね。明日香さん、ここに停めていると邪魔になるかもしれません」


「そうね。ちょっと別の場所に駐車してこようかな」


「じゃあ、私はここで降りておきますね。ヒロトさんを待ってなきゃいけないですし」


「うん、そうしてもらおうかな。桐絵ちゃん、ヒロトさんが来るまで絶対に近づいちゃダメよ?」


「はい」


桐絵を降ろした明日香は、「すぐ戻るから!」と一言残しその場をあとにした。明日香の車が見えなくなると、桐絵は周りへ視線を巡らせつつ、井ノ原の機材倉庫へと足を向けた。


明日香さんはああ言ったけど……悠長にはしてられない。今、こうしているあいだにも、ジュリちゃんが何か酷い目に遭っているのかもしれないのだから。


桐絵が機材倉庫の前に立つ。シャッターの横には、アルミ製の開き戸。そっと近づいた桐絵は、開き戸のドアノブを静かに掴んだ。


……鍵がかかってる。


ドアに顔を近づけ、聞き耳を立てた。中に誰かいるような気配は窺えない。倉庫の横、車一台くらいなら余裕で通れそうなスペースを歩いて裏手に周った。


「……!」


桐絵が視線を向ける先。そこには、LIMEで情報共有されていた、井ノ原の車が停められていた。体を少しかがめるようにして、忍び足で車に近づき中を窺う。


運転席はもちろん、助手席にも後部座席にも人の気配はない。桐絵は黒い車のボンネットにそっと手を触れた。


まだ、温かい……! 


車から離れ、機材倉庫に目を向ける。桐絵の目に、勝手口らしきドアが映り込んだ。またまた忍び足で近寄り、ドアノブに手を伸ばす。


掴んだドアノブを捻ると、するりと回転した。


「……! 開いてる……!」


桐絵は音を立てないよう慎重にドアを開けると、息を殺して屋内へ入った。


天窓から光が差し込む屋内には、撮影で使用するであろうさまざまな機材が雑然と保管されていた。


息を殺したままゆっくりと周りへ視線を這わせる。広々とした倉庫内、向かって右の奥。大型のソファに目を向けた桐絵の体が氷のように固まる。


そこには、栗色の髪の女の子が無造作に寝転がされていた。


「ジュリちゃん!」


慌てて駆け寄った桐絵は、コンクリートの床に膝をついてジュリの肩を揺さぶった。


「ジュリちゃん! 大丈夫!?」


樹里に反応はない。が、きちんと呼吸していることだけは確認でき、桐絵はわずかに安心した。


……特に目立ったケガはないし、衣服に乱れもない。よかった……何もされてないみたいだ。


とりあえず、のんびりはしていられない。一刻も早く、彼女を連れてこの場から逃げなくては。


横たわる樹里の半身を起こそうと、背中へ手を回したそのとき──


「何をしてるんだい?」


倉庫の中に響く無感情な声。桐絵が弾けるように背後を振り返る。


そこに立っていたのは、桐絵もよく知る人物だった。


「あ、あなた……! 井ノ原さん……!」


これまで一度も見たことがない、冷たく不気味な色を宿した瞳。


桐絵はその目を、真正面から睨みつけた。

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