最後の時
すみません、間の話が思いつかなくて、思いっきり飛んで最後です。
ごめんなさい。
セティルは龍の傍へと歩みだす。龍の姿は蒼く美しい鱗に覆われ、白銀を思わせ透き通る様な鬣から覗く艶やかな角と黄金の瞳、巨大な芸術品の様な佇まいで龍はセティルを見詰めていた。
「やっと、逢えた……」
セティルの想いを噛みしめる様にゆっくりとそして力強い囁きに龍もまた神妙な面持ちで言葉を紡いでゆく。
「……遂に来てしまったのだな」
「ええ、そうよ。すべて終わりにしましょう」
「本当に、いいのか?確かに辛い事も多かった筈だが、ここまでの旅路で人々と交わり生きたいと思わなかったか?あのまま旅を続けても良いと思っただろう?」
「そう、確かに思った………でも解っているでしょう、あなただって……私だってあなたの気持ちが解るのだから……」
セティルは確かに旅の途中、生き続ける事を一時願った
でもそれは誤りだったことも悟っていた。
そして、この龍の問いかけは、悲しくも愚かで優しい龍の願いでもあることを知っている。
「すまない、意地悪だった。セティル、君が来たらちゃんと君の望む通りにすると決めていたのに、つい、欲が出てしまったんだ」
「いいのよ、解っていたもの」
そう、知っているのだ、セティルは龍の想いの根源が自分に生きていて欲しい、イヤ、死なないで欲しいという願いから来た過ちである事も、全て………
「……さぁ、終わりにしましょう」
「ああ、そうだな……本当にすまない」
謝りながら龍は"フッ―"と息を吐いたかと思うと龍とセティルの間に"金色の炎"が生まれ、龍とセティルを包み込んでいった。その炎は爛々と輝きながら天に手を延ばすかの如く昇って行く。
「ううん…私の方こそありがとう」
不思議とその炎は熱くないようで。こんなにも近くで美しく輝いているのに、炎はディルの皮膚を焦がすことなく寧ろ暖かい優しささえ感じるものであった。
(あの日、あなたが私を助けてくれなければ私は死んでいて、こんな事は起こらなかったでしょう……あなたと最後を迎えるなんて……)
そしてセティルはもう一人自分の事を心配してくれていたディルに向き直った。
「ありがとう、ディル今まで本当に楽しかった……ながい間生きて来て最後にあなたという友が出来て、生きる希望を持ったわ、あなたのおかげ」
「じゃあ、もっと生きればいいじゃないか、なあ」
ディルはずっと言いたかった言葉を口にする、あの龍がセティルの死の願いを止められない以上ディル自身セティルの意思を曲げる事はできないと解っているのだ、それでもディルは言わずには居れなかった。炎に包まれたセティルと龍をディルは見つめる。セティルの金色の髪は"黄金の炎"に溶ける様にして揺り動き彼女の深い緑色の瞳が炎に包まれて尚色を失わずにいた。蒼い鱗だった龍は炎の輝きを纏い煌く紫や深い緑といった色で輪郭を染めている。
「ダメよ、私は生き過ぎてしまったし、ここで歩みを止めない限り私はきっとまた同じ事を繰り返すもの」
(それでも、それでも良いじゃないか……俺達は、人間だ、みっともなく生にしがみついたって、いいじゃないか、それが、人間ってものだろう………)
この思いをディルは口に出す事は出来なかった、セティルが人間として死ぬことを望んでいるのだと気づいてしまったから。
「………っ」
「……ありがとう」
返す言葉を失くすディルにセティルはディルの呑み込んだ言葉を察して一言だけ感謝の言葉を残す。
遠くから龍の心臓を狙ってやって来た兵隊達の足音が洞窟の中に響いて来た。
「我らが王に龍の心臓を捧げるのだっ行けっ!行けーっ‼」
掛け声と共に兵士達は龍を取り囲むが輝く炎に包まれた龍を前にして固唾を呑んで見守るばかりであった。
「何をしている!早く龍を始末するのだっ炎などに怯むなっ‼」
罵声とも言える怒号に気圧され兵士達が次々と襲い掛かって行くのだが"金色に輝く炎"に触れた瞬間その炎は兵士達を呑み込み肉片すら残さず消えていった。
「何だっ!?どうなっている?」「どこにいった?!」
兵士達は口々に今、目の前で起こった事を認められずに恐怖にも似た怯えを孕んだ声で消えた仲間を探そうと首を巡らせている。
兵士達の不安と恐怖は全体に広がりもう誰一人としてそれ以上動くこともできず、ただ目の前の龍を見ていることしか出来ないでいた。
龍とセティルを包む炎は輝きを増し二人の輪郭さえ消えてしまう。金色だった炎は白銀を思わせる白い煌きが混じっていく。そして炎は輝くでも煌くでもなく目が眩む程の光を放ちだし、暫くすると更に光は強くなった、かと思うと光は少しずつ弱まって行った。
光は龍とセティルの居た辺りで球体を作り光は消える寸前もう一度だけ強く光り、そして消えた。
辺りは異様な沈黙に包まれ岩肌の見えていた筈の洞窟は白い砂で覆われ、今も尚中空を白い砂が煌めきながら漂い、ゆっくりと、舞うのだ。
その真ん中でぽつんと、大きな一つの石の様な楕円形のまるで卵のようなそれが白い砂の上にあった。
ディルはそれに逸早く気が付き卵の側へと歩み寄り、それに触れた、それは暖かかった。
(これは、龍のたまご、なのか?)
その事に気付いた兵がディルからそれを奪おうと遅い来る。今の今までディルに対して見向きもしていなかった兵隊達が一斉に、ディルに向かって剣を振り上げる。
(マジかよっ)
ディルは襲い来る兵隊達を見て顔をひきつらせながらそれでも卵の様なそれを庇うように抱えた。それを放り出して仕舞えれば兵隊の剣から逃れる事が出来るだろう、だがしかし、ディルにはそれが出来なかった、ディルの抱えているそれが暖かさを備えて、ドクンっ、ドクンっ、と、力強い命の鼓動を感じるそれを見棄てる事が出来ないのだ。兵隊達が眼前に迫りディルが固唾を飲んだ瞬間、そこへ、唐突に新たに漆黒の龍が現れ自らの尾で近くの兵を薙ぎ払うとディルとディルが抱えているそれ共々掴み空高く飛び立って行く。
「おわっ、え?っわぁ〜〜〜〜!!」
ディルの悲鳴を置いて……。
月日は流れ、季節は廻り巡って、龍と少女の物語は人々の間に今尚時折語られる夢物語……
その物語を好んで語り続ける老人が一人。
キャラバンの長老である彼は今日もこの物語を話すため広場の焚き火の傍らに陣取っていた。
毎日のように同じ話を語っているのに不思議と子供達は足繁くこの老人の語る物語を聞きにやって来るのだ。そんな中で今日は珍しくキャラバンに居合わせたであろう旅人がやって来た。一人は黒い髪に金色の瞳の逞しい男とその男に連れられ子供が二人、双子の様で、だが、それぞれ瞳のいろが金色と緑色の瞳を合わせ持っていた、髪は男の子が金髪、女の子は白銀に近い青みがかった色であった。三人の珍客に長老は暫く驚いていた様子だったが、子供達はそれを客人が珍しいだけなのだろうと気にも留めず話を急かした。
その場にいた子供達は気付かなかっただろう、この時長老は双子の子供を見て、眉毛で覆われている瞳を見る事は出来ないが、その眉を涙で湿らせていた。
昔々眠っていた龍を目覚めさせた少女が居た。少女は初めて目にした龍に………
老人が物語を語り終え子供達もそれぞれの家族の居るテントへ戻り、残ったのは老人と不思議な事に三人の旅人だった。
先に口を開いたのは旅人の方、一言だけ言い終えるとその場を後にしていく。
「…約束は果たした。」
「――やはり、あの時の…嗚呼…嗚呼ぁ……」
老人は、何度も頷きながら何も言葉に出来ない、老人は嬉しさと自身の半生に今までの想い、そして何より彼女の想いが報われたのだと感じていた。
人知れず、そのキャラバンでは誰も知らない龍の物語の続きが、語られるようになったという。




