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圭は目が覚める。
どうやら無事だったようだと自分の体を見ながら無事というのを再確認する。
流れが緩やかな浅瀬。
どうやら下流の方へ流されてきたようだ。
カンッ!カンッ!と何か叩いている音が聞こえる。
圭は人がいるのかもしれない、と思った。しかし、一応、熊などに気をつけるために静かに近づくことにした。
小屋があった。
木造のログハウスのような建物が建っている。
家というよりも小屋だ。
そのくらい小さい。
圭「…ん?」
圭は小屋のとなりで木を叩いている人を見つける。
年は同じくらいの少年だった。
髪が白い。
こういうところで声をかけるのはどうもやりにくい。
この山奥である。
もしかしたら相手を驚かしてしまうかもしれない。
大きな声でいっても、近づいて声をかけても結果は同じだと思ってしまう。
それゆえにやりにくい。
「誰だ!」
圭「…!」
しかし、こちらから声をかける機会はなくなる。
少年が圭の方を見ていた。
圭「えっと…あの…」
突然そんなことを言われて考えていた言葉が全て飛んでいく。
脳内で言葉を組み立てるのにはもう少し時間が必要だ。
しかし、少年は圭を疑う。
「刺客ですか!まさかここがバレるとは。ここにいる以上僕が全力であなたを倒す!」
少年は走って圭の方へ向かってくる。
手には木刀。
圭「ちょっ…俺は…」
「おい!刺客!隠れてないで出てきなさい!」
圭「…」
結局、どうにもできずに逃げて茂みに隠れる。
木刀で殴られるのはごめんだ、と圭の判断は早かった。
ただ逃げ足が早いと言ったら終わりである。
しかし、隠れるのも時間の問題ではないだろうか。
相手は刺客と思うほど躍起だっている。
そもそも常人には刺客などという言葉は使わない。
ともすれば常人ではない。
「見つけたぞ」
予想以上に早かった。
茂みに隠れる圭を見下ろしている。
圭はちょうどいい木の棒が目に入る。
登山者の使ったものだろうか、綺麗に真っ直ぐ伸びた丈夫そうな棒である。
とりあえず圭はそれを右手に持つ。
弁解できるなら、と圭は言う。
圭「お、俺の名前は本田圭。ただここに迷いこんだだけなんだ!」
「…!」
しかし、それは逆効果だった。
「本田…!徳川の守護神…!?」
そして、少年は構える。
怒りの形相で。
「この小早川秋次…。一族の積年の恨み…今こそ果たします!」
小早川秋次。
圭は真っ先に師匠の秀康が思い浮かぶ。
(一体どういうことだ?)
そう思うが、それ以上考えている暇はない。
圭「ちょ、ちょっとまて」
秋次「言語道断!小早川!」
秋次は全く聞く耳をもたない。
秋次は思いきり刀を構える。
その隙に秋次から距離をとり構えた。
秋次「風の刃!!」
秋次は思いきり刀を振り切った。
するとそこに風の旋風発生し、それが圭へと飛んでいく。
かなりの力である。
風が目に見えるほどに。
圭「オオオオオオオォ…!」
圭は旋風の真ん中を叩き斬る。
かなりの風圧に手が痺れを起こす。
圭「ハァ…ハァ…」
ただの木の棒にはやはり限界があるのだ。
あと一発来たら耐えられない自信が圭にはある。
秋次「さすが本多一族」
そう言うと秋次は構えに入る。
先程よりも右足を後ろに下げ、重心を固める。
圭でも大きいのが来るというのが分かる。
秋次「小早川…風の…」
ドォオン!と土煙があがる。
秋次「なんだっ!」
圭「…!」
黒い影が圭と秋次の間に現れる。
そして、あっという間に秋次の振り下ろそうとする木刀が折れる。
土煙が消えていく。
圭「師匠…!」
圭たちの前に立っていたのは秀康だった。
秀康「ふう…。危うく生活費がパーになるとこだったわい」
秋次「お、おじ上!なぜとめるのです!」
圭「おじ上…」
やはり師匠の孫だったのかと圭は納得する。
秀康「やめろ」
秋次「な、何故です!こいつは東軍の…」
秋次は秀康の命令口調に少し怯むが執念で言葉を返す。
秀康「馬鹿者が。もうこやつは東軍でも西軍でもない…」
秋次「じゃあなんだと言うんですか。こいつは本多。徳川の守護神なのですよ!?」
秀康「こいつは第二の関ヶ原を止めるために修行しに来たのじゃ。徳川家とは今は何の関係はないわい」
秋次「第二の関ヶ原を!でもこいつは…」
秀康「お前は積年の恨みに飲み込まれすぎじゃ。力では秋次、そなたの方が上じゃが、心はこいつの方が上じゃな」
秋次「…っ!」
秋次は言葉が出なくなった。
秀康は圭の背中をポンポンと叩いた。
圭「すみません。秋次くんの積年の恨みって何なんですか?」
圭は少し気になったのでこの機会に聞くことにする。
秀康「それは…」
秀康が言おうとした瞬間。秋次がそれを止めた。
秋次「僕がお話しましょう」




