第48話 勇者は現実という無理ゲーの中で国家権力への復讐を誓う
ダークゴブリンの老人自宅地下の部屋。
俺は今、老ゴブリンの計らいにより現実世界に関する資料が詰まったこの部屋にいる。
引きこもりだった俺はおろか、現実世界にいるほとんどの人間の目に触れることはないであろう資料が俺の目の前に広がっている。無機質に見える文字の数々はしかし、それを丁寧に読み込んでいく者に真実を知る力を与えてくれる。中には現実世界で消えてしまったもの、記録さえされなかったものが俺の目の前にはある。
一体なぜ俺はここにいるのか?自問する。俺は元々ただの引きこもりだった。いったんレールから外れると将来設計すらままならなくなる、いや、レールに乗っても7~8割が将来設計自体危うくなる今の日本では中学生の段階で俺は負け組貧困層行きが確定してしまっていた。その俺の目の前に、現実世界ではたぶんごく一部の特権層くらいしか知らない事実が書かれた書物・資料が自由に手に取れる光景が広がっている。狐につままれたギャップのありすぎる目の前の光景は、新世界が現実世界の延長線上でしかなかったと絶望していた俺にここが現実世界とは違う場所であると確信させてくれる初めての場所となった。
かび臭いにおいと時が止まったような静かな空気が充満している薄暗い部屋は、現実世界でも新世界でも理不尽な現実の中を行軍することを余儀なくされてきた俺にささやかな安らぎと安寧の空間を保証してくれていた。ここは心地よい。
図書館に似た部屋は、ほとんど勉強したことのない俺に、学問の重要性を無言のうちに教えてくれていた気がした。同時に、俺は無我夢中で資料を読み漁っていた。
これほど膨大な資料をすべて読み通すことはさすがにできない。だから俺はひとまず各資料の中にある目次で気になった個所を抜粋して読むことにした。
そして、ある報告書らしきものが棚の中でふいに目に留まった。
題名「超人族支配層の地球上における支配戦略1 地球歴2026年7月報告書」。その目次を調べていくと、“超人族という種族の支配戦略”という項目があった。俺はそのページをめくって読んでみる。
“超人族共の歴史とは偏に同族であっても自らの権力維持の単に劣等とみなした者をいかに合法を装って処分できるかを工夫してきた歴史である。処分対象は、上位層に服従せぬ異端的価値観を有する存在、自ら思考し行動できる存在、疑問を持つ存在、精神に疾患を有する者、身体が欠損している者、生産性なき者、犯罪者などである。”
“再分配とか権威主義批判など、一見上位層批判をしているように思われる者は大抵上位層側のスパイである。これらは超人族とその仲間の人間の間でリベラルと称するものがよく使う手口であり、洗脳を主とする宗教カルトもよくこの手口を使う。なお、再分配をせよ、などと主張する者に限って実際にはまず再分配を行うことはない。むしろより悪質な専制支配を他人に強制する。彼らの目的は一貫して他人の奴隷化である。”
“超人族上位層は己の権力を社会の全階層に向かって維持し強要するために、一切の独立的思考を破壊し自らの奴隷にすることをもくろんだ。そしてそれは2026年現在、成功し始めている。超人族は本目的を達成するために手段を選ばず、地球上の社会規範とされていることを公然、非公然両方で破ることも辞さない”
“超人族は大衆を弾圧する先兵としてマフィアやカルト宗教の病的教祖や信者などの犯罪組織・病理集団を使う。彼らは自我がないか、または進んで超人族に従うことを自らの名誉と倒錯する奴隷道徳の持ち主であり、または前述した一見リベラルで体制批判的なように見える左派系の者たちも、いわば”権力公認の反体制派“でしかなく、それらは権力筋・情報機関と一体の関係にある。権力、カルト、表面上の体制批判派、これらは三位一体である。”
“前項の目的を達成するために超人族上位層は演劇の手法を応用した劇場型心理工作の手法を編み出した。これは左右すべての組織に自らの工作員を送り込んでそれを乗っ取るか、左右の組織を両方自ら作り上げて、表面上対立しあっているかのような演出をすることにより、背景を知らない大衆をそれらどちらかの組織に加入ないし支持をさせることで大衆の自由意思をどちらに転んでもはく奪することを可能にした。これはまた、真に超人族上位層にとって危険とされる人物をおびき寄せてあぶりだし、真の反体制派を特定して各個撃破という形、または取り込んで飼い殺しにして無力化するという形で弾圧するための罠も兼ねている。”
“一見弱者を救済するとしている奴らの真の狙いは、弱者を自分たちに依存させて半永久的に依存させることである。間違っても弱者を自立させるということは奴らの権力欲から決してあってはならず、弱者が自立すると途端に奴らは弱者に冷淡な態度を示すことが共通して見受けられる。”
“超人族征服後の地球は一度たりとも戦争がなくなったことはなく、地球全体を巻き込んだ2度目の破滅戦争(地球上の言葉では第二次世界大戦と呼称されている)が集結した後においてもごく平凡に見える日常のなかでもなお超人族共の戦争は一貫して続いている。”
サトシは悟った。ダークゴブリンのスパイが記録したこの本をわずかに見たにすぎなくてもこれだけで分かった。自分を虐げていたのは存在しない魔王でもなければモンスターでもエルフでもない。
それは国家権力だったのだ!!権力が寄ってたかって普通の人生を送りたかった俺の人生に勝手に生産性がないなどと言いがかりをつけやがったのは税金をむさぼって弱者を虐げるしか能のねえクソ権力どもだ!!!そしてそれらの背後で国を超えてやりたい放題の暴虐を繰り返す殿上人ども!!!!絶対許さねえ!!!!俺は復讐するぞ!!!!!それも異世界での復讐ものなんかじゃねえ!!!現実世界でだ!!!!
昔パーティを追放された勇者が仲間とか国王とかに復讐するとかいうラノベが流行ったが、あんなもんは所詮内輪の自己満足に過ぎねえ!!!!あれらは政治から不満をそらせるためのプロパガンダでしかなかったんだ!!!!
俺は違うぞ!!!!!
現実世界という無理ゲーの中でクソカルト、クソ宗教、批判者面して権力と癒着するクソリベラル、それらと組んで俺らを虐げるクソポリ公、そして国家権力とその上の殿上人ども!!!!!!!!!こいつらを必ずなぶり殺しにして地獄以上のものを目に見せてやる!!!!!!!!
この日、僕は権力によって作られた無理ゲーRPG”ウラニウムクエスト”の主人公“勇者サトシ”を卒業した。
真実を知ることで、俺はやっと自我のない奴隷から“人間”に戻れた・・・・・。なら現実の中で苦しんでいる他の人々の心に“人間”を取り戻させてやる!!!!
今日この瞬間から俺の冒険記録の題名は次のように変更になった。
“勇者は現実という無理ゲーの中で国家権力への復讐を開始する”
俺はこの日から復讐のための鍛錬と計画を練り始めた。
俺の真の戦いの日々はここから始まった!!




