彼女を助ける唯一の方法! のはずだよね?
「そ、そんな……」
「助ける方法は一つだけある」
「何、何なの? 俺、神門臣を助けられるなら何でもする」
巨大化した俺がニヤッとした。
「待っていたぞ、その言葉!」
「え?」
突然、俺の身体が強い力で持ち上げられた。
巨大化した俺の唇が目の前にあり、思わず悲鳴を上げた。
「お前に俺の能力、魂の一部を託す。それで俺は大人しく人形の中に封じられてやる。だから、嫁を、俺の嫁を助けてくれ! 我が名は風魔小太郎」
その言葉と共に身体中に熱風を受けた。途端に、上昇気流に身体がもっていかれ、何も分からなくなった。
☆☆☆☆☆
「香月くん」
神門臣の柔らかい声に目を開けた。目の前の湖は、さざ波が立っている。横を向くと神門臣が横座りになり、乱れた髪の毛を直している。
「神門臣、無事か」
起き上がろうとして、頭を押さえた。頭がガンガンする。
「まだ無理しない方がいいわ」
「一体、何があったんだ」
神門臣がリュックから人形を取り出した。綿で出来ている手のひら大の人形の人相を見てゾッとした。
「それってさっきの侍じゃないか」
「そう」
神門臣が大きくため息をついた。
「忍者ね、正確に言えば。彼の魂を人形に封じ込めてあるから」
「どういうこと?」
「わたし……くよう人形師なの」
「くよう人形師?」
「さまよえる魂や悪霊を、作った人形に封じて、供養する。それがわたしの役目」
「まさかそのためにいつも人形を作ってたの」
神門臣がやり切れないと言う風に頷いた。
「毎日毎日、人形を作っては封印し続けて、あと一人で終わる。くよう人形師としての役目も終えられるはずだったんだけど……」
「もしかして、その最後の一人って」
「そう、この人形の中に入っている風魔小太郎。でも彼の魂が全部入ったわけじゃないから」
「どういうこと」
「香月くん、風魔小太郎と何か話をした?」
「えっと……嫁を、俺の嫁を助けてくれって言われた」
神門臣の顔色がさっと変わる。
「まさか承諾したの」
「仕方なかったんだ。神門臣を助けるために」
「わたしを助ける?」
「そうだよ。神門臣は、さっき死にかけてたんだ。それを助けるために……」
「ああ、なんてこと」
神門臣が狼狽しだした。
「わたしは死にかけてない。奴の忍術にかかって気を失っただけ」
「そんな、まさか嘘だったのか」
「だまされて契約させられたのね」
「契約って?」
「風魔小太郎の嫁を助けるって契約よ」
神門臣がそう言った時だった。背後に気配を感じた。瞬間、俺は自分でも信じられない速さで起き上がり、神門臣を片手に抱え、跳躍した。空を飛びながら、俺が寝ていた場所に棒きれが突き刺さるのが見えた。空中に向け、また棒切れが飛んできた。それを片足で跳ね上げ、右手でキャッチすると、棒が飛んできた方向へと素早く投げ返した。悲鳴が上がった。
「何すんだ、変態」
甲斐の声にギョッとした。歩道に甲斐と透子の姿がある。砂の上に着地し、神門臣を下ろす。甲斐が叫んだ。
「神門臣、離れろ、博美くんは変態だ」
どうして俺が変態なんだよ。心の中で反論したはずだった。
「失礼だろ、俺は変態じゃない」
朗々とした声が口を突いて出た。
「神門臣さんとキスしてたじゃない」
透子が金切り声を上げた。
「それは……」
俺じゃなくて、風魔小太郎に乗っ取られた俺だ。と言いたかったが、また心とは別の言葉が口をついて出た。
「当たり前だろ。俺達つき合っているんだから」
「嘘よ」
透子が叫んだ。しかしその声に被るようにクールな声が響いた。
「本当よ」
甲斐も透子もびっくりして見ている。神門臣がにっこりとほほ笑んで、俺の腕に自分の腕をからませてきた。
「ね、香月くん」
「か、神門臣?」
喉に熱球のようなものが上がってきて、言葉を詰まらせた。そんな俺の耳元に神門臣が唇を近づけた。「わたしが、くよう人形師だってことは秘密にして。代わりに小太郎との契約をとくのを手伝うから」
「えっ、ええ!!」
神門臣は甲斐と透子と合流すると、何事もなかったかのように歩き出した。
しかし、その後黙々と歩き続けたにもかかわらず、結局、3時間でゴールにつかなかったのは俺達の班だけで、心配して探しに来た先生たちに見つけられ、みじめにも車に拾われた。もちろん、スタートが遅かったことなど、みっちり怒られた。
怒られながら、神門臣をちらりと見やる。そこからは何の表情も読み取れない。
神門臣洋が、くよう人形師だなんて知らなかった。そんな彼女と共に、風魔小太郎の嫁を助ける。そんなこと霊媒体質の俺ができるんだろうか?
大きなため息がもれる。
ああ、俺はどこまでも班行動についてないらしい。
(第一部 完)




