フラッシュ・オブ・ライトニング
「この階層、天井が高くて拓けてて良かったわね」
白い炎が渦巻く横で、私は肩の上のティティに話し掛けた。
ミシュティとベイリウスは植物採集に出掛けて姿が見えない。
カン、カンと規則正しい音が響き、時折アマネが出した魔力水で冷やされる。
最初は私の髪色由来の緑がかった金属は、剣の形を成すにつれ紫色に変わっていった。
「紫……?」
「紫だねェ?」
銀紫と言ったらいいのだろうか。
その剣はジリジリと小さな音を発し、青白く放電しているように見える。
「んー、雷属性になってる……?」
「アマ君は火属性って感じだけどォ〜、雷なんだねェ」
ティティが面白そうに回転して、羽根をパタパタさせた。
「多分火が一番得意なんだとは思うけれど、基礎値が高いからどの属性でもあの子は使えそうな感じよね」
「ふうん。フレスベルグはァ〜、風属性が苦手って言ってたけどォ……私は火はあんまり得意じゃないなァ」
「言われてみたら、ティティみたいな妖精って火魔法あんまり使わないわね」
「うん。羽根が燃えちゃうからねェ〜」
「え、そういう?」
「そうだよ? 使えるけど、使わないだけェ〜」
なるほど、小さな妖精が広範囲で火魔法を使うと自分が危険なのか。
羽根は薄くヒラヒラしているから、よく燃えそうではある。
魔力で出来てるから再生はするけれど、ちょっと時間がかかるから燃えないほうがいいのは確かだ。
(身体全体が魔法構築なのに、火がつくのか……)
確かにゴブリンやティティ達は火傷もするし、怪我もしている。
いったいどういうシステムで外傷を負うのだろう。
痛みも感じるようだし、妖精って本当に謎生物だわ。
そんなことを考えていると、アマネがモソモソと動く気配がした。
「あ、終わったの」
「疲れた〜、力が抜けた感じがするー」
アマネの顔色はやや悪い。
幼児ではないがまだまだ子供だし、魔力も大人ほど効率的じゃないし量も多くないから相当消耗したと見える。
(魔臓も多いし魔脈も綺麗に広がってるけれど、まだ未成熟だからね)
「座って休憩しなさいな。何か食べるものは持ってる? タマゴサンドならあるわよ」
「ちょうだい、お腹空いた」
「今日は特別よ。あ、ミシュティが作った唐揚げもあるけど──」
「食べる食べる!」
私は鍛冶台の横に小さなテーブルセットを出し、アマネに栄養補給をさせることにした。
「オレンジジュースがあるけど、ティティも飲む?」
「飲むゥ〜」
柄はレスターが大量に持っていたので、アマネが握りやすい物を事前に自分で選んでいる。
私はレスターに渡された柄を手に取り、内側に小さな魔法陣を魔力だけで焼き付けた。
「ヘェ~、魔法ペンも要らないのォ? 魔法だけで魔法陣ってすごいねェ」
「長年の研鑽の結果よ。よし、表面部分だけ絶縁できたわ。これでいいんでしょう?」
レスターは柄を受け取りながら、満足そうに頷いた。
「表面のみの絶縁加工……内側は干渉なし、完璧だ。柄合わせが済んだら仕上げ研ぎに入るが、あと三時間ってとこだな」
「じゃ、今日はこのまま野営ね」
私はテーブルの上にカフェオレとクッキーを出し、研ぎに入る前の剣を見せてもらった。
やはりうっすらと紫がかった仕上がりだ。
そして青白い放電がある。
「何故か性質が紫電になったな」
「これは良い剣ね、本当に」
アマネはクッキーをかじりながら、メモ帳に書いては消し、書いては消しを繰り返している。
「よし! 剣の名前はフラッシュ・オブ・ライトニングにしよう」
『カッコイイ~』
(…………長い)
まあ、本人の剣だしそれで良いならいい。
ものすごく頑丈だし、一生物になるんじゃないかな。
いずれフラッシュ・オブ・ライトニングも魔剣になるだろう。
好みの武器は違うかもしれないが、片手剣は一番汎用性が高いから一本は良い物を持つべきだと思うし。
「明日は九十九階層だな。そこを降りれば店がある」
「アマネさん、奥に池がございまして、食べられそうなお魚が──」
「釣る! 行こう、フレ兄ー」
あっという間にレスターと私以外の全員が魚を捕まえに奥へと去っていった。
「やれやれ、賑やかねぇ」
「いいんじゃないか。たまには遊びも必要だ、ダンジョンでもな」
呆れた私の言葉を受け、レスターは顔を上げず、剣を研ぎながら呟いた。
研ぎが進んだ刃がギラギラと輝き始めている。
「よくそんなの素手で触れるわね、痺れないの?」
「魔耐泥で作った軟膏塗ってる」
「へえ、あれはなかなか良いものよね。塗った部分が絶縁体になるもの。結構珍しいと思うんだけど、いつ手に入れたの」
「…………」
「なによ」
「数百年前にジューンが作ったやつだぞ。轟雷天羊を狩った時に」
「え、そうだっけ。轟雷天羊狩りは覚えてるけど……」
「まあ、興味ないことを覚えていられないのは何となくわかるが……」




