純エルフコミュニティ①
翌朝五時、私たちは予定通り龍便に乗り込んだ。
「会合は、コミュニティのほぼ全員が参加だと思うのよ」
「というと、二百人くらい?」
「え、純エルフって言ったってもっといるんじゃないのー?」
「メイサ、自分の入ってるコミュニティの概要すら覚えてないの?」
「え、うん、いや……うん」
私は送られてきていた冊子を改めて広げ、ざっと目を通した。
概要というか、メンバーになる条件に変わりはなさそうだ。
純エルフであること。
コミュニティが定める最低魔力をクリアしていること。
コミュニティが定める魔力操作技術を所持していること。
「特に条件に変わりはないみたい」
エルフの中でも、相当魔法が得意じゃないと入れないのが純エルフコミュニティである。
「今回の会合はなにかしら」
「収支決算報告、新規メンバー、退会メンバーの告知……いつも通りよ」
ちなみに退会メンバーは死んだエルフだけである。
どうして死んだのかは、いちいち誰も聞かないけれど。
「黄色いリボン持ってきたのよ、つけるべき?」
初めての会合にウキウキしているメイサが、ゴージャスなリボンを見せつけてきた。
「あのコミュニティの会合で、黄色ルールって見たことなくない?」
「そうね、いつも一触即発」
「じゃあいいか」
「毎回死者が出るから、身体強化はしておいたほうがいい」
ミッチェルが真面目な顔で、メイサに言い聞かせた。
その後は特に何もなく、私たちは駅から出てそのまま会場に転移した。
『えー、現在の会員数は百二十三名。前回から今回までの退会者は三十八名となります』
エルフたちが雑に並べられた椅子に座り、司会の言葉を黙って聞いている。
『収支はお手元の資料にあるように、四件のお見舞金、会場料金、維持費──』
(二千年で死んだエルフが三十八名か……)
報告を終えた司会からバトンタッチされた男性エルフが話し始めた。
『会計のローヤルです。当会が把握しているエルフの総数は、二千を切っています。把握しきれていない部分込みで多めに出した数字です』
「へえ、意外と少ない?」
「エルフ絶滅も間近か」
「ふーん」
『一方、ここ千年で生まれたエルフは五十名あまり。出生率は大幅に上がってきています』
メンバーたちは、意外な数字に少しざわついた。
『ですが、エルフが大幅に減少していることに変わりはありません。そこで当会といたしましてはこの状況を打破すべく、デジュカにあるエルフ幼年学校への寄付を行いたいという案があります。お手元の資料、八頁をご覧ください』
パラパラと紙をめくる音が響き、会議に飽きたのか二人が席を立ってどこかに行った。
『特別に道徳の講師を招き、些細なことで殺し合うという日常を子供時代から変えていこうという試みで──』
「無理じゃない?」
「どうやって?」
「いや、子供のうちに刷り込めば──」
「バカバカしい、その教えを守ったほうが殺されるじゃん」
「先手必勝でしょ」
「金の無駄だぞ」
「エルフに他種族由来の道徳とか……冒涜では?」
四方八方から攻撃魔法が飛び交い、壇上は破壊された。
ローヤルは障壁を張ったので、無傷だ。
『誰ですか即死魔法飛ばしたのは……危ないからやめてください。ではこの案について可否を取りたいと思います』
幼年学校への寄付は、満場一致で否決された。
『もう一つの案は、幼児たちがよりスマートに生き残るための講師招聘です。課目の候補は心理戦、暗殺、情報戦、総合謀略などを想定しており……』
「あ、そのほうがいい」
「それならアリ」
「いいんじゃない」
こちらの案は満場一致で可決された。
『では、予算には限りがあるので課目の可否を』
「幼児だからな……総合謀略がいいんじゃないか」
「心理戦がいいと思うなー」
「暗殺しかないでしょ」
「いやいや、情報だろ」
「は? 総合謀略だろうが」
会場は騒然となり、あちこちで爆発が起き始めた。
『そこで、この世界を一万年以上無敗で生きてきた先達であるジューン嬢にお話を伺いたいと思います』
「え、私?」
全員が私を見る。
(全員消してやろうかな……めんどくさい)
一瞬物騒な考えが脳裏を掠めたが、私は常識的なエルフなのでにっこり微笑んで周囲を見渡した。
騒がしかったエルフたちは、全員無言で椅子に座った。
痛いくらいの静寂が訪れる。




