書簡
食器の触れ合うかすかな音。
(冬ってどうしてチョコレートケーキが美味しいのかしら)
ひよこ島でのオヤツは、最近チョコレートケーキが多い。
ラズベリーソースを忍ばせてあったり、栗が入ってたり……同じものが続くことはないけれど。
今日のは甘さが極限まで控えられ、オレンジリキュールがきいた大人の味だ。
「これ、最近食べたなかで一番好きだわ」
「お口に合って良かったです」
ミシュティは嬉しそうに尻尾を立てた。
外は久しぶりに雪が降っている。
私はしばらく雪の散るさまを眺め、窓から目を離した。
「最近何か変わったことあった?」
「先日、アマネさんをお迎えに来たフレスベルグ様を指示通り龍島にお連れしました」
「ああ、虫取りした日……」
「デストロイヤーさんは、フレスベルグ様のウルトラソウルさんより大きくて、悔しがってました」
「あ、でもフレスベルグのはアルビノの魔光剛蟲でしょ? あれ珍しいのよね」
「大きい方がいいらしいです。それで、後で報告書をお持ちしますが──フレスベルグ様とロペさんが打ち合わせをしました」
「ああ、よかったわ。面会を頼まれてたから気になってたの」
珈琲を注ぎ終わったミシュティは頷き、一歩下がった。
「龍人のお子さまは、他種族より教育が難しいそうです。とても活発なので……」
「基礎能力が高いからでしょうね」
「ロペさんが言うには、コケットの集団にコカトリスが紛れ込んでるようなものだと……」
「ぷぷ、それくらい元気なのね」
「物覚えはいいし、素直でとっても可愛いですよ」
(岩に埋められるレベルの鉄拳制裁を食らいたくないから、ミシュティに対してはいい子でいると……)
まあ、全然問題児って感じじゃなかったし、ミシュティとは相性がいいのかもね。
「それで、元気が良すぎて家庭教師が長続きしないらしくて」
「なるほど」
「ロペさんの奥様が、結婚前にネザリス学府高等部の教師だったということで家庭教師をお願いする形になったようです」
「龍人の家庭教師なら、フレスベルグも安心でしょうね」
私は書斎に向かい、ソフィーを撫でながら机に向かった。
手紙が溜まっているので、開けてみないと。
「チラシばっかり……もう、アドレス魔法陣変えちゃおうかな」
数千年同じアドレスだと、不要なものばっかり届くようになるのよね。
どこの世界にも情報漏洩があるって、本当だわ。
(でも、変えたら変えたで面倒なのよね。そうだ、要らないものは片っ端から拒否設定にしよう)
私は要らないチラシ類をブラックリストに入れ、納得することにした。
カルミラからの私信には、ラウバッハに会いに行くから一緒に来いと書いてある。
そろそろ魔王の決戦の地を借りる算段が整ったようだ。
了承の返事を送り、他の手紙をチェック。
「カイから……この封筒は、結婚式ね」
プロポーズすると言ってから数ヶ月。
(アルシアの結婚式について、メアリに聞いておかないといけないわ)
私は喜んで出席すると返事を書いて、彼の最寄り書簡所へ銅貨を添えて転送した。
カイのように、個人でアドレス魔法陣を持っていない者の方が圧倒的に多い。
そういう人たちは各地にある書簡所で手数料を払い、手紙を出したり受け取ったりする。
この招待状は、辺境の家のポストに直接投函されたものだけれど。
アルシアの人にアドレスを教えたことはないから、全て拠点からの転送になる。
(差出人側のアドレスは秘匿出来るし、なかなかいいシステムよね)
書簡を出す側はお金がかかるけれど、受け取りは無料。
基本的に週に一回配達してもらえる。
急ぎの用には向かないけれど、かなり合理的で親切なシステムだと思う。
もちろん、トラブルはあるが。
領主直営の書簡所だと、危険物サーチの魔法陣が常設されてるから出す時にチェックが入る。
書簡所に届く手紙類も、サーチ魔法陣の上に集積される仕組みなので危険物は受け取り拒否で弾かれる。
けれど田舎はそうはいかない。
(呪い付きの手紙で事故が起きることもあるのよね。封筒に入る大きさの呪物もあるわけだし)
書簡所は基本的に各地の商会や個人商店が兼業で担ってる。
当然ながら、当たり外れがある。
なので、大事な手紙は多少割高になるけれど、文官が常駐している領主直営書簡所に出す……というのが庶民の常識。
「チラシ以外──結局二通しかなかったわね」
結婚式、結婚式ねぇ。
メアリの娘も近々結婚するはずだけれど。
アルシアの結婚式って冬が多いのかしらね?
(うーん、特に何月とは聞いたことないし、被ったのはたまたまかな?)
まだまだ、この国では知らない常識がいっぱいありそうだ。




