剛蟲
作業場は広く、いくつかの部屋に分かれている。
革を加工する作業部屋は、このままでいい。
(ホムンクルス製作は……島に入れる人が複数いるわけだから、部屋にきっちり規制をかけておく必要がある)
そんなつもりは無くても、うっかり迷い込んでしまう可能性があるからね。
私がアマンダに提案した古代ホムンクルスは、無菌室でなくてはいけない。
まだそれを作るかどうかわからないけれど、後からまたリフォームするよりは最初から無菌対応可能な内装にしておくべきか。
予定区域の隙間をくまなく塞ぎ、基礎だけは作っておこうかな。
手前の室内は素材や書類スペース。
奥の部屋は培養スペースで、完全無菌。
(うん、良い感じ)
器具や必要なものは、時が来たら出せばいい。
「うーん、今度ね」
気が変わったので、外に出て深呼吸。
相変わらず奇声が聞こえているので、そっちの方に足を向ける。
ミシュティとアマネは、果樹園にいた。
テーブルを出して、そこで騒ぎながら作業中のようだ。
「そうです、ちょっとめくって三枚目の羽……」
「こう?」
「はい。その羽に、壁紙で練習した魔力を送ってみてください」
どうやら、無事に魔光剛蟲を捕獲したようだ。
羽に従属印を刻ませている様子──
(えっ、従属印? そんな高難易度の危険な魔法は早すぎるんじゃ……)
「色が変わったよ、ミシュティ」
「まあ、完璧ですわっ!」
(嘘、成功してる?)
ミシュティがアマネを盛大に褒めている。
トラブルにはならなかったようなので、私は気づかれないよう気配を消して見守ることにした。
「素晴らしいですわ。ですが、この魔法は秘密兵器のように危険です。私がいないときに、使うのはダメですよ」
「うん」
「約束を破ったら、この前みたいに岩の中に埋めちゃいますからね」
「うわ、あれはもう嫌だー」
(岩に!? ミシュティはいったい何を……)
二人は仲良く顔を寄せ合い、新たなペットになった蟲を覗き込んでいる。
「カゴは出来ましたし、デストロイヤーさんの餌を取りに行きましょう」
「何食べるの」
「果物も好きですが、魔光剛蟲は貝が大好きなんです。海岸で貝掘りしましょう」
「やるやるー!」
アマネは大事そうに蟲を入れたカゴを抱え、ミシュティと一緒に笑顔で海岸方面に歩いていった。
「デストロイヤー……ですって? ブフッ」
私はこらえきれず、笑い出してしまった。
ミシュティは蟲にも礼儀正しいのね。
「デストロイヤーさん、うふ、デストロイヤーさんって」
しばらくして屋敷に戻って来たアマネは、問答無用でミシュティに温泉へ連行されていった。
「ジューン、デストロイヤー見ててー」
と言う無邪気な絶叫と共に。
「どれどれ」
カゴを覗くと、標準よりかなり大きい魔光剛蟲が鎮座している。
控えめに見ても、すごく強そう。
ギチギチという威嚇音を聞きながら、私は呟いた。
「従魔になってるじゃないの」
でも、この虫は大きいしギラギラだから隠密行動には絶対向かない。
いったいどう運用する気なのか。
(いや、これは子供のやったこと……ただの虫採り。大人の汚れた目線で見てはいけないわ)
虫採り、いいじゃない?
果物狩り、貝掘りとエンジョイしているようでなによりよ。
私は時空庫から、魔光剛蟲が載っている本を取り出した。
ちなみに著者はネモだ。
魔光剛蟲バトルは年に数回大会がある、割とポピュラーな遊びだ。
ネモはブームの先駆者で、第一人者でもある。
もちろん、フレスベルグも剛蟲バトル大好きだったはず。
ティティもやりたがっていたけれど、魔光剛蟲の方が大きく、食べられかけたので断念したのよね。
今年は勇者イベントがあるから、どんぐりコンテストの方が目立ちそうだけれど。
(アマネにはまだ読めないかもしれないけれど、読みたいって思えば勉強も捗るでしょう)
この本は進呈しよう。
温泉から戻ったアマネは、カゴを受け取りキッチンへ消えていった。
オヤツタイムのようだ。
「ジューン様もキッチンで召し上がりますか?」
チョコレートケーキを切り分けながら、ミシュティは首を傾げた。
「そうね、たまには一緒に食べようかな」
賑やかなキッチンでいただいたチョコレートケーキは濃厚で、ブラックコーヒーがよく合う。
『魔光剛蟲の種類・その歴史』をアマネに渡すと、思った通り大喜びだった。
やっぱり、まだ読めないらしいけれどね。




