提案
アマンダは目を細め、考え込んだ。
「二年もあれば……いいえ、二年しかない。でも、国にとって不可欠な存在にするのはフレッド商会なら出来るかもしれない」
「魔法契約で、ある程度の事情は開示して『家』を守るために必要だとわかれば協力は得られるはずよね?」
「そうね、貴族だから。そこに付け入る余地があると。でも、セシリアはどうなるの?」
「セシリアは多分断罪されると思うの」
「そうよねぇ」
「シナリオ通りなら、王太子と結ばれてハッピーエンドだけど。勉強もマナーもイマイチ、血筋もイマイチな庶子が王妃になれるわけないでしょ」
「それよ、それ。絶対王家から消されるヤツよねぇ?」
「このままだと、王太子ごと切り捨てられるでしょうね、おそらく」
「そうね。現王も政略、側妃様二人も政略。あの王家は逸脱を容認しないと思うわ」
アマンダは紙束を取り出し、ため息をついた。
「攻略対象とやらを、一応調査したわ」
「どうだった?」
「王太子の評判は最悪。他の攻略対象やセシリアに籠絡されていた子息たちは、半々ってとこよ」
「ふうん?」
「三割は本気。婚約者を蔑ろにして、廃嫡まっしぐらコース。七割は都合のいいお遊び感覚で、婚約者とは円満」
なるほど。
七割は、いいように扱える低位貴族の庶子だからと面白がっていただけと。
「実に貴族的ね」
政略とお遊びは別物と言うことだ。
(セシリアは、そこら辺見抜けてなかったのが問題よねぇ)
お花畑状態だった彼女は、全員が自分の手のひらの上だと信じ切っていたが、実際は七割の子息からは都合のいい女扱い。
「世間知らずにも程があるわね、舞い上がっていたにしても」
「そうね……」
アマンダは力無く、私の言葉に頷いた。
(さて、本題にいきましょう)
私はワインを飲み干し、口を開いた。
「セシリアは、卒業パーティ直前にすり替えるわ」
「どうやって?」
「ホムンクルスよ」
アマンダの口がぽかんと開いた。
驚いたのはわかるけど、ポーカーフェイスが台無しね。
「ホムンクルスって……入手は出来るかもしれないけれど難しいんじゃない? バレたら一大事よ」
「バレなきゃいいのよ」
とん、と煙管から灰を落とし考え込むアマンダ。
落ち着かなげに目が泳いでいる。
「バレないホムンクルスなんて、入手不可能よ?」
今の時代のホムンクルスは、見た目は似せられるがイレギュラーに弱い。
構造的にも、怪我をすればすぐにわかってしまうレベルだ。
生きたセシリアと遜色ないホムンクルスはどう考えても無理。
(でも、私には古代のホムンクルスを作る技術がある……これをいかに高く売りつけるかよね〜)
「用意出来るとしたら?」
アマンダのアメジストのような瞳が、硬質な光を帯びた。
重苦しい沈黙が、部屋を満たす。
「時間をくれるかしら? もしそれが可能なら、一考の価値がある」
「ふふ、そうね」
私はそう言って、アマンダに別れを告げて転移した。
(もし古代式のホムンクルスを作るなら、早いほうがいいんだけど)
でも、決めるのは私じゃないから、連絡が来るまで、放置でいい。
「さて、どうしようかな」
西の作業所に、ホムンクルス製作部屋でも作っておくか。
久しぶりに何か作ってみてもいいかもしれない。
龍革を切り出して以来、行ってないから気晴らしになるかも。
「あらぁ?」
作業所前に転移すると、ミシュティとアマネが奇声を上げて網を振り回していた。
聞いてなかったけど、今日はお預かりの日だったようだ。
「二人とも、何してるの……」
「はぁはぁ、ジューン様おかえりなさいませ」
「あっち行った!」
アマネがものすごい速さで走り去っていった。
「今、魔光剛蟲の雄がいまして」
「あ、そうなの。邪魔して悪かったわね」
「では、失礼致します!」
ミシュティもものすごい速さで走り去っていった。
(魔光剛蟲ねぇ……男の子はみんなアレ好きよね)
品評会もあるし、魔光剛蟲バトルもある人気の虫だ。
「ヘラクレスオオカブトを思い出すわ」
魔光剛蟲はギラギラと光ってるし、レーザー撃ってくるからちょっとカブトムシとは違うけれどね。
雄は大きいし、レアなので大騒ぎしてるんでしょうね。
私はクスクス笑いながら、作業所の扉を開けた。




