旧友②
「でも面白い。デジュカの人間は俺たちに慣れてるけど、他大陸に行ってみるのはわるくないな」
ビョルンが満面の笑顔で言った。
「他の大陸は──蛇蝎の如く忌み嫌われてるわよ」
「失礼な」
「確かに誰も寄ってこないよね」
「人間が逆らうなんて……」
イヴォークで遺跡調査をしているリュメイゲが、全員のおかわりを注文してから口を挟む。
「いや、確かに人間たちは寄ってこないが、殺すのはやめて暫く一緒にいると、慣れるぞ」
「忍耐か」
「やっぱり忍耐」
「忍耐……」
「人間たちは寿命が短い分、変わることを恐れないのよ。適応能力が高いの。エルフより、遥かに」
「なるほど……?」
「暫くって? 二時間くらい?」
「さすがに二時間はないだろう、一日くらいは待つべきでは」
「殺すの前提にしちゃダメよ。せいぜい裏からこっそり排除くらいにしておかないと。殺さない方向で」
「なんで?」
「なんで?」
「人間を侮ってはいけないわ。いい? 確かに私たちは強い。でも、過去を鑑みてみて?」
私は火酒を一口飲んで、話を続けた。
「大っぴらに敵対すると、討伐対象になるわ。エルフがいくら強くても、数の暴力には敵わないのよ」
「そうか?」
「一掃するか、毒とかで退治できるんじゃないの」
「その場で全員排除しても、第二第三の討伐隊が組まれるから、長い目で見たら時間の無駄よ」
「それはそうかも……?」
ミオンが首を傾げつつも、なんとなく納得したように頷いた。
「確かに討伐されたエルフはいたもんなぁ」
「うちの父が討伐されてる」
「ブハッ、マジで?」
「あ、うちの伯母も討伐されたわ」
「ほーん」
「触らぬ人間に祟りなしよ」
──エルフの飲み会は、誰も死ぬことがなく平和に終わった。
来月また飲む約束までした。
もちろん、怪我人も居ない。
平和が一番である。
「偏見かもしれませんが……」
ミシュティがリビングで拭き掃除を終えたあとに呟いた。
「ジューン様以外のエルフの方々に、お友達という関係があるのが正直意外でした」
「他種族はそう思ってるみたいね。でも……気の合うエルフ同士は仲良くしてるわよ」
「考えてみたら当然なのですけれど、先入観はいけないですね」
長年の友人でも、揉めたらすぐに殺し合いになるのがエルフだけどね。
(いや、殺意は多分そんなにないのよね。ただのケンカの場合……)
殺傷能力が高すぎて、死者が出るだけと言う方がしっくりくる。
この力加減のおかしさは、超長命種あるあるとも言える。
「この島にエルフを招くことはないから、心配しなくていいわ」
私はそう言って、王都の拠点に転移した。
エイプリルとしては、怪しまれない程度には単発依頼を受けている。
仕事を受けてないのに、王都の部屋を借りていられるのはおかしいから。
怪しむ人がいるとは思わないけれど、念の為だ。
本来のジューンとしては、問題がない。
トラブルも起こしてないし、起こす気もあんまりないのでね。
「アマンダのところに行くにはちょっと早いか」
約束の時間まで、少し間がある。
かと言って出掛けて何かするほどの猶予もない。
(昼寝でもしようかなー)
なんだかナイスアイデアな気がして、小さなベッドに潜り込んで目を閉じる。
さほど必要ではない、と言うだけで不眠な訳ではないので目を閉じれば微睡みがやって来る。
眠りはすごく浅いけれど、うとうとするのは気持ちがいいものだ。
時間になったので、アマンダの秘密の地下アジトへ転移する。
既に人払いがしてあり、着飾ったアマンダが一人女王然として豪奢な椅子に腰掛けている。
「さて、あなたから見てセシリアはどうだったかしら?」
「そうね。都合のいい夢から覚めて、現実を見て震え上がってる無力な存在」
「辛辣ねぇ」
「事実でしょう」
「まぁね」
アマンダは、頭を振ってため息をついた。
「何をやっても『イベント』が起きちゃうらしいのよ」
「うーん、確かにそう言うのはあるかもしれないけれど。本人の今までの行動のせいじゃない?」
「それはあると思う……」
「決定的なイベントって卒業パーティで良いのよね?」
「そう、エンディングって奴」
私は自分が導き出した最適解を提案してみることにした。
「そのエンディングまで到達して、『終わり』にするべきよ」
「ええっ?」
「あと二年、猶予がある──その間にセシリアの家族の安全を盤石なものに仕立て上げるのは可能でしょう? フレッド商会なら」




