来訪
フレスベルグがツツッと横に来て、囁いた。
「あの号外──アマネ、だよな? ありがとう」
私は少し驚いて、フレスベルグを見返した。
こんなまともなことを言うなんて!
もう、子供扱いしてはいけないわね。
「いいのよ」
だが、フレスベルグは半笑いになって呟いた。
「いやぁ、子育てって金かかりすぎて震える」
「そりゃそうでしょ」
「好奇心の塊でさぁ……ネコ美を解体しかかったり、庭にアホみたいな深い穴掘ったり」
「解体?──ホムンクルスに興味あるの?」
「そうなんだよ、元々プラモデル作るのが趣味だったらしくて」
「ああ、それならホムンクルスも絶対好きでしょうね。良いじゃない、同じ趣味で」
「そうなんだけどさぁ」
「でも解体はちょっと困るわね」
ネコ美ちゃんはフレスベルグ渾身の作品ですものね。
解体されちゃたまったもんじゃないという気持ちはわかる。
(ホムンクルス製作って、お金も時間もかかるものだし)
「うん。──それで、ちょっと相談がある」
サロンでは言いたくない、とフレスベルグが言うので解散後にひよこ島に来るようにと言って、私はパーティー会場の輪に戻った。
「しかし、号外が出るとはなぁ」
「魔王組合宛に、正式なオファーが来ているわ。歴代魔王の特集本出したいんですって」
「魔王ウォッチングが?」
「ええ、正確にはアレを出してる商会からね」
「えェ〜いいなァ! かっこいいじゃん」
「利益が出るなら、アリだろ」
「もちろんよ。むしり取るわよー」
「オークションに残骸出して、売れるものなの?」
「アレだろ、ジューンの魔力残滓があるから」
「ああ、コレクター狙った出品……」
「一つだけしか買えませんでした。一瞬で即決価格に達して全部売り切れちゃって」
「え、ミシュティ買ったの?」
「て言うか」
私は我慢しきれず、口を出した。
「収賄記念ってなに? それをいうなら買収記念でしょう」
「えっ」
「あっ」
微妙な空気の中、隅にいたミシュティが近づいて来て、はにかみながら話しかけてきた。
「ジューン様、お疲れ様でした。あの、あのですね……」
「なあに?」
「新聞にサイン書いて欲しいんです……」
そう言って取り出したのは、魔絹の高級そうな袋に丁寧に入っていた三部の号外。
「え、こんな記事に?」
「家宝にしますので!」
「ああ、そう……」
「見る用と、保存用、バルフィの分です」
「ああ、そう。バルフィも……」
私は思わず笑い出し、ミシュティの新たな宝物に一つずつ署名した。
賑やかな収賄記念パーティーが終わり、ミシュティと共にひよこ島へ戻る。
一時間ほどして、玄関先にフレスベルグが現れた。
(──今回はちゃんと玄関の外側ね、障壁掛け直して正解だったわ)
いくら気心が知れていても、前みたいにいきなり屋敷内に転移して来られたらびっくりしちゃうもの。
「こんにちは……」
フレスベルグの影に隠れていたアマネが、恥ずかしそうに顔を出した。
「悪いな。今日はネコ美と留守番させていたけど、連れてきたわ」
──年齢的に留守番が出来ない歳ではない。
が、二人は一緒に生き始めて一ヶ月程度……まだ本質がお互い掴みきれていないのだろう。
(ネコ美に長時間預けておくのは、難しいってことか。想定外の事態への懸念ね、いい判断だわ)
私がミシュティをチラリと見ると、彼女は頷いて満面の笑顔になった。
「ようこそいらっしゃいました。ここにもアマネ様のお部屋があるんですよ、見に行く前にアップルパイでもいかがでしょう?」
「食べる!」
二人が小走りでダイニングに消え、フレスベルグが首を傾げた。
「部屋がある……?」
「ええ、そのうち来るかも?ってミシュティが張り切って内装から自分で整えたの。まあ、使ってなかった小さい部屋だけど」
「ミシュティ、聞けば聞くほど多芸多才じゃね?」
「そうね。二百年就活してたのが不思議よ。引く手あまたでしょうに」
「いやいや、有能すぎるから自分が納得出来ない主人はダメだっただけじゃね?」
「そういうものかしら」
「そうだろ。就職先がないんじゃなくて、就職したいところが無かったとしか思えねーわ」
フレスベルグはそう言って、勢いよくソファーに座り私がハーブティーを淹れているのをじっと眺めている。
「──で、相談って?」




