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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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宝石商も来た


「では、順にご覧いただきましょう」

宝石商は、手袋越しにひとつ目の箱を静かに開いた。


「こちら、星座の輝き。五つの星を象ったブローチでございます。──夜の王宮に咲く花々の間を、優雅に歩まれるお姿を想像して製作いたしました」


ミシュティが「まぁ」と声を漏らし、うっとりと見入る。


二つ目の箱が開く。


「こちらは“月下の誓い”──三日月と星屑を模した髪飾りでございます。

星に手を伸ばす恋人たちの物語をモチーフに、細工職人が一粒一粒、想いを込めて……」


「……あの、これ全部、詩がついてくるのかしら」


思わず私が訊くと、宝石商は嬉々として答えた。


「はい、もちろんでございます。箱の裏に短詩を彫り込ませていただいております。おひとつずつに、かの有名な"星の恋歌スターリリック"付きで」


「詩集だったのね、知らなかったわ……」


三つ目の箱。

今度は、流星を模したネックレス。


「こちら、“祈りのしずく”。夜空を駆ける流星に、願いを一つ──このネックレスは、願いを叶えることはできませんが、想いを添えることはできます」


(……つまり、普通のネックレスってことね)



四つ目の箱。星座を模した指輪が四本。

五つ目の箱、今度は靴のバックルが光る。


「ちなみに、宝石はすべて“対”に仕立てておりますので、お付き添いの方もお揃いでお使いいただけます」


「つまり私も詩つきですのね!」


ミシュティが青いトルマリンのような瞳をパッと見開いた。


いつもより大きな声を出したのが恥ずかしかったのか、少し慌てた様子で一礼してうつむいた。

でも、両手を胸に当てたまま、尻尾が左右に揺れている。

とても嬉しいのだろう。


「ええ、もちろん。こちらは『月の面影』というテーマで……ケット・シーとお伺いしておりましたので、小ぶりに作らせていただきました。ああ、こちらは指輪ではなくブレスレットで──」


嬉しさのせいなのか、ミシュティの毛が逆立って、ふわりと膨らんでいる。

その姿に、宝石商も目を細めた。


見事な青系の宝石たち。けれど、それは──団長の瞳の明るい青ではない。


(……一応、気を遣ってくれてるのかしらね?)


──よくある物語では、平民が『こんな高価なものいただけません』って断るけれど。


実際は贈り物として作らせた宝飾品を、返されたからといって、他で使い回す貴族なんて聞いたこともないし。

素直に受け取らないと、顔に泥を塗ってしまう。


私は優雅にお礼を述べ、執事と宝石商は笑顔で帰っていった。


帰り際、ミシュティが執事から何か冊子を受け取っている。

何事かと思ってみていると、私の視線に気付いたミシュティが恥ずかしそうに冊子を見せてくれた。


「愛♡魔馬倶楽部の入会申込書なんです……先日、メイソンさんの所にユーニウスの馬具を取りに行ったときに、勧誘されまして」


「ああ、ジョンさん主催のアレね──って、入るの?」


「はい!」


ミシュティも魔馬狂いだったか……。

言われてみたら魔馬牧場の育ちだし、当然と言えば当然ね。


まあ、魔馬について語る会だから問題はない。

趣味があるというのは良いことだ。


「メンバーは平民が多いですけれど──まあ!団長様と母君の第二側妃様、正妃様の御子の第二王女殿下。アルエット公爵も会員でいらっしゃるようですわ」


ミシュティが冊子をめくりながら、呟いた。


(うわぁ、私、絶対入りたくない……)


「ミシュティが私に関係なく、個人的に入るのなら良いわよ」


「もちろんですわ。主の迷惑になることは、メイドの矜持にかけて出来ませんもの」


ミシュティは冊子を大切にしまいこんだ。


「さ、ジューン様。宝飾品はジューン様の時空庫にお納めくださいね。このお家には護衛も居ないですし、魔法防御があるとはいえ、高額な小物を出しておくのは不用心ですから」


「それもそうね」


私は有能なメイドのアドバイスに従い、宝飾品を全部片付けた。


「ふふ、夕方になったら冒険者の方のジョンの店に一緒に飲みにいきましょうか」


「ジョン様……先日のゴブリン迷宮の冒険者の方ですわね?」


「そう。王都の外れというか……うちから徒歩3分のところでね、隠れ家的居酒屋をやってるって聞いてて。まだ行ったことないんだけど」


私は王都の街歩きガイドにつけてある、ジョンが付けていった印を指差した。


「あら?ここ、昼間はカフェじゃないです?この前、ここで買ったフィナンシェをお茶請けに出しましたもの」


「そうなの?じゃあ、日中はカフェなのかもしれないわね」


(──あのフィナンシェは美味しかった)


「うふふ、楽しみですわね。午後のお茶はお菓子やめておきましょうか?」


「そうね、せっかくだからお腹を空かせて行きましょう」


ハーブティーを飲んだあと。

出掛ける夜まで自由時間で良いと言うと、ミシュティは入会書類を提出してくると言って、尻尾を立ててルンルンで外出していった。


私はちょっとお昼寝タイムだ。


(──このダラダラした時間こそ至福……)




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― 新着の感想 ―
ミシュティのビジュアルがずっと気になっています。Youtubeにあるプリン売ってる着ぐるみ猫販売員さんみたいな感じ?
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