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人の事情と霊の事情  作者: ゆきまる


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グリグリ3

 田代病院の一室に彼女はいた。人工呼吸器に繋がれた彼女が、そこに横たわっている。側には彼女の家族が見守っており、僕達のような他人が入り込むような余地は、これっぽっちもない。僕達は病室の外で、その様子を伺うことしかできない。

 医者の話によると、生きているのは奇跡的で、意識を取り戻すかどうかは彼女次第であるとのことだ。

彼女は、あややんさんは、病室の中で、ゆーやんさんの両親といる。


「これはいったいぜんたいどういうことでしょうか?」

「どうって、ゆーやんが事故ったという事実しかないだろ」

「清隆先輩が気づいてないわけないじゃないですか。彼女は、ゆーやんさんは、例のグリグリを身につけています」


 あの、気味の悪い贈り物を、身につけているのだ。普通の神経をしていれば、後生大事につけるべきものではないはずなのだが、彼女はそれを身につけている。その違和感にこの人が気付いていないわけがない。


「今回の不幸な事故、恐らくはあのグリグリのせいですね」

「それはそうだろうな。現場にあった嫌な気配も、グリグリから出てたものだ」

「何故そんな危ないものを身につけていたんでしょうか」

「あれがそういう類のものだってわからなかったからじゃないか」

「ミイラの指に付けられて送られたものですよ?霊の関係者じゃない彼女でも、危ないものだと察知するには充分な材料でしょう」


 となると、つけざる、装着せざるおえない理由があったのかもしれない。脅されてか、無意識につけるような暗示がかかっていたか、やり方は今の所不明だが、そういった事情があった可能性がある。つまりは、犯人のいる事案ということになる。


「さて、どこから調べますか?」

「とりあえずは聞き込みかな」

「おや、お得意のデジタルに頼らないのですか?」

「まずは郵便物がどんな形で事務所に転がり込んできたかを調べないと、手の打ちようがない。郵便物がどんなものかわかれば、そこから郵便配達の経路を逆算して、犯人の特定ができるって手筈だ」

「さすがです」

「というわけで、とりあえずキャンリーが所属している事務所へ向かうぞ」

「向かうぞって・・・言うのは簡単ですが、実際に入り込んで、事情を聞くのは難しいんじゃないですか?」

「それもそうだな」

「それなら私に任せてください」


 声のした方向に、僕と清隆先輩は顔を向ける。そこには、涙で目を腫らしたあややんさんがいた。


「ゆーやんさんの側にいなくて大丈夫なんですか?」

「本当は側にいたいけど、私がいたところで、回復するわけじゃない。なら、犯人捜しに協力させて」


 彼女の瞳には決意に似た何かが宿っており、その提案を断ることは僕達にはできなかった。


「わかりました。おねがいします」




 キャンリーが所属している事務所がある場所は、ライブが行われていた所から近い場所にあった。7階建てのビルの3階にある事務所は、お世辞にも大きいとは言えないが、地下アイドルの事務所なんてそんなものなのかもしれない。アイドル事情に詳しくない僕としては、もっと大きな、豪華な感じを期待していたのだが。


「マネージャー、ゆーやんにきた気味の悪い荷物あったでしょう?あれの箱とか残ってない?」

「すいません。あれなら捨てちゃいました。気味悪かったもので」

「それは・・・仕方ないわね。じゃあどこから届いているかわかる伝票みたいのとってない?」

「そえならあるかもしれません。少しお待ちください」


 伝票だけを取っておく必要があるのだろうか?

 普段から取っておいているかのように話すあややんさんに疑問を感じた僕。その視線に気づいてなのか、あややんさんは話しだす。


「昔、ストーカーが怪しいプレゼント事務所に送るって事が頻繁にあって、問題になったの。それから、伝票は保管して、いつでも警察に相談できるようにしているのよ」


 なるほど、アイドルも大変だ。

 そう思っていると、マネージャーさんが帰ってきた。


「すいません、あややんさん。お求めのもの見つからなくて・・・」

「嘘!なんで?」

「おそらく、郵便で届いたものではないのでは?」

「あ、そうね。ファンからの贈り物は郵便だけじゃないものね」

「あややんさん、どういうことですか?」

「ほら、ファンの人達、ライブの後の握手会で贈り物渡す人もいるから」


 なるほど。今回はそういうことなのだろう。

 ゆーやんさんの握手会に来た人達の中に、あのグリグリを忍ばせた人間がいる。


「じゃあ、最近はあのライブ会場しか使ってないから。そこの監視カメラをチェックしていけばいいじゃない」


 そう小声で僕達に伝えるあややんさん。となると、ここにはもう用はない。僕達はマネージャーに感謝を伝えた後、事務所を後にする。


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